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3D Ayumi Hamasaki @TOHO Cinemas Roppongi Hills

3D Ayumi Hamasaki を観た。(説明すると長くなるけど、仕事だったんです)
いまどきのああいう音楽は全然聴かないし、そもそも観衆総立ちで「のってるかーー!?」「いえーーいっ!!」みたいなお決まりの掛け合いが何度も繰り返されるライブってすごく苦手なので、どーしてこの私が平日の真昼間にこんなもん観に行かないといけないのよ、と思っていたが。

すごかった。
Ayuはステージの上で君臨していた。

形のいい脚ときゃしゃなウェストを惜しみなく晒した衣装。長くスリットの入った黒いパンツ姿。
セクシー、だけれども、全然男に媚びていない。
りりしい。女性であること、そのものを自分で楽しんでいる女性を演じている。

ダンサーの男たちは、そんなAyuのまわりで忠実に彼女の引き立て役を演じる。
Ayuより30cmも背の高い男が、優雅に彼女にまとわりつき、そして袖にされる。
当然ながら、Ayuが、一番大きく見える。

「富や名声、そんなものは私が持っています。男は、美しければそれで結構。」
ジャンヌ・モローの名言をふと思い出していた。
# by miltlumi | 2010-09-10 07:57 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

繰り返しの美学

 小学校の頃、国語の授業では「漢字練習」がつきものだった。ノートの大きな桝目に、教科書に出てくる新出漢字を1文字あたり何個も書いて行く。「分分分分分分(改行)谷谷谷谷谷谷(改行)林林林林林林…」という具合に。(ちなみに、この「分谷林」は小学校2年生のときの教科書に出てきた順番そのものです。「ふんたにばやしっ」と大きな声を出しながら練習していたのを兄に笑われたので、よく憶えているのです)
 あまりに一生懸命ひとつの漢字を書いていると、だんだんその漢字が本当に正しいのか、よくわからなくなってくる。谷の下側の「口」は本当に「クチ」だっけ。ふと気付くと、「分」と「谷」と「林」の字がどんどん膨張し、変形し、それに取り囲まれた私の記憶力や判断力を弱らせ、自分が何を信じたらよいのかわからなくなる、そんな頼りない気分に見舞われることがあった。

 大学で選んだ第二外国語はドイツ語だった。英語と比較的似ているとはいうものの、「ゲゲッセン」とか「なんとかヴィッヒ」とか、英語とは違う発音に慣れるのに時間がかかる。とある授業中に、隣の男子生徒がこそこそ声で、「このアンスウェーリッヒ、ってなんて意味だっけ」と教科書の1単語を指差した。Answering。「Answer、答える、の現在進行形だけど…?」彼は英単語をドイツ語と間違えるくらい、コンランしていた(笑)。

 繰り返し見慣れているはずのものが、よくわからなくなる、自分に自信が持てなくなる、ということは今でもある。
 友達との待ち合わせ。少し早目に着いたから、相手はまだ来ているわけはないと思いつつ、近視のせいでただでさえぼんやりしている人の流れを、ぼんやりと眺める。ちょっと似た面影に、来たかな、と思うが、違っている。間違えた人に声をかけたりしないよう、相手の顔を繰り返し思い出してみる。頭の中で画像を思い浮かべる。分分分、…
 谷谷谷、…そのうち、自分が「谷」さんを待っているのか、「林」さんを待っているのか、さらには「谷」さんがどんな顔だったか、どんどんわからなくなる。自分自身に自信が持てなくなってくる。そのうち、見ればちゃんと見憶えのある、懐かしい顔が目に飛び込んでくる。ああそうだ、私はこの人と待ち合わせをしていたんだ。

 繰り返しているとかえって混乱するというのは、修行が足りない証拠かもしれない。永平寺78代当主宮崎禅師がおっしゃっていた。お堂の掃除でもなんでも、毎日毎日同じことを繰り返すことが大切である。一生続ければ本物になる。繰り返しているうちに、本質が見えてくる。
 もはや混乱することがなくなるまで繰り返せば、戸惑うことはなくなるだろうか。待ち合わせをしていて、目の前に龍や蛙が出てきたとしても、それが自分の待っていた人だと、わかるようになれば、本物かもしれない。
# by miltlumi | 2010-09-08 10:24 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

忘れられない言葉-Dog and Cat

 S部長は、「本社戦略部門」といういかめしい部署にいたときの上司だった。「山ねずみロッキーチャック」を思わせる、黒目がちな瞳と丸い鼻の愛嬌たっぷりの顔に似合わず、過激な参謀として有名な人だった。社長直属の機密プロジェクトの陣頭指揮をとったり、全社戦略会議を裏でとり仕切ったりしていた。
 当然のことながら部下に対しても要求度が高い。課長が、働いている妻の都合がつかないので、保育園で発熱した子供を迎えに行くため早退させてほしい、とS部長に申し出たところ、「本社スタッフたるもの、子供ごときで早退するんじゃない!」と怒鳴られたことがある。
 まずいなあ、これじゃ私も産休取りたいなんて言ったら即座にクビじゃないの。社内結婚で夫も近くの職場にいた私は、そんな兆候は皆無だったにも関わらず、一人取り越し苦労をしたものだった。

 しばらくして、社内移動で夫が同じS部長の下に配属されてしまった。けれど(というか、だから、というか)私たちは、産休どころか離婚することになった。家庭のことはお互い会社でおくびにも出さない態度に抜かりはなかったようだ。私からS部長に報告したとき、彼は晴天の霹靂とばかり言葉を失っていた。
 当時は2ヶ月に1度は海外出張するような仕事だったが、離婚後の大きな変化は、私が引き取った2匹の犬をペットホテルに預けないといけなくなったことだった。当時海外出張時には現地での食事代等に充てるため「日当」が支給されていたが、それも2匹のホテル代で吹っ飛ぶ計算となる。

 あるときS部長が、「犬はどうしてるの?」と聞いてきた。彼は、部下に厳しいわりには、飼っているシーズーを溺愛していた。
 「ペットホテルなんですけど、ホテル代で日当が飛んじゃうんですよ。経費請求してもいいですか?」と冗談っぽく(でも半分本気で)言うと、
 「そっかー。そうだよな。経費請求してもいいはずだよな。よし、俺が承認印押すから、出してみよう。経理のやつが文句つけてきたら、言ってやろう。領収書にあるこのDog and Catっていうのは、『犬猫』のことじゃないですよ。『土砂降り』って意味ですよってな。」
 Dog and Cat。大学受験生の必読書であった「試験にでる英熟語」にあったっけ。「土砂降り」という名の会社が経費精算の支払先にあるものか。あったとしてもどういう業種か。大笑いしながらも、S部長なりの配慮が心にしみた。

 それから1年後、組織変更でS部長は私の上司ではなくなり、さらに3年後、私は会社を辞めた。今でも、TVの天気予報で「土砂降り」という言葉を聞くたび、S部長を思い出す。ペットホテル代を気にしながら旅行の計画を立てる必要は、もう無くなってしまったけれど。
# by miltlumi | 2010-09-06 22:29 | 忘れられない言葉 | Comments(0)