セドナ 夜と朝

 セドナは、木がねじまがるほど強力なパワースポットだと聞いていたから、どんなにすごいところなのか、わくわくどきどきだった。

 サンフランシスコ経由でフェニックスからシャトルバスに乗り、着いたのは夜8時。星がよく見えるようにと、街灯を最低限に制限している町はもちろん、周りの風景は、何も見えない。
 お土産屋さんが軒を連ねるメインストリートの起点という立地が便利だろうと選んだホテルは、”The Y”と呼ばれる三叉路の高台に建っていた。タウンハウス形式の部屋にチェックインしてから、備え付けの懐中電灯を手に、敷地内のパブリックセンターに向かう。一段高みにある建物の前では、ベンチに囲まれて焚き火が燃えていた。夜、屋外で木が燃えるのを見るのは何年ぶりだろう。

 火に手をかざしながら、周りを見回す。漆黒の闇。あいにく何のパワーも感じない。でも、見上げればこぼれ落ちてきそうな星空。焚き火と星だけでも十分パワーをもらえそうだ。ひとしきりぐるぐる上下と360度を眺め回す。
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 そろそろ身体が冷えてきて、部屋に戻ろうとして、足元灯にぼんやり赤い岩のそばを通り過ぎようとして、…来た。あ、ここだ、と思った。みぞおちがふと重くなる。パワーが、来ている。足がはたりと止まる。改めて姿勢を正す。ものすごく有難い気持ちになる。自然と涙が流れる。

 実は成田を発つ直前、昔の仕事仲間と久しぶりにランチをしていて、ひょんな話から彼が明日目黒不動にお参りに行くことを知った。私がセドナに着く頃だから、あちらとこちらでパワー交信しましょう。唯物論者が聞いたら顔をしかめそうな、サイキックな会話を交わした。

 地図か読める女であるところの私は、ホテルの案内図とセドナの地図を脳裏に思い浮かべる。今、自分がちょうど西を向いていることを確認する。この場所から、カリフォルニアを越えて太平洋を隔てて、日本の方角だ。銚子沖から東京に入り、山手線の南西のほうの目黒を思い描く。
 セドナのパワーを、送る。

 翌朝7時過ぎに起きてカーテンを開けると、まだ日は射していなかった。山に囲まれて、日の出が遅いのだろうか。部屋からセンターへの歩道 に出た途端、息を飲んだ。
 赤いグラデーションの岩山が、朝陽に赤く照り輝いている。これがセドナか。ぴりりと澄んだ、元旦のような冷気の下で、改めてセドナに来訪の挨拶をする。身体全体が真っ白な繭で包まれるような、平穏で満ち足りた気持ちになる。
 セドナパワーが、私の存在すべてをまるごと包み込む。
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 昨夜パワーを送った赤岩の 脇に来て、西を振り返ると、意外にも平凡な緑の小山の稜線しか見えない。
 あとでわかったのだが、小山のすぐ向こうは、セドナ4大ボルテックスの一つ、エアポートメサが鎮座していたのだ。ホテルから徒歩でも30分で行けるそのパワースポットには、6日間の滞在中、結果的に3回足を運ぶことになった。


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# by miltlumi | 2017-12-30 16:00 | セドナの奇跡 | Comments(0)

逆算の結果

 近頃、なにかにつけて「逆算」するくせがついてしまった。
 
 内田洋子というジャーナリストのエッセイにハマっていて、一番最近読んだのは「イタリアのしっぽ」という題名である。犬、猫、その他ペットにまつわるあれこれが書かれていて、その一節にラブラドルレトリーバーが登場する。
 これまでの私の人生、半分以上は犬と一緒、という大の犬好きだが、7年前にミニチュアダックスフンドのミルトとルミそれぞれ14年の生涯を見送って以来、犬なしの一人暮らし。
 レトリーバーか、と思う。かすかに心が動く。あの手の大型犬は、まだ飼ったことがない。一生に一度は飼ってみたいな、という気がしないでもない。

 と、ここで逆算が始まる。
 もしもこれから飼う犬が、ミルトルミと同じくらい、ざっくり15歳まで生きるとしたら、その犬が天寿を全うするとき、私は、…70歳。
ななじゅっさい~!? やばい。老老介護じゃないか。
 飼うなら、今すぐ。1日でも1時間でも早く飼い始めなくては。
 やばいやばいやばい。

 再び、内田洋子である。
 20代前半からイタリアで暮らす彼女は、ヴェネチアやサルデーニャ島にふらりと出掛けたりしている。ヴェネチアは一度行ったことがあるが、サルデーニャ島といったら、永遠の憧れではないか。
 2001年にCREAの「地中海の島」特集を見て、サルデーニャ島かマジョルカ島かマルタ島か迷いに迷った末、英語の通じるマルタ島にした。十字軍の基地だったあの島も、ものすごくサイコーによかったのだが、サルデーニャ島への未練はいまだに引きずっている。
 でも、イタリアへの直行便は潰れかかったアリタリアしかないし、ローマかミラノからさらに飛行機に乗らないといけないし。
 それに、なんだかんだで3回行ったことのあるイタリアより、マチュピチュとかウユニ湖とかアラスカクルーズとかフィンランドのオーロラとか、行きたいところは他にも色々ある。

 ここでまた、逆算である。
 勤続30周年のご褒美に夫婦でマチュピチュに行った兄が、「あそこは歩くから足腰に自信があるうちに行ったほうがいい」と言っていた。オーロラは、真冬の北国でしんしんと零下の夜に、出るか出ないかわからない自然現象を幾晩も待つことになる。寒さに耐えられる体力のあるうちに行かないと。
 そう考えると、この手の場所は65歳くらいまでに行っておいたほうが安全。そして、長期の海外旅行が出来るのは、せいぜい年1回。ということはつまり、あと10回…。
 やばい。やばいやばいやばい。
 のほほんとしているヒマはない。所要体力順に行きたい場所の優先順位を決めて、しかしかと計画的にこなさないと、気づいたら行けるのはバリアフリーの先進国だけ、ってなことになりかねない。
 
 というわけで、逆算すると、あれもこれも「いつかね」などと言っている場合ではない。やりたいことを思いついたら、すぐやるしかない。
 というわけで、手始めに明日から、セドナに行く。スーツケースに入れた本は、内田洋子の「ミラノの太陽、シチリアの月」。

追伸:
犬のほうは、思い立ったときに旅行するのに、ペットホテルだなんだと面倒である。
そもそも、ミルトルミ以上の犬が現れるとも思えない。
というわけで、レトリーバーは見送りになりそうだ。


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# by miltlumi | 2017-12-18 22:04 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)

憧れのドーナツ屋さん

 うちの最寄りの地下鉄の駅では、不定期でミスタードーナツの出店が出る。
 夕方から夜にかけての帰宅時間。幅180cm ほどの仮置きテーブルの前で、5つで600円、あるいは9つ1000円のどちらにしようか、人々が思案している。
 ああ、ドーナツ屋さんになりたいなあ、としみじみ思う。

 無事どちらかを選んで、横長ボックスを受け取る人は、スーツ姿のサラリーマンだったり、おしゃれなファッションに身を包んだ若い女性だったりする。だいたいがちょっと照れくさそうに、でもちょっと嬉しそうに、箱を抱えて足早にその場を去っていく。
 ドーナツを買う。しかも1つ2つではなく、片手に余る数のドーナツ。家族3人分か、友達のホームパーティーへの手土産か、あるいは全部独りでヤケ食いか。いずれにしても、そこには必ずや、アンビバレントな思いが交錯しているにちがいない。
 砂糖と小麦粉と油という、最高にカラダに悪い組み合わせの食べ物を大量購入し、消費しようとする、うしろめたさ、背徳感、そしてその禁をあえて破ることへの開き直り、爽快感、Indulgence(耽溺)。

 Indulge、という単語は、トロントで働いていたときに同僚とよく行ったDenny’s(日本にもあるあのファミレスは、米国発祥である)で覚えた。ブラウニーの上にチョコレートアイスクリームが乗っかり、さらにチョコレートソースとチョコチップがたっぷり振りかけられた最強のデザートが、「Indulging Chocolate Fudge 」という名前だった。
 20代だった私は、メタボ気味な同僚の羨望の眼差しを浴びつつ、「Indulging myself…」とつぶやきながらぺろりと平らげたものである。
 
 会社の近所で韓国人がやっているドーナツ屋さんでは、「オレンジクルーラー」が定番だった。クルーラーといっても、ミスタードーナツにある、菊の御紋が風車になったような、噛むとふしゅふしゅっとする、あれとは全く異なる。サーターアンダーギーのタネを3つまとめてワラジ型にして揚げたような不定バクハツ形で、絶対1,000kcalは越えていたと思う。
 カナダ人が皆帰宅してしまった後、静まり返ったオフィスで残業しているとき、ふと思い立ってオレンジクルーラーを買いに行く。「夕飯食べられなくなりそう」などと申し訳程度につぶやくと、お店のおばさんは、「Don’t worry! Be happy!」と、いかにもカナディアンな笑顔を向けてくれた。

 日本のミスタードーナツは、昨今の健康志向のおかげで、すっかりライトになってしまった。それでも、寄る年波で「○○食べ放題」で元を取るのが難しくなってしまった一人暮らしの身には、5つセットも、ちょっときつい。

 だからせめて、あの香りに包まれて、つややかなチョコレートコーティングや華やかなスプリンクルやこんがりココナッツフレークをまとったドーナツを心行くまで眺めていたい。
 嬉し恥ずしの表情で、そわそわ、いそいそと買っていく人たちに、あの韓国人のおばさんのように、「Don’t worry! Be happy!」と声をかける。言われたお客さんは、ぱっと目を輝かせて、にっこり笑う。
 それが仕事だったら、毎日楽しいだろうな、と思う。


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# by miltlumi | 2017-11-27 09:36 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)