カテゴリ:私は私・徒然なるまま( 224 )

気まぐれな午後に

 再び真夏の酷暑が戻った8月最後の日曜午前。茗荷谷で野暮用を済ませると、11時45分である。次の予定は4時に表参道。4時間の空隙。あいにく本は持参していない。
 たまには表参道ヒルズでも覗いて、欅並木を見下ろすカフェでゆっくりしようと、池袋経由副都心線に乗る。ところがスマホの地図に「表参道よさこい祭り」の表示。そんなイベント開催中だと、ただでさえ人混みの表参道、欅並木を見下ろすどころか、カフェの空席さえままならなさそう。
 ふと、日比谷の東京ミッドタウンを思い出す。原宿よりも大人な街だし、映画館もある。千代田線で表参道を通り越し、日比谷駅で降りれば灼熱の地上に出ずに直通である。

 ちょうどいい時間帯の映画はない。よさこい祭りほどではないが(?)、結構な人混みである。日比谷公園を見下ろすなんとかガーデンに行きたいが、どうやったらたどり着けるのかわからない。
 とりあえずランチと思い、目に付いたLexus meets…カフェに入る。一人なのでカウンター席でもいいか、と思ったら、折よくソファ席の家族連れが立ち上がる。さて、1時前の今から何時まで居座れるだろうか。

 最近流行りの、分厚い切り口が色鮮やかなサンドイッチを一口かじってはスマホに向かい、友達のメールに返事を書く。それが終わると、今度はガラケーで日記を書く。文章を書くには、実はスマホの液晶よりガラケーのボタンのほうが速いのだ。
 右隣のテーブルに、前下がりのショートボブに大柄の花が散った白Tシャツと、ベリーショートでマキシスカートで赤いペディキュア、といったいでたちの女性が二人、しゃなりと座る。
 …が、彼女らの口から飛び出したのは、コテコテの大阪弁。アタシの結婚を許す許さない云々、父と娘のボケとツッコミ会話を再現するショートボブに、マキシがさらにツッコミを入れ、二人で笑い転げている。私も日記を中断して速記しようとするが、とてもスピードについていけない。さすがやわ~。けど、なんであんたら日比谷におんねん。ここ通天閣ちゃうねんで。

 彼女たちがコーヒー1杯で去ってゆくと、しばしの静寂。左隣の老嬢二人はでっかいパフェに「食べにくいわね」「甘いわね」を7回ずつくらい繰り返し、映画が始まるわ、と半分残して立ち上がる。
 次にやってきたのは、赤ちゃんを抱いた女性とベビーカーを押す男性。ベビーカーがテーブルの間に収まるよう、テーブルをちょっと右にずらす。
 「あ!」
 ありがとう、ではない不思議な反応に顔を上げると、知り合いの女性であった。しばし旧交を叙すうち、もう3時である。なんとかガーデンに行くため、コーヒーを飲み干して彼女らと別れる。
 エスカレーターを昇りながら指折り数える。彼女と前回会ったのは4年前。あのときはシングルだったのに、その後結婚して、転職もして、じきに赤ちゃんが生まれて、2か月前に二人目。すごい発展である。それに引き換え私は…?

 パークビューガーデン(という名だった)は、フライパンのように暑かった。でも、和田倉濠のほうから、とてもいい「気」が流れて来るのが感じられた。
 うん。私も発展している。パワーチャージもセレンディピティも上手くなったし。

 日曜日の午後は、あっという間に過ぎていった。


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by miltlumi | 2018-08-26 23:49 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

アラカンかアラシクか

 この春、また1つ歳をとった。最近は「アラカン」ではなく「アラシク」と言うらしい。だんだん人恋しくなる(&ヒマになる?)世代なのか、学生時代や昔の職場の同窓会の誘いが急速に増えている。

 その一環か、昔トロントに赴任していた会社のFacebookグループが立ち上がり、主催者の男性から友達リクエストが来た。

 今だから告白するが、あの会社でたった一人、「いいなぁ♡」とひそかに憧れていた相手が、彼だった。
 別の部門だったけれど、業務の関係があったため、同じ社内会議に出席したり、社内横断的な物流改革プロジェクトで一緒になったり。私は日本からトレイニーとして派遣されているヒヨっ子で、あちらは2、3ランク上の部長職だったから、対等に話ができるような間柄では、とてもなかったけれど。

 それでもあるとき、彼の個室でサシでプロジェクトの下打ち合わせをすることがあった。壁の片面は全面ガラス張りだから何の密室感もないが、なんとなくウキウキである。
 話をするうちつい夢中になり、身振り手振りが大きくなった私の耳から、イヤリングがポロリと落ちた。「Oh, excuse me」としゃがみこんでデスクの物陰を探る。ようやく拾い上げて椅子に戻ると、思わずこんな台詞を口走ってしまった。
 「こんなところにイヤリングが落ちてるのを誰かが見つけたら、ちょっとマズいよね」
 英語で何と言ったのか、EmbarrassingかDangerousだったか、もう憶えていないが、大きなデスクの向こうに座る彼の、耳まで赤くなった顏だけは、鮮明に記憶に刻まれている。

 FBリクエストを承認し、メッセージを送る。念のために、〇〇年に〇〇部門にいました、と書き添えたら、速攻で「I remember you well(よく憶えています)」という返事。WELLの文字が、私の頭の中で太字・イタリック・フォント44くらいにデフォルメされる。さらに、「Please visit Canada, I will host you.」
 あの頃、真っ赤になっちゃう純情派だったのが、大人(?)になったものだなぁ、とプロファイルを見たら、私より5歳上である。
 ということは、当時はまだ30代前半。そりゃあ赤くなるわけだ。手の届かないシニアエグゼクティブだと思っていたけれど。カワイかったなぁ、お互い。
 そして今や、彼もアラカン。四捨五入して、お互い立派な同世代。

 ちなみに、アラカンとは「嵐寛壽郎」だと思っている人が大多数のようだが、私は「阿羅漢」だと信じている。修行者として到達し得る最高位で、煩悩から解脱して尊敬や施しを受けるに相応しい聖者(Wikipedia)のことである。
 イヤリングがどーのホストがこーの、などという輩とは別格なのである。
 だからやっぱり、私は「アラシク」よりも「アラカン」という呼び方のほうがいいと思う。

追伸:アラカンでもアラシクでもなく、U60という呼び方もあるらしいが、どうも「Uボート」を思い浮かべてしまう私は、やっぱり立派なアラカンだろうか。


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by miltlumi | 2018-06-12 15:58 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

冬の朝

 お風呂場で、服を着たまま急いで朝シャンをしていて、灼熱のカナリア諸島を思い出す。
 なぜかと言えば、服にシャワーのお湯がかからないように中腰で出来るだけ前かがみになると、お湯が鼻の中に入ってしまって鼻の奥がツンとして、それがプールの中で息継ぎを間違えたときと同じ感覚だからだ。

 大滝詠一の「ロングバケーション」に入っている「カナリア諸島にて」は大学時代からお気に入りの歌だった。10年以上前、「和楽」の旅行特集に掲載されたカナリア諸島のデザインホテルを見て、ロンドン・マドリッド経由、大西洋の孤島でショートバケーションしたことがある。
 6日間の滞在中、ホテルのプールで泳いでは読書、泳いでは昼寝、を繰り返した。平泳ぎやクロールに飽きると、潜水をしたり水中でくるりと回転したり。もともと泳ぎが得意でないから、すぐ鼻に水が入ってしまい、鼻の奥がツンとする。あ、やっちゃった、と思うけれど、しばらくするとまた水中クルリをしたくなり、またツンを味わう。
 椰子の木に囲まれた日差し眩しいプールサイドではなく、真冬の港区の狭いユニットバスの中であっても、顔にかかるのが大西洋から運んだ潮水ではなく東京都玉川浄水場の水道水であっても、鼻ツンの感覚はカナリア諸島と直結するのだ。
 今、カナリア諸島は、さぞかし暖かいだろう。

 東の窓から射し込むやわらかな朝陽は、部屋を暖めるだけの十分な力を持たない。寒いな、と思う。でも朝からエアコンを入れると、ただでさえドライアイなのが余計に乾燥して、PCに立ち向かおうにも目が痛くて仕事にならない。
 去年も一昨年も、小寒のこの時期エアコンなしで過ごすことが少なくなかったのに。寄る年波には勝てない。諦めかけて、突然思い出す。この季節は、ジーンズではなく裏フリースのあったかパンツを愛用していたのではなかったか。
 クローゼットから去年のパンツを引っ張り出し、ついでにフリースセーターを2枚重ねに着てみたら、すっかり安心の温かさが戻ってきた。
 よし。これで、エアコンなしで行けるところまで行てってみよう。
 南極探検に繰り出すような覚悟を決めて、室温12℃の中、コーヒーカップを両手で包み込んで暖をとる。

 朝食の食器を洗った後で、夕飯のお味噌汁用ににぼしを水につける。ついでにお米も洗っておく。お正月に、母がお裾分けしてくれた「年貢のお米」だ。兵庫県の片田舎に、父から兄へと受け継がれた先祖代々の田んぼがある。地元で米作を請け負ってくれる遠縁の親戚から母の元に、毎年秋になにがしかの新米が送られてくる。
 「本当にね、ものすごく美味しいのよ。ゆめぴりかよりも美味しい」
 ついでに大根も半分持って行かない?という母の声は断る。母の住む秦野から帰る小田急線の中、誤って鞄のふたが開いて、中からラップに包まれた昆布巻や伊達巻や松前漬けのみならず、大根が転げ出したら恥ずかしいではないか。
 そのじつ、年始のスーパーに並んだ「大根1/2本198円」の値札に、母の好意を有難く受け取るべきだったと密かな後悔を抱いたのだ。
 こんな寒い日は、根菜がたっぷり入ったさつま汁でも作って、細かく切った白ネギと唐辛子をたっぷりかけて、ふーふーしながら食べたい。

 1月。これからが寒さの本番。再びカナリア諸島に逃避行したい、と思いつつも、この透明な寒さを、味わい尽くしたい気もする。


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by miltlumi | 2018-01-09 13:54 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

拝啓 小野但馬守政次殿

 政次殿。
 いつか告白しようしようと思いながら今日に至り、ついにその機会を逸してしまいました。こんなに早く(大河ドラマ12月の最終回までまだ4ヶ月もあるというのに)逝ってしまわれるなんて。しかも。

 あなたが、「私ひとりが死ねばいい」とおっしゃったとき、脳裏をよぎったのは「エアフォースワン」のハリソン・フォードでした。テロリストが愛くるしい女性報道官のこめかみに銃を突きつけてカウントダウンを始めたとき、ハリソン演じる大統領は、自分の愛する1人の命と、テロリストの圧政に苦しむ不特定多数の見知らぬ外国民を両天秤にかけ、後者を選んだ。あの決断力。あのときも、映画を観た後、かなり尾を引きました。
 政次殿が選んだのは、ハリソンとちがい、ご自分自身。その高潔で冷静な判断に、私は息を飲みました。
 でも最も大きな、ハリソンとは比較にならないほど次元の異なる大きなちがいは、直虎への愛情。うぇ~ん。

 刑場に足を踏み入れ、そこに直虎の姿を認めたときのあなたの表情。もともと能面のような、それこそがまさに私の愛する、あのお醤油顔が、さらに能面のようになり、けれど瞳だけが能弁にあなたの心の内を物語っておりました。

 そして、誰一人予想していなかった直虎の挙動。

 「おまえは、俺を使え」という政次殿の言葉を、井戸のほとりで考え抜いた末の、あの直虎の行為は、あまりに激烈でした。幼い頃からずっと変わらなかったあなたの深い深い愛情。井伊家の家老としての、文字通り命を懸けた忠誠。
 それを想うとき、どこぞの馬の骨に処刑されるくらいなら自らの手で殺めてやろう、という直虎の決断は、うべなるべし。そして最後まで、最も喪いたくない相手の最期まで、罵詈雑言を浴びせ、政次殿を使い倒そうとする、その直虎の自制心。
 あなたも、さすがにあの直虎の行為は予想だにしていなかったでしょう。けれど、その瞬間、あなたは心の中で快哉を叫んだはず。よくやった。直虎。それでこそ井伊家城主。
 だから、血を吐きながら、直虎の迫真の演技にあなたも同調されました。地獄の底から見届けてやる、という言葉は、本当の本音だったことと思います。
 父上から言われた呪いのような一言が、おそらくは片時も脳裏を離れることがなかったのでしょう。裏切り者の家老の役回りを演じ切ること。あなたは、完璧に、その任務を全うなさいました。

 しかしなお、あれは激烈過ぎました。私には、理解しかねます。承服しかねます。
 そこまで人を愛することができるのか。愛する人のために、あのような形で命を投げ出すことができるのか。
 そして、そこまで自分を愛してくれる人に、刃を突き通す強さは、どこから来るのか。

 それでも、私は私なりに、あなたさまをお慕い申し上げておりました。告白するには、もう遅すぎるけれど。政次殿。心より、ご冥福をお祈り申し上げます。

追伸:
来週から、日曜日の夜8時に家に居るモチベーションが、ぐんと下がりそうです。あなたのかそけき微笑みを見ることのできない大河ドラマなんて。

追々伸:
蛇足ではありますが、あなたさまの、あの瞳だけで万感の想いを語る演技力と並び、紫咲コウの大根ぶり(鰤大根ではない)も見事でした。槍を突き付けながら叫ぶときの、憎しみしか読み取れない一本調子の視線は、どうにかならなかったのでしょうか。
瞳の端に、一抹の哀しみと愛惜をちらり浮かべることが出来たなら、彼女もようやく「女優」と呼ばれることでしょうに。


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by miltlumi | 2017-08-21 22:17 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

祝・世界遺産登録 宗像・沖ノ島と関連遺産群

 宗像大社の一括世界遺産登録が決まった。よかったよかった。
 というか、そもそも沖ノ島とその周辺だけが「世界遺産」だなんて、仮とは言え、世界遺産委員会が下した判断がオカシすぎた。片手落ち以外の何物でもない。あのニュースが流れたとき、何考えとんねん、と珍しくTVに突っ込みを入れたほどだった。

 神社フェチな私は、もちろん彼の地を訪れたことがある。まず大島に船で渡り、あの小さな島をてくてく横切って遥拝所まで歩き、はるかかなたの沖ノ島を拝んだあと、またてくてく歩いて船に乗って、最後に陸地側の辺津宮に詣でた。
 地図で見るとよくわかるが、辺津宮から大島の中津宮と遥拝所、そして沖ノ島は、まぁーっすぐ北西方向に一直線に並んでいるのだ。
 そのラインをさらに北西に延ばせば、対馬、そして釜山に続く。古代、追い付け追い越せの「世界」が中国大陸とその玄関口である朝鮮半島だった頃の日本にとって、このラインは大きな意味があったのだと思う。
 今でも沖ノ島は女人禁制だし、大島の遥拝所でさえ陸からはけっこう遠い。私を含むこちら側の平民たちは、日常の中では辺津宮から神様を拝むしかない。拝む側と拝まれる側、両方あって初めて成り立つものだろう。

 …という宗像大社の話は、実はただの前置き(笑)。お話したいのは、「遥拝」のこと。これ、最近のマイブームなのだ。拝む相手は、神様ではなくて、私の友達。

 例えば先日、AさんとBさんと私が集まった。1年前までお互い見ず知らずの他人だったのだが、顔の広いCさんが企画したパーティでたまたま集まり、なんのかんのとするうちに仲良くなった。このトシになって、仕事も趣味もカンケーない知り合いが出来るのは結構レア。ましてや、「仲の良い友達」と言える関係になれるのは、僥倖と呼んでもいい。
 そのとき集まったのも、前もって約束していたわけではない。私がAさんを勉強会に誘って二人で参加し、帰りがけAさんが「そういえば、これからBさんと会うんだけど、顔出す?」「え~、そうなんだ、行く行く!」。待ち合わせのエクセルシオールにAさんと一緒にいる私を見て、Bさんは「きゃー、ここで会えるなんて」ってな軽いノリ。
 ひとしきりおしゃべりしながら、3人改めて振り返る。
 「こうやって私たちがここにいるのも、Cさんのおかげだね~」
 いやはや、誠に有難い、というわけで、僭越ながら私が号令をかけ、3人揃って(どこにいるかわからない)Cさんに向かって「遥拝」したのである。

 私にとっての「Cさん」的存在は、他にも何人もおわします。今、私がこのようにここに在るのは彼女(彼)のおかげ、と思うとき、でたらめな方向に手を合わせて、どこで何をしているかわからないその人に、「遥拝」をする。

 遥拝する先があるのは、佳きことである。そう思うだけで、トランキライザーになる。神様がそこらじゅうにおわします国に生まれて、よかったと思う。


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by miltlumi | 2017-07-09 21:00 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

どっちが好き?

 「(サンドイッチは)たまごのとハムのと、どっちが好き?」
 「あかとあおは、どっちが好き?」
 5歳と9歳の女の子が初めて出会ったときの会話に、胸がきゅんとした。といっても、現実の話ではなく、江國香織の小説の中の一節。この人の書く物語の手触りは、いつもあまりに懐かしい。
 具体的な記憶はないけれど、小学校に入って間もない頃、きっと私たちも似たようなやりとりをしたにちがいない。
 「チョコパフェとプリンアラモード、どっちが好き?」
 「ブランコと鉄棒、どっちが好き?」
 「国語と算数、どっちが好き?」
 何を訊かれても、即答していた。選ぶのはカンタンだった。そして同じ質問を相手に返す。その答えが、自分と同じでも違っていても、別にどうでもよかった。単純にその子のことを、知りたいだけだったから。

 カンタンでなくなったのは、中学3年生のときだ。
 「ベイシティーローラーズとクイーン、どっちが好き?」
 別にどっちも好きじゃない、とは言えなかった。何しろクラスの仲良しグループは大体いずれかのファンで、もっと発展家はキッス、というご時勢。さだまさしのカセットテープをひそかに交換し合えるのは、隣のクラスの桃子ちゃんだけだった。
 高校になって、「トシちゃんとマッチ、どっちが好き?」と訊かれたときは、ゼッタイに決してデートできない相手より、同じクラスのK君かT君かのほうが重大でしょ、と思った。でもそんなことを言って、この場に水を差すべきではではない、という常識は、理解していた。

 明らかに苦い「どっちが好き?」クエスチョンは、大学入学早々。新しいクラスメートからこう尋ねられた。
 「トルストイとドストエフスキー、どっちが好き?」
 …。ドストエフスキーという名前は、父の本棚に並んだ全集の背表紙でしか見たことがない。しかし、卑しくも文学部系進学者の面子として、「読んだことないからわからない」と言うわけにはいかない。唯一読んだアンナ・カレーニナを心のよすがに、「トルストイ」と答えたときの忸怩たる思いは、いまだに生々しい。

 「お酒と家電と、どっちが好き?」
 大学4年、就職先の候補会社についての自問自答。自分の好き嫌いより、世間の評判や会社の将来性に女性活躍度合、そして何より、相手が自分を選んでくれるかどうか、がモンダイだった。ちなみに、お酒の会社は1次面接であっけなく落ちた。

 そして今。訪問先でのシンプルな質問。
 「コーヒーと紅茶、どちらがお好きですか?」
 「いえ、どちらでも。手間のかからないほうで結構です」
 答えになってない、っちゅーの。

 「どっちが好き?」というシンプルな質問は、こうやって大勢の意見や常識や面子やはったりや忖度が絡みついて、どんどんフクザツになってくる。
ひと様から見れば、好き勝手やりたい放題に見えるであろう(というか、実際よくそう言われる)私でさえ。
 もしかすると、好き勝手やるからこそ、かもしれない。自分の気持ちに耳をそばだて、好きか嫌いか、すごく考える。ゼロか100でなくても、30:70か55:45か。最終決断はゼロサムにならざるを得ないから、ちょっとだけちがうな、という感覚が残る。でも、この感覚を、私は嫌いではない。
 忙しすぎて、自分の気持ちを知る時間がなくて、もはや何が好きかわからなくなっている人の耳元で、こっそり囁いてあげたい。
 「心の底に眠ってる正直な気持ち、早く起きてくださーい」


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by miltlumi | 2017-07-02 10:15 | 私は私・徒然なるまま | Comments(2)

チャリティーパーティ初体験

 「ドレスコード:ブラックタイ推奨」というパーティに、生れて初めて招待された。ブラックタイ、ということは、女性はイブニングドレス!? やばい。
「ドレス」と言えば、持っているのは四半世紀以上前に着たお手製(!)のウェディングドレスだけ。しかもその後シングルアゲインという決して縁起のよろしくない代物…。というより、そもそもブラックタイのパーティに一人でウェディングドレス着ていくわけにいかないでしょ。
 一生に何度も着ないモノわざわざ買うのもなんだし、レンタルしようかしら、とネット検索する。あ、ドレスだけじゃなくアクセサリーも借りなきゃ、ジェルネイルもちょっと華やかに、ヘアセットはどこでやろう…色々思いあぐねるうち、なんだかヘンな気持ちになった。

 実はこのイベント、全世界で人権保護活動を展開している団体の、チャリティーパーティなのだ。チャリティーが目的なのに、ドレスやヘアサロンにカネを費やしてどうする。その分、寄付金に回すべきではないか。そう思い直して、手持ちの黒のベルベットの膝下丈ドレスで勝負することにした。アップのヘアスタイルだって、自分でやれないことはないと、鏡とにらめっこでねじりヘアの練習をする。

 毎年パーティに出席している人にこの話をしたら、鼻で笑われた。
 「あのなぁ、そんなビンボーくさいこと言うやつは、そもそもこのパーティには来ないの」
 ぐさっ。確かに。イブニングドレスは各色取り混ぜクローゼットにずらり、何はなくとも3日に1度はヘアサロンで髪を整えるような、そういう雲上人の集まりなのだ、きっと。あー、場違いなワタシ。
 しかも、メインイベントのチャリティーオークションでは、1席10万円の円卓を囲む紳士淑女の間で7ケタの金額が飛び交うらしい。うー、レンタル・サロン代かき集めても足りないじゃないか。
 せめてもの彩りに、生花の赤い薔薇をコサージュ(これも手製だ)にして、胸元に飾ることにする。

 当日。紳士淑女はタクシーで、否、お抱えドライバーが運転するベンツやレクサスでホテルまで乗りつけるんだろーなーと思いながら、都営三田線に乗る。
 会場受付に知り合いの顔を見つけ、ほっとする。平日なせいもあり(カクテル・ビジネスも可だったので)ビジネススーツの方もいらっしゃる。さらに、ほっとする。

 400人以上が柔らかな牛肉の赤ワイン煮をナイフとフォークで切り分け、ワイングラスを傾けながら、中東のテロ組織による人権侵害に文字通り命がけで戦う人、アフリカの女性を虐待から救う人の姿が映し出されるスクリーンに見入る。日頃泥だらけで現場を駆けずり回っているその当事者が、隣のテーブルから立ち上がり、タキシード姿で自らの活動報告をする。
 オークションでは、直前に演奏を披露したアーティストが、自らのアリーナチケットを宣伝し、「ついでにあと1名追加しましょう」という大判振舞。有名シェフのお店貸し切り、6ディッシュにワイン飲み放題(?!)のスペシャルディナーは、7ケタの金額で競り落とされる。
 オークションこそ蚊帳の外だが、活動サポートのための寄付金募集は(たったの)3万円から。「ご協力いただける方は、お配りしたパンフレットの裏にある番号札をお上げください」という司会の呼びかけに、連鎖反応的に私も札を掲げた。

 ブラックタイが推奨される意味が分かった気がした。華やかな雰囲気の中で、こうやって着飾って美味しいものをいただける平和の有難味を改めて実感する。その幸せを、少しだけでも、世界におすそ分けする。

#余談ですが、ちょっと嬉しかったこと。イベント後に参加者に限定公開された写真集200枚余りの中に、生花コサージュ写真が♪ 光栄♡

#パーティに出席なさらなかった方も、ネット↓から寄付ができます。





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by miltlumi | 2017-05-26 15:20 | 私は私・徒然なるまま | Comments(2)

足裏の黒いヤツ(下)

 同い年の彼女が、転んでしたたか向う脛を打ってしばらくしたときのこと。
 「びっくりしたわよ~。足の裏が真っ黒になるのよ」
 「げげ~っ、何それ」
 腹の中が黒い、という話はよく聞くが、足の裏が黒いって、どういうことよ。

 …というツッコミはさておき、要は新陳代謝の問題である。内出血した血は、普通リンパの働きで、内出血が浸みだした部分からちゅうちゅうと吸収されていく。が、吸収速度が遅いと、血液が重力に従ってどんどんと降りて行き、ついに足の裏に到達して、それが貯まって黒くなるというのである。
 そんなバカな。多忙な彼女とちがって、私は毎週きちんとスポーツジムに通って鍛えてるもんね。1日の終りに足がむくむなんてこともないもんね。あのときは密かに優越感に浸ったのだが…。
 あれからそれなりに年を重ねてしまった今、私の新陳代謝力や如何。

 遺憾ながら、着実に代謝は落ちていた。しかし、黒くなったのは、足の裏でも、もちろん腹の中でもなく、足の内側の側面。内くるぶしの真下から土踏まずの上あたりがだんだん青黒くなる。黒というか黒紫というか。ああ、もう重力には勝てない。トシをとってしまった。
 改めて、もう若くはないことを自覚する。悲しい。仕方ないけど、やっぱり悲しい。

 そうか。転んだ瞬間、心を満たしたあの悲しみは、無意識のうちに「もう若くない」という認識を持ったせいだったのだ。だいたい、よそ見をして注意力散漫だったことも、咄嗟によける瞬発力がなかったことも、みんな「若くない」ことの証拠なんだ。
 自分の感情の裏にあった無意識の思考が明るみに出て、すっきりはした、けどね。

 こういう悲しい出来事は、自分だけの胸に秘めておくと悲しさが募るので、ブログで公開しようと思い立つ(何でもブログネタにするなんざ、転んでもタダでは起きない精神丸出しである)。いっそのこと黒くなった足の現物も見せたろか、と自虐精神が働き、患部をカメラに収める。しかし、青黒いくるぶしだけが大写しになった画像は、改めておぞましい。
 いくらなんでもこれをブログにUPするのは公序良俗違反だろう。やめやめやめ。

 あれから1週間。
 毎晩の自己流リンパマッサージの努力も虚しく、黒い足からはまだ脱却できていない。

追記:
 昨日、高校時代の友達から「同学年だった〇〇くんって、知ってる?」とFacebookメッセージで訊かれた。
 よく覚えてなかったので、卒業アルバムをひっぱり出してチェックしてみると、〇〇くん、すっきり系の、けっこうステキなタイプである。
 即刻、カメラで撮って送ってあげた。
 …つもりが、誤ってその写真の前に撮っていた、例の黒紫のくるぶし写真をUPしてしまった。
 げげっ!!と思って即座に削除した。
 …つもりが、とき既に遅し。瞬間に見てはいけないモノを見てしまった彼女から、速攻メッセージが。
 「すごい写真送られてきた(^_^;)」(原文のママ)
 Kさん、見苦しいモノを見せてしまって、本当に申し訳ありませんでした。


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by miltlumi | 2017-04-27 17:47 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

足裏の黒いヤツ(上)

 その瞬間、私の心を席巻した感情は、怒りでも驚きでも後悔でも羞恥でもなく、悲しみだった。
 スポーツジムに行こうとママチャリをこいでいて、思いっ切り電信柱にぶっかった。カゴからはみ出したかばんの紐に気を取られた瞬間、正面からぶつかり、横倒しに倒れて、右肘と右膝をアスファルトにしたたか打ちつけた。
 痛い。悲しい。えーん、と泣きたくなる。

 少し前、程よく空いた地下鉄の中で最後尾の車両に向かって歩いているときに思い切りすっころんで、座席に座る乗客の注目を一心に浴びて泣きたくなったのとは、次元の違う悲しさである。
 幸いここには、いいトシした女性がすっころぶ瞬間に目を瞠る他人の姿はない。黙って自転車を起こしながら、肘の下斜めに流れる赤い血に気づく。やだ、みっともない。初めて羞恥心が芽生える。ハンカチもティッシュもないので、血が流れるに任せて、そのままスポーツジムに向かう。

 受付でもらったバンドエイドで応急処置をして、いつも通りのセットをこなす…つもりが、最後のストレッチをしようとして、驚愕。右膝のすぐ下が、大福を張り付けたみたいにでっかく膨れ上がっているではないか。たんこぶって頭にできるものじゃなかったんか。
 膝に負担のかかるポーズは全部はしょってストレッチを終え、シャワーを浴びて服を着ようとしたら、スリムジーンズがはけないほど腫れている。痛い。

 湿布薬を買わなくては。ただでさえたんこぶを圧迫しているジーンズがさらに患部を押し付けぬよう、なるべく右足を曲げず、左足だけでチャリをこいでドラッグストアに向かう。
 ずらり並んだ湿布薬。30枚で498円(特価)と40枚で1980円。1枚あたり単価を計算しなくても、値段差は歴然だ。いくらなんでもこの差はひど過ぎないか。一秒でも早くたんこぶを冷やす必要があるにも関わらず、日頃の論理思考とケチ根性が鎌首をもたげる。
 「2枚の絵、5つの間違い探し」クイズよろしく、2つのパッケージをじぃい~~っと見比べる。ℓメントール(って何だ?)成分は一緒。1980円版はさらに鎮痛成分配合。ふむ。498円の「用途:肩凝り、腰痛、関節痛、筋肉痛、捻挫」に対し、1980円に「打撲」の表示。あ、決まり。こっちこっち。近来まれに見る大盤振る舞いで、お高い湿布薬をGETする。
 うちに帰って慎重にジーンズを脱ぐと、たんこぶは益々固く立派に育っている。まさか骨にヒビがいってるとか。幸い明日は骨盤矯正のため整骨院に行く予定だから、そこで診てもらえる。でも、何事もありませんように。お祈りしながら1枚50円の湿布をぺたんと貼る。

 翌朝、ベッドで目覚めたとたんに、おそるおそる膝を触る。うそのように大福がなくなっている。3倍の値段を出した甲斐があったか。
 整骨院の先生は、かくかくしかじか、私の説明を聞きながら、膝の状態を見てくれる。
 「ああ、骨は大丈夫ですよ。折れてたらそう簡単に腫れは引きませんから。でも、内出血が下に降りていきますからね。ちゃんとマッサージしておきましょう」
 内出血? 下に降りる? あっ。
 記憶の底から、数年前に友達から聞いた禍々しい言葉が浮上した。
 「足裏が黒くなる」                 ・・・(下)に続く

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by miltlumi | 2017-04-27 17:41 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

足裏の黒いヤツ(上)

 その瞬間、私の心を席巻した感情は、怒りでも驚きでも後悔でも羞恥でもなく、悲しみだった。
 スポーツジムに行こうとママチャリをこいでいて、思いっ切り電信柱にぶっかった。カゴからはみ出したかばんの紐に気を取られた瞬間、正面からぶつかり、横倒しに倒れて、右肘と右膝をアスファルトにしたたか打ちつけた。
 痛い。悲しい。えーん、と泣きたくなる。

 少し前、程よく空いた地下鉄の中で最後尾の車両に向かって歩いているときに思い切りすっころんで、座席に座る乗客の注目を一心に浴びて泣きたくなったのとは、次元の違う悲しさである。
 幸いここには、いいトシした女性がすっころぶ瞬間に目を瞠る他人の姿はない。黙って自転車を起こしながら、肘の下斜めに流れる赤い血に気づく。やだ、みっともない。初めて羞恥心が芽生える。ハンカチもティッシュもないので、血が流れるに任せて、そのままスポーツジムに向かう。

 受付でもらったバンドエイドで応急処置をして、いつも通りのセットをこなす…つもりが、最後のストレッチをしようとして、驚愕。右膝のすぐ下が、大福を張り付けたみたいにでっかく膨れ上がっているではないか。たんこぶって頭にできるものじゃなかったんか。
 膝に負担のかかるポーズは全部はしょってストレッチを終え、シャワーを浴びて服を着ようとしたら、スリムジーンズがはけないほど腫れている。痛い。

 湿布薬を買わなくては。ただでさえたんこぶを圧迫しているジーンズがさらに患部を押し付けぬよう、なるべく右足を曲げず、左足だけでチャリをこいでドラッグストアに向かう。
 ずらり並んだ湿布薬。30枚で498円(特価)と40枚で1980円。1枚あたり単価を計算しなくても、値段差は歴然だ。いくらなんでもこの差はひど過ぎないか。一秒でも早くたんこぶを冷やす必要があるにも関わらず、日頃の論理思考とケチ根性が鎌首をもたげる。
 「2枚の絵、5つの間違い探し」クイズよろしく、2つのパッケージをじぃい~~っと見比べる。ℓメントール(って何だ?)成分は一緒。1980円版はさらに鎮痛成分配合。ふむ。498円の「用途:肩凝り、腰痛、関節痛、筋肉痛、捻挫」に対し、1980円に「打撲」の表示。あ、決まり。こっちこっち。近来まれに見る大盤振る舞いで、お高い湿布薬をGETする。
 うちに帰って慎重にジーンズを脱ぐと、たんこぶは益々固く立派に育っている。まさか骨にヒビがいってるとか。幸い明日は骨盤矯正のため整骨院に行く予定だから、そこで診てもらえる。でも、何事もありませんように。お祈りしながら1枚50円の湿布をぺたんと貼る。

 翌朝、ベッドで目覚めたとたんに、おそるおそる膝を触る。うそのように大福がなくなっている。3倍の値段を出した甲斐があったか。
 整骨院の先生は、かくかくしかじか、私の説明を聞きながら、膝の状態を見てくれる。
 「ああ、骨は大丈夫ですよ。折れてたらそう簡単に腫れは引きませんから。でも、内出血が下に降りていきますからね。ちゃんとマッサージしておきましょう」
 内出血? 下に降りる? あっ。
 記憶の底から、数年前に友達から聞いた禍々しい言葉が浮上した。
 「足裏が黒くなる」                 ・・・(下)に続く

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by miltlumi | 2017-04-27 17:41 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)