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MoMAのガードマン

 MoMAに行った。ボストン美術館と同様、作品のカメラ撮影は一部を除きほとんどOK。といっても撮影禁止の作品はどれだかわからず、少なくとも私自身は構えたカメラを遮られたことは一度もなかった。
 ガードマンは、ちゃんと要所要所に配置されている。飲み物禁止と知らずに持って入ってしまったフタつきのコーヒーカップを鞄の中でごそごそやっていたら、女性のガードマン(ガードウーマン、か)がやってきて、「そうそう、そうやって鞄の中から出さないようにね」と優しく指導してくれた。ぶっきらぼうに取り上げたりしないところが、寛大である。

 美術通でもない私でさえ知っている作品が次から次へと並んでいる。日本の美術展のように作品の前に「立ち入り禁止」の縄も柵もない。もちろん作品に触れることはご法度だが、触れない限りは、どれだけ近づいても制せられることはない。
 120年以上も前にゴッホその人が描いた生々しい絵筆の跡や点描派のスラーのそのまさに点々を、1cmの間近からじいいいっと見つめることができる。これまた日本の美術展のように、立ち止まると後ろの人に押されるような無粋な混み方はしていないので、特等の見物場所を他の人と譲り合いながら、いつまででも眺めていられる。

 ゴッホの「星月夜」はMoMAの一番人気らしく、部屋の真ん中に設えられた壁に1枚だけ、どーんと展示してあって、その壁の横にぴったりとガードマンが張り付いていた。私がカンバスに近寄って行っても、何も言わない。慣れたものである。
 いったんゴッホから離れて他の絵も一回り見て、再び「星月夜」に戻った。先ほどよりもさらに人が少ないので、渦を巻く夜空に吸い寄せられるように、再びずずずぃーっと近づいてみる。ガードマンは私の顔を覚えていたのか、同じようにずずずぃーっと近づいてくる。先ほどよりも大胆な挙動不審に、「オマエ、触れたらタダじゃおかないよ」という声なき声を身体じゅうから発している。しかし、私は前髪がカンバスに触れそうになるくらい近づきながら、決して作品には触れない。ガードマンと私の、無言の応酬が続く。
 ようやくおなかいっぱいになって絵を離れるとき、ふとガードマンと目が合った。私に対する彼の視線は、しかし決して険しいものではなかった。

 別の部屋に移ると、何人もの見物客がしきりに窓の外にカメラを向けていた。野次馬根性で近寄ってみたが、人垣に邪魔されてよく見えない。諦めて戻ろうとしたら、持ち場を離れて窓の方に遠征していた別のガードマンと目があった。彼は小さく首を振って肩をすくめる。そうしてお互い、黙って微笑み合った。
  「あいつら何に夢中になってんのか、全然わからないね」
  「ほんと、窓の外に何が見えてたのかしらね」
 先ほどと同様無言の、でも今度はどこか親密な会話が交わされる。束の間の連帯意識。
 二人のガードマン。それだけで、MoMAが一層身近になった。
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by miltlumi | 2014-09-16 15:10 | NY after 8 years | Comments(0)