友人のAさんと一緒に、彼女のだんな様(B氏)が出演するライブを聴きに行った。二人は、ライブが終わったその足でクルマで羽田に乗り付け、最終便でタイに飛んで、翌朝タイ人の友人の結婚式に参列するという。かなりの強行軍である。 「アンコールがさくっと終わればいいね」 久しぶりのライブの音を楽しみながらも、時間が気になって途中で腕時計を外してしまった。が、そんな心配をするまでもなく、アンコールの2曲目が大喝采の中フェイドアウトすると、かっきり9時半。 余韻に酔いしれる彼女と私の横で、B氏はそそくさと楽器を片付けて荷造りすると、車を取りに近くのパーキングに走って行った。 なかなか戻ってこないな、と思っていると、ライブハウスの電話が鳴る。B氏からだった。パーキングから車が出せないから、2人で来てほしい、という。 クルマが出せない? 2人で来てって、どういうこと? アタマに「?マーク」をいくつも浮かべながら現場に向かうと、精算機の電源が根こそぎ落ちていて、うんともすんとも言わない。 「管理会社に電話したんですか?」 「何度電話しても誰も出ないんだよ! あ~っ、これじゃあ飛行機乗れないよぉ!」 B氏が声を荒げるのは、めちゃめちゃ珍しいことだ。実は、私にとってB氏は、「こういう人と結婚したらシアワセになれるだろうな」リストのトップ3に入る憧れの男性である。物知りで器用で、最安値の家電選びから家具の組み立て、生活上の難題解決はもちろん、不測の事態にも慌てず騒がず、冷静に迅速に対応できる、頼り甲斐満点のタイプなのだ。 その彼が、アセっている。ヤバい。 「えーっ、車出せなかったらどうなるの!?」 有事はB氏に頼り切りのAさんが、さらに慌てる。私は念のため、看板に書かれた管理会社の電話番号にかけてみる。じーっ、じーっ、じーっ。出ろー、このー。 B氏は、管理会社より自力本願である。 「だから、この板、2人で踏んだら動くかもしれないから!」 えっ。そんな。機械でしか動かないんじゃ…。とはいえ、B氏に従ってみるしかない。Aさんが運転席に座り、B氏と私がロック板に乗っかる。電話の呼び出し音が途切れる。 「はい、〇〇管理会社です」 出た! かくかくしかじか、状況を説明する。 「これから羽田に行かなきゃいけないんです! 飛行機乗り遅れるわけにいかないんです!」 B氏が乗り移ったように私が叫ぶ。 「それなら、板に乗ってください。ちょっと動くでしょう。それで乗り越えちゃってください」 えっ。そんな。やっぱりB氏の解決策が正しいのか。だったら電話した意味ないじゃん。 「踏めって、言ってます!」 「よし! せーのっ」 うんしょっ、と二人で踏むと、数㎝ロック板が沈む。 「ゆっくり進むんだ! もっとゆっくり!」 B氏がAさんに指示を出す。じわっ、じわっ。後輪が板に乗り上げかかった途端、かくっと板の抵抗が消え、べたりと沈み、すいーっと車、脱出成功。 「やった~! 出ました! ところでこれ、とーぉぜん、駐車料金はタダですよね!」 思わず強気の発言。 「あ、はい、結構です」 かくして、車をライブハウス前につけ、キーボードその他をちゃっちゃか積み込み、二人は羽田へと走り去ったのだった。 テールランプに手を振りながら、私は思った。 コインパーキングって、ああすれば(文字通り)踏み倒せるじゃん…。 ググってみたら、「コインパーキングの不正出庫で罰金10万円」みたいな書き込みがぞろぞろ出てきた。…そうだよね。監視カメラで全部撮られてるもんね。後から追跡されるに決まってるよね。 であれば、あのとき電話で強気の“料金交渉”をして、ちゃんと「タダ」の言質をとった意味は、あったわけだ。いや、でも、あんな緊急事態、悪いのは管理会社のほうだ。料金払いたくたって、機械が動いてなかったんだし。ぶつぶつ。 翌朝。Aさんから、余裕で最終便に間に合い、無事常夏のスワンナプーム国際空港に到着した、というメッセージが入った。おしどり夫婦は、タイの若きカップルににこやかに祝福を贈っていることだろう。 ▲
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| 2018-11-20 22:38
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「ここは、いい思い出しかない場所だ」 ふわりと、そんな思いが浮かび上がる。思ってみて、改めてそうであったことに気づき、一層あたたかな気持ちになる。 ちょっとした仕事の山を越えて、自分に何かご褒美を、と考えたとき、「ホテルの朝食ビュッフェ」というアイディアを思いつく。 若い頃とちがって「食べ放題」で割り勘負けすることが多くなり、このところの旅行でも、ホテルはわざわざ「朝食なし」プランばかり選んでいた。でも、クロワッサンやシナモンロールやペイストリーや、フレンチトーストにマフィンにパンプディング、オムレツにカリカリベーコンとベイクドポテト、ブルーベリーヨーグルトとエトセトラエトセトラ…。 うう、よだれ。たまにはカロリーやコレステロールや食後の膨満感への懸念をかなぐり捨てて、好きなものを存分に楽しんでしまおう。 というわけで、うちから一番近い「朝食ビュッフェ」を提供するホテルまで、ママチャリ漕ぐこと10分弱。朝から黒塗りのタクシーがずらり並んだ正面玄関に堂々と乗り入れ、ベルキャプテンに「自転車はどこに停めればいいですか?」 オマエ、ホテルにママチャリで来るなよ、みたいな侮蔑の表情はみじんも見えず、「どうぞこちらへ」とカウンターのすぐ横の柱の特等席があてがわれる。 にっこり笑って自動ドアを入って、思い出した。このホテルには、いい思い出しかない。 ホテルというのは、旅先の宿泊というだけでなく、人と待ち合わせたり食事をしたり、終電を気にせず夜遊びをするときのセーフティネットであったり、あるいは手軽な非日常体験のための異空間であったり、実に様々な使い道がある。 そうした様々な用途のレパートリーにXを掛けた数だけ、思い出がある。あの人と待ち合わせたあのホテル、あの人から待ちぼうけをくらったあのホテル。あの出来事の後に一人泊ったあのホテル、あの悩みに向き合うために何泊もこもったあのホテル。 「あのホテル」がいっぱい。プラス、マイナス、合計してプラスのホテルもあれば、マイナスばっかりで「験が悪い」と自らを出入り禁止にしたホテルも。 そんな中で、このホテルは、そういえば、特上の思い出しかない。 久しぶりに足を踏み入れて、あの頃のことが堰を切ったように胸の中に溢れ出す。 週末の朝、一人客など店の端っこに座らされるかと思ったら、一番窓際の、雨に濡れた緑とオープンテラスを望む明るいテーブルに案内された。コーヒーが、たっぷりのカフェオレカップになみなみと注がれる。焼き立てのパンケーキにメープルシロップ。朝刊と読みかけの本。至福の時間の始まり。 3杯目のコーヒーを飲み干して立ち上がったのは、それから3時間も経ってから。 このホテルでの「いい思い出」がまた1つ増えた。 ▲
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| 2018-06-23 13:29
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ホームパーティのメニューは、作り慣れた料理に限る。 部屋の掃除や普段使わないワイングラス洗いやテーブルセッティングで、ただでさえてんてこ舞いするのが目に見えているのだから、せめて料理は手堅くいくのが常套手段である。 それなのに、このたびのイベントではちょっと魔がさして(?)、1度も作ったことのない料理をメインにしてしまった。といっても「チキンとリンゴのサワークリーム煮」という、名前を聞いただけでネタバレするような簡単なもの。 手羽元と書いてあるのに、骨付は食べにくいからと鶏もも肉にし、玉ねぎは輪切りより薄くスライスしたほうがリンゴが際立つとか、勝手にどんどんレシピを変えてしまう。挙句の果て、決め手のはずのサワークリームをなめてみたら、すごく酸っぱい。レモン汁を半量に抑え、念のためソースを別立てにする。 幸い、ソースともどもお客様には好評だった。「どこのレシピですか?」と訊かれ、「レタスクラブ」と答えながら、それが30年近く前の雑誌だということに、我ながら驚愕する。 その頃はトロントに赴任していて、日本の親元部署から月に1度、好きな雑誌を何冊か航空便で送ってもらっていた。赴任者は日本語に飢えるだろうから、という心遣いである。男性赴任者は、奥様のために「家庭画報」や「ヴァンサンカン」をリストに加えていた。そんな中で、独身の私は迷わず料理雑誌。 学生時代から、ファッション雑誌の後ろのほうに載っている「デートに最適!手軽なお弁当おかず」みたいな特集を見よう見まねで作るのが好きだったのだ。 日本の食材と言えば中華食料品店の片隅にちょろりとキッコーマンが並ぶ程度のトロントで、レタスクラブのページをめくる。めぼしいメニューをちょきちょき、巻末の「1週間の献立」は丸ごと、切り取ってはスクラップ用の大学ノートに貼り付けたものである。 日本から持参したその料理ノートには、バレンタインチョコの作り方から母の料理ノートから書き写した「お節料理」も手書きされていた。 というわけで、30年ぶりに陽の目を見たサワークリーム煮である。しかしノートには、「どう考えても作らないよな」みたいなレシピ満載。ページは黄ばみ、糊は乾いてスクラップした紙片がはがれかけている。この際不要なものは捨てようと見直してみたら、「1週間の献立」はすべてゴミ箱行きだった。しゅうまいとかグラタンとかおでんとか、大体がもうレシピなしで作っている。 こういう普段着おかずも、レシピをみながら一生懸命作っていたんだな、と思うと、しみじみしてしまう。 そういえばトロントで、赴任者の友達の奥様が、結婚後生まれて初めてハンバーグを手作りするのに5時間かかった、という逸話を聞いたことがあったっけ。かくいう私も、主婦業1年目は、週末に1週間分の献立を考えてから買い物に出掛けたものだ。 断捨離のおかげで、書棚のレシピコーナーは少し隙間が出来た。この先はもうネット検索で済まそう、と思いながらも、クイーンズ伊勢丹に無料のELLE Cookingが並んだら、ついまた持ち帰ってしまうのだろう。 そのレシピを味わえるのは10年先かもしれないけれど。 ▲
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| 2018-05-20 15:33
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まるで「ねずみの嫁入り」みたいだ。 高校の同級生10人の飲み会。終電目指して走って行った遠距離組を見送ったあと、ふと思った。 1学年12クラス540人のマンモス校だったから、その日のメンバーも、半数近くはまともに言葉を交わしたことがない。Facebookでつながって、たまにはリアルの顔を合わせようよ、と集まった。 高校で何組だったかも定かじゃないくせに、青梅や鴻巣のマラソン大会をハシゴしてるとか、プロ野球チームの石垣島合宿に夫婦で同行したとか、週末は鎌倉散歩がてらカフェの甘い物でまったりしてるとか、近況はお互いしっかりチェック済である。 でも、会って実際話すのは、やっぱり「あの頃」のことだ。 体育祭がすごく盛んな学校だった。3年の夏休みは、駿台夏期講習より「仮装」と呼ばれる色別対抗(1・2・3年の1組は紫、2組はグレイ、と学年ぶち抜きの12色で競った)の出し物の準備に忙しかった。 優勝は何色だった?という声に、成績の手書きメモやクラス代表12名の集合写真をとっておいた強者が、そのお宝を得意げに鞄から取り出してくる。 今のデジタル写真に比べると、ただのピンボケ。30余年前の自分の姿を、本人でさえ見分けられないのも、笑える。 -世界史は、ネアンデルタール人のところでついていけなくて、早々に脱落。 (脱落ちょっと早すぎない? せめてローマ帝国まで頑張れなかったかな) -サインコサインタンジェントは、こういう語呂合わせで憶えてたんだよ。 (…その数学用語、今何十年ぶりかで聞いた。意味さえすっかり忘れてるし) -化学のテストで赤点とってさ、追試は点数50%増し。つまり2点から3点。 (あのテストは難しすぎ。化学のセンセイ2人が仲悪く、別々に出題してたよね) 勉強の中身はすっかり忘れたけれど、コンブ・ワカメにガマ、出ガラシ等々、センセイのあだ名だけはいまだによく憶えている。 I君が机の下でこっそり食べようとした弁当箱をひっくり返した事件は、若くてキレイでちゃんと苗字で呼ばれていたコイズミ先生の英語の授業中だったことも、皆の記憶が一致した。 すっかり一人前のつもりで、スポーツ万能だとか授業中の寝顔が可愛いとか、そういうささやかな理由だけで、カンタンに恋をしていた。 1度も同じクラスになったことのないM君は、第2体育館で卓球部の練習中、舞台の上で発声練習をしていた演劇部の私を見初めたらしい。 その体育館はまだ健在だが、体育祭の後夜祭でプチデートをしたグランドの隅の楠は、とうの昔に伐採されてしまった。 そういう高校生活のあと、大学に進学して、グローバル企業に就職して、仕事やプライベートでたくさん海外に行って、色んなものを見て色んな人に会った。 片想いして両想いして、フッてフラレて、ケッコンしてリコンして、たまには人に言えないコト(!?)もした。 いっぱしの大人ぶって、ちょっと偉そうな経験も、ちょっと華やかめいた経験も、いくつか経てきた。 けれど今、すっぴんだった頃を同じ場所で過ごした同朋と共にいることが、一番しっくりくる。あの場所から出発して、ぐるっと一回りして、また戻ってきた。 ねずみの嫁入り、である。 世界一のお婿さんを尋ね歩いて、世界を照らす太陽、太陽を曇らす雲、雲を吹き飛ばす風、風を遮る壁、ぐるり一通り経験して行き着いたのは、最初の出発点のねずみ。ちゅう。 ▲
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| 2018-03-20 15:21
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断捨離の一環で、使っていないクレカ解約と銀行の休眠口座閉鎖を断行した友達を見習い、私も某銀行某支店に出向いた。高金利に惹かれて1度だけ定期預金を預けて満期解約したきりの口座だ。 自動ドアを開けると、ホテルのドアマンみたいに男性が立っている。右手にはリビングルームのような白いソファの待合いコーナー。都市銀と違って、窓口は全て半個室形式だ。 「ご解約とのことですが、弊行では優遇金利の定期預金をご用意しております」 差し出されたパンフには「0.15%」という数字。ただいま預入れ中の0.10%との差に一瞬クラッとくるが、解約の初志貫徹。「いえ、結構です」 にっこり即座に引き下がった彼女は、通帳が古いので新規に切り替えさせていただきます、と背後のドアの向こうに消える。解約するにも、一定のペーパーワークを経ないといけないのだ。さすが銀行。 手持ち無沙汰なので、つい金利のことを思い返す。0.15マイナス0.10=0.05。100万円で年間5百円。ふむ。1千万円なら5千円。ほー。 彼女はなかなか帰ってこない。10分経過。本を開くが、あいにくつまらない章である。 ようやく戻ってきた彼女は、新旧2冊ずつ(定期と普通)通帳を手にしている。 「通帳の切り替えができましたので、これから解約手続きをさせていただきます」 えっ、なんでまとめてやらないの?という言葉が喉元まで出たが、ここは銀行。段取りは1つずつ。決してはしょってはいけない。目の前で私が記入した用紙の氏名と日付だって、彼女はきっちり3回指差し確認していた。 「終わりましたらお呼びしますので、あちらでお待ちください」 ということで白いソファへ。シフト交代したのか、最初のドアマンとちがう男性がやってきて、テーブルの上の雑誌数冊、わずか5度ほどのずれを直角に整えて、また立ち去る。取り澄ましたブティックのラックに整然と畳まれた服のように、手を伸ばす勇気がでない。 間近のブースからは、株の乱高下とオリンピックの会話。東京オリンピックまでは大丈夫ですよきっと、とかなんとか、延々続いている。世間話より、そろそろ具体的な商品説明に入ったほうがいいんじゃないでしょうか。 なんとなく鼻がぐすぐすする。ティッシュを探そうと立ち上がると、直角マンがすかさず近づいてくる。 「何か?」 「あの、ティッシュはどこかにありますか?」 「それでしたらこれをお使いください」 テーブルの上、直角雑誌の隣に、6つのポケットティッシュ入りのカゴ。がばりと全部失敬したら、直角マンはどう反応するだろう。 まだ呼び出しがない。ソファの隣にいるデカい青い象のぬいぐるみ(あ、これ言ったら、どの銀行かわかっちゃうかな)をなでる。鼻の先がくるんと上向いて、スキージャンプ台みたいで可愛い。これ、欲しいな。しかしポケットティッシュとちがって、鞄に滑り込ませるには大きすぎる。でも、欲しい。 ようやく番号を呼ばれる。「解約」というハンコが押された、さっき作られたばかりの通帳と共に、「残金がございました」と差し出されたのは、31円也。 45分かけてGETした31円と、GETできなかったポケットティッシュと青い象への未練を手にしたまま、早春の陽光の中に踏み出した。 ![]() ▲
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| 2018-02-20 19:11
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日頃から、長生きなどしたくないと公言している。生老病死は生きとし生ける者の定め。ナチュラルに健康でいられるに越したことはないが、老いに逆らい、じたばたと人工的な手段に訴えるのはいかがなものか。 これは極めて個人的な価値観、人生観に関わることなので、不老不死を願う人を否定するつもりは毛頭ない。しかし、日経新聞なんぞは、右肩上がりの読者年齢に合わせ、なんとかサプリや健康器具の広告ばかりが目立つようになって、不愉快である。カネで若さが買えるなら、と東奔西走する御仁をカモにするのは勝手だが、少なくとも私自身は、No thank you. …と思っていたのに。 あな、あさましや。 社外役員を務める会社から、HPの写真を更新したいので、次回の取締役会のあと撮影をします、というお知らせが来た。サイトの掲載写真は、かれこれ3年以上前。 当日、一張羅のスーツをびしっと着こんで、勇んで出掛ける。予定通り会議が終わると、別の会議室に移り、1人ずつ白いスクリーンの前に立つ。 カメラマンは、ぱしゃぱしゃと数回シャッターを押すと、無線で画像を飛ばした先のタブレットをすっと差し出して「こちらでよろしいでしょうか」と確認してくれる。私の前のシニア男性役員は、ろくに画面を覗き込むこともなく「はい結構です」と言って、そそくさと立ち去って行った。 さて、私の番。ぱしゃぱしゃぱしゃ。すっとタブレット。 …。 「ちょっと、これ、ちがうんじゃないかなあ」 ちがうも何も、液晶に映っているのは紛れもない自分の顔である。しかし、ちがう。 「なんかちょっと、笑い過ぎじゃないですか?」 言い訳がましく付け加えながら、問題はそこではないことを、自分が一番よく知っている。問題の核心は。。。 HPの写真より、顔が老けてる!! が~ん。 目じりにしわは寄ってるし、頬の線がたるんでいる。3年前の写真ではありえなかったことだ。 「はい、じゃあ撮り直しましょう」 カメラマンさんは速やかにクレーム対策プロセスを進める。が、問題の核心が不動である以上、何度やり直しても同じことである。 「う~ん。まあ、仕方ないですね。元が悪いんだから」 ついに私は自白する。誰に脅されたわけでも、カツ丼の差し入れで「さっさと真実吐いたほうがラクになるぜ」と言われたわけでもないけれど、自分の罪(?)であることは自分が一番よく知っているのだ。一旦自白してしまえば、もう恥も外聞もない。 「でも、この頬の線、なんとかなりませんかねえ。せめてしみとしわは修正できますよね?」 順番を待っていた若い男性役員が、カメラマンが答えるよりも先に、きっぱりと言い放つ。 「フォトショップなら、どうにでもなりますよ」 嗚呼。ついに私も実年齢をIT技術で誤魔化す、という人工的、反自然的解決法に走ってしまうのか。あな、あさましや。 日頃の「ナチュラルに年を取って死にます」宣言はどこへ行ってしまったのか。 ついでに白状すれば、この事件(?)の数日前、同世代の友人から「酒粕毎日50g食べると、2週間でお肌ぷりぷりだって」と聞き、鋭意実行中でした。毎日お味噌汁代わりの粕汁、酒粕グラタン、酒粕カレーシチュー。 2週間を待たずして、あちこちぼつぼつにきび(否、私の年齢では「吹き出物」と呼ぶらしい)が出没。アルコールに弱い私のカラダには、合わなかったらしい。お肌ぷりぷり、は幻影と化した。 件の写真が仕上がったという連絡は、まだない。 ▲
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| 2018-02-06 22:14
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少し前、DINKSの友人から緊急事態発生の連絡が入った。だんな様がアメリカに赴任することになったという。3年前に転職した会社の仕事がようやく面白くなってきたところなのに、辞めてついていくか、しばらく彼に単身生活してもらうか。 青天の霹靂、思いは千々に乱れ…状態の彼女には申し訳ないが、正直うらやましい!と思ってしまった。 この歳になって(といっても、彼女は私より10歳近く若い)、いきなりアメリカで暮らすチャンスが訪れるなんて、でっかいたなぼたではないか。私は20代で一度海外暮らしをしたことがあるが、今ならまたちがった楽しみ方ができそう。 何よりも、他人(もちろん生涯の伴侶だけど)が自分の人生にどっかーんと影響を与える、そのサプライズ感、意外性。 シングルアゲインになったとき、1人で暮らす部屋のカーテンを買いに行き、ずらり並ぶサンプルを見て「これ、自分1人で勝手に選んでいいんだわ」と驚いた、あの時の感覚を思い出す。 どんなことも、自分が決めて、自分が実行する。逆の見方をすれば、自分が決めない限り、自分の人生は1㎜も変化しない。自分では思いもつかなかった選択肢が、突然たなぼた式に落ちてくることは、決してない。 カーテンの前で味わった「なんでも自分」感と、彼女を羨む「たなぼた感」が、心の中を交差する。 先々週、別の友人が、こんな言葉を漏らした。 「自分だけが行きたい所に、自分だけで行きたい。そして、そこに居たいだけ居たい」 彼女は、だんな様と小さな息子さんの3人暮らし。週末は子供の行きたい公園で子供を遊ばせ、夏休みはだんな様の行きたい旅先で男2人をカメラに納めるお役目…のだろうか。 一方の私は、自分が長年行きたかったセドナに年末行ってきた。あまたあるトレッキングコースの中、気に入った場所に、居たいだけ居た。「そこに居たい」という欲求を妨げるものは、自分自身の生理的欲求(ト○レ)だけだった。 旅の後半、アメリカに住む友人が加わった。研究熱心な彼女が「行きたい」と選んでくれたレストランは、たなぼたならぬ、たなからフレンチイタリアンメキシカン、美味しいサプライズの連続。自分一人だったら、決して行かなかった(行けなかった)だろう。 家族を始めとする他人に振り回される不自由さは、裏を返せば、他人がもたらしてくれる世界の拡大につながる。 さて、先日の大雪である。 暗くなる直前に帰宅した私は、ゴム長靴に履きかえるや否や、外に飛び出した。降りたての雪をざくざく踏む、だけのつもりが、童心に火が付いた。 降りしきる雪の中、うちの隣にある神社の境内にしゃがみ込んで、小さな雪玉を作る。滑らかな雪の上をころころ転がすと、それは「雪だるま式」に大きくなっていく。 ふと振り返ると、放り出した傘の場所から、ずるずるぐるぐる雪だるまとゴム長の跡。幸い神様以外は誰も見ていない。 ガラケーで撮った雪だるまをFacebookにUPしたら、ブログ宣伝より多くの「いいね!」。中の一人(彼女も既婚、子供あり)が、感心してくれた。 「私も一人は好きだけど、『一人雪だるま』はやったことがない」 はい。やれますよ。自分でやろうと思えば、いつだって。 でも、自分の意図せぬまま、たとえば子供に手を引かれて足を踏み入れた公園で、雪の白さにびっくり、なんていうたなぼた式サプライズは、ない。 家族から「たなぼた」の嵐に遭っている人は、「自分で決める」ことに憧れ、 「自分で決める」しかない人は、誰かからの「たなぼた」サプライズに憧れる。 つまるところ、隣の芝生。 隣の神社の雪は、まだ解け残っている。 ![]() ▲
by miltlumi
| 2018-01-29 11:28
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朝いちにFacebookを開けたら、友人から、昔の彼がくれたプレゼントが引き出しの中なら出てきて懐かしかった、と言うメッセージが入っていた。 趣味で集めていた品、すべて両親からのお土産だとばかり思っていたら、彼からもらったものが混ざっていたという。 タイムワープ。 意外なときに、意外な場所から、意外な人からもらった、意外な物が出てくる。 あの頃は、意外どころか、必然中の必然、人生のすべてと言ってもいいくらいの、大きな存在だった人。 今は、思い出すことさえ稀になってしまった。 羨ましいなあ、と思いながら、自転車をこいで仕事場に向かう。 ちょっと胸キュンな、こういうサプライズは、非日常的なロマンチックグッズだからこそ味わうことができる。 物心ついて以来付き合ってきた、2つの手の指だけで余裕で数えられてしまう人たちからもらったプレゼントを、桜田通りの真ん中でつらつらと遡ってみる。 相手が現実的なタイプだったのか、私がアンチ・夢見る乙女だったのか、思い出すのはどれも実用的なものばかり。身に着けるペンダントだったり暖かなストールだったり、あるいは使い勝手のいい大きさの取り皿だったり。 だから、日常いつも目のつくところにある。飾り棚の片隅や引き出しの奥にひっそりと仕舞いこまれて、意外なときにサプライズ、というロマンチックな展開が期待できない。 ちなみに、アクセサリーの中でも、ロマンチックランクNo.1カテゴリーである指輪は、別れた後のセンチメンタルジャーニーで、マウイの海に投げ捨てた。 それって十分ロマンチックじゃないか。 しかし、別の指輪は、黙って相手に返した。そしていまだに、「あれを質屋に入れていたら…」という「たられば娘」的後悔に苛まれている。 それに、実はあまり好みではなかったアクセサリーや洋服は、別れた途端にゴミ箱に捨てた。アクセボックスに残っているのは、つまり単純に自分の趣味に合っていて「モノ」として価値を認めたものばかりだ。 所詮、私のロマンチシズムはそんな程度である。 ああ、でも。 私にとって最大のロマンは、こうした3Dの物体ではなかった。 二次元の手紙。古くは、中学1年生のときに○○君からもらったものから、新しくは△△さんまで。 「思い出ボックス」と称するベッドサイドのチェストの引き出しの中で、小学3年生からつけている何十冊もの日記帳とともに、彼らはひっそりと肩を寄せ合っている。 そこに仲間入りできていないのは、HDDの中に格納されたEメールたちである。 お互い人生後半に入っている件の友人とは、いつも断捨離の話をする。しかし、「思い出ボックス」の中のあれやこれやはやっぱり捨てられないね、という結論になる。 今際の際に、あの手紙の束どうしよう、と思ったりするのだろうか。 今のうちに、「あの引き出しの中のものはすべて棺に入れてください」という遺言書を書いておこうか。 そうだ、EメールはDVDに落として、引き出しに入れておこう。 (本文の趣旨と全く無関係ですが、「東京タラレバ娘」は面白いです) ▲
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| 2018-01-18 14:32
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近頃、なにかにつけて「逆算」するくせがついてしまった。 内田洋子というジャーナリストのエッセイにハマっていて、一番最近読んだのは「イタリアのしっぽ」という題名である。犬、猫、その他ペットにまつわるあれこれが書かれていて、その一節にラブラドルレトリーバーが登場する。 これまでの私の人生、半分以上は犬と一緒、という大の犬好きだが、7年前にミニチュアダックスフンドのミルトとルミそれぞれ14年の生涯を見送って以来、犬なしの一人暮らし。 レトリーバーか、と思う。かすかに心が動く。あの手の大型犬は、まだ飼ったことがない。一生に一度は飼ってみたいな、という気がしないでもない。 と、ここで逆算が始まる。 もしもこれから飼う犬が、ミルトルミと同じくらい、ざっくり15歳まで生きるとしたら、その犬が天寿を全うするとき、私は、…70歳。 ななじゅっさい~!? やばい。老老介護じゃないか。 飼うなら、今すぐ。1日でも1時間でも早く飼い始めなくては。 やばいやばいやばい。 再び、内田洋子である。 20代前半からイタリアで暮らす彼女は、ヴェネチアやサルデーニャ島にふらりと出掛けたりしている。ヴェネチアは一度行ったことがあるが、サルデーニャ島といったら、永遠の憧れではないか。 2001年にCREAの「地中海の島」特集を見て、サルデーニャ島かマジョルカ島かマルタ島か迷いに迷った末、英語の通じるマルタ島にした。十字軍の基地だったあの島も、ものすごくサイコーによかったのだが、サルデーニャ島への未練はいまだに引きずっている。 でも、イタリアへの直行便は潰れかかったアリタリアしかないし、ローマかミラノからさらに飛行機に乗らないといけないし。 それに、なんだかんだで3回行ったことのあるイタリアより、マチュピチュとかウユニ湖とかアラスカクルーズとかフィンランドのオーロラとか、行きたいところは他にも色々ある。 ここでまた、逆算である。 勤続30周年のご褒美に夫婦でマチュピチュに行った兄が、「あそこは歩くから足腰に自信があるうちに行ったほうがいい」と言っていた。オーロラは、真冬の北国でしんしんと零下の夜に、出るか出ないかわからない自然現象を幾晩も待つことになる。寒さに耐えられる体力のあるうちに行かないと。 そう考えると、この手の場所は65歳くらいまでに行っておいたほうが安全。そして、長期の海外旅行が出来るのは、せいぜい年1回。ということはつまり、あと10回…。 やばい。やばいやばいやばい。 のほほんとしているヒマはない。所要体力順に行きたい場所の優先順位を決めて、しかしかと計画的にこなさないと、気づいたら行けるのはバリアフリーの先進国だけ、ってなことになりかねない。 というわけで、逆算すると、あれもこれも「いつかね」などと言っている場合ではない。やりたいことを思いついたら、すぐやるしかない。 というわけで、手始めに明日から、セドナに行く。スーツケースに入れた本は、内田洋子の「ミラノの太陽、シチリアの月」。 追伸: 犬のほうは、思い立ったときに旅行するのに、ペットホテルだなんだと面倒である。 そもそも、ミルトルミ以上の犬が現れるとも思えない。 というわけで、レトリーバーは見送りになりそうだ。 ▲
by miltlumi
| 2017-12-18 22:04
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うちの最寄りの地下鉄の駅では、不定期でミスタードーナツの出店が出る。 夕方から夜にかけての帰宅時間。幅180cm ほどの仮置きテーブルの前で、5つで600円、あるいは9つ1000円のどちらにしようか、人々が思案している。 ああ、ドーナツ屋さんになりたいなあ、としみじみ思う。 無事どちらかを選んで、横長ボックスを受け取る人は、スーツ姿のサラリーマンだったり、おしゃれなファッションに身を包んだ若い女性だったりする。だいたいがちょっと照れくさそうに、でもちょっと嬉しそうに、箱を抱えて足早にその場を去っていく。 ドーナツを買う。しかも1つ2つではなく、片手に余る数のドーナツ。家族3人分か、友達のホームパーティーへの手土産か、あるいは全部独りでヤケ食いか。いずれにしても、そこには必ずや、アンビバレントな思いが交錯しているにちがいない。 砂糖と小麦粉と油という、最高にカラダに悪い組み合わせの食べ物を大量購入し、消費しようとする、うしろめたさ、背徳感、そしてその禁をあえて破ることへの開き直り、爽快感、Indulgence(耽溺)。 Indulge、という単語は、トロントで働いていたときに同僚とよく行ったDenny’s(日本にもあるあのファミレスは、米国発祥である)で覚えた。ブラウニーの上にチョコレートアイスクリームが乗っかり、さらにチョコレートソースとチョコチップがたっぷり振りかけられた最強のデザートが、「Indulging Chocolate Fudge 」という名前だった。 20代だった私は、メタボ気味な同僚の羨望の眼差しを浴びつつ、「Indulging myself…」とつぶやきながらぺろりと平らげたものである。 会社の近所で韓国人がやっているドーナツ屋さんでは、「オレンジクルーラー」が定番だった。クルーラーといっても、ミスタードーナツにある、菊の御紋が風車になったような、噛むとふしゅふしゅっとする、あれとは全く異なる。サーターアンダーギーのタネを3つまとめてワラジ型にして揚げたような不定バクハツ形で、絶対1,000kcalは越えていたと思う。 カナダ人が皆帰宅してしまった後、静まり返ったオフィスで残業しているとき、ふと思い立ってオレンジクルーラーを買いに行く。「夕飯食べられなくなりそう」などと申し訳程度につぶやくと、お店のおばさんは、「Don’t worry! Be happy!」と、いかにもカナディアンな笑顔を向けてくれた。 日本のミスタードーナツは、昨今の健康志向のおかげで、すっかりライトになってしまった。それでも、寄る年波で「○○食べ放題」で元を取るのが難しくなってしまった一人暮らしの身には、5つセットも、ちょっときつい。 だからせめて、あの香りに包まれて、つややかなチョコレートコーティングや華やかなスプリンクルやこんがりココナッツフレークをまとったドーナツを心行くまで眺めていたい。 嬉し恥ずしの表情で、そわそわ、いそいそと買っていく人たちに、あの韓国人のおばさんのように、「Don’t worry! Be happy!」と声をかける。言われたお客さんは、ぱっと目を輝かせて、にっこり笑う。 それが仕事だったら、毎日楽しいだろうな、と思う。 ▲
by miltlumi
| 2017-11-27 09:36
| 機嫌よく一人暮らし
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