2012年 08月 26日 ( 1 )

いがいがことば

 平日のランチタイム。混雑を避けて早めに出掛けて、緑の並木に張り出したオープンエアのテラスに席を陣取る。珍しく朝方に降ったにわか雨のおかげで風が涼しい。
 4人連れの家族が、屋内の店内を通らずに直接テラス席にやってくる。遅めの夏休みなのだろう、サラリーマンっぽいお父さんは七分丈パンツを穿いている。いいなあ、と思ったのも束の間、後ろのテーブルに腰を下ろした彼ら(正確には、お父さんとお母さん)は、何やらとげとげしい。
  「ほらっ、結構涼しいじゃない」(語尾に相手を見下げたような高飛車なトーン)
  「涼しいわけ、ねえだろうっ」(脚本なら「巻き舌で毒々しく」という注釈がつく)
 夏場の夫婦の体感温度戦争は、いつだって熾烈を極める。大体が、女性は寒がりで男性は暑がりなのだ。夜の寝室は愛を育む場所とは程遠く、「暑苦しいからそばに寄らないでよ!」「オマエこそこっち来るなよ!」という会話、というより言い争いから始まり、しばらくするとエアコンの温度設定を上げる・下げる、切る・切らないで、実力行使のリモコンの奪い合いに発展する。
 最後は「もういい。オレはリビングで寝る」と枕を抱えたダンナがドアの外に消えていく。夜中、扇風機のタイマーが切れて、さすがにふと目を覚ました奥さんが、トイレに行こうとリビングを通り抜けると、冷蔵庫のように冷えた部屋のソファで敵が丸くなっている。

 それでも、別行動ができるうちはいい。一緒に外出、となると、空間を分けるわけにもいかない。クルマのエアコンを巡って夜と同じ諍いが繰り返され、ようやく目的地に着いたら着いたで、上述のいがみあい。節電の夏どこへやらキンキンに冷えた屋内テーブルと、吹く風が気持ちいいはずの、でもへたすると熱風に煽られる屋外テラスとどちらにするか。子供二人引き離し、まさか2対2で別々のテーブルにつくわけにもいかない。
  「…だって言ってるでしょうっ」
  「…なんだよっ、まったくもう」
 気温論争に引き続き、別の話題に移ったらしいものの、依然としてハリネズミのような言葉の応酬が繰り広げられる。その間、小学生らしきお兄ちゃんと妹は、存在を消している。

 私は彼らに言いたくなる。暑いのは、ダンナのせいでも奥さんのせいでもありません。せめてイガイガした言葉遣いは止めましょうよ。自分が口にする言葉も耳にする言葉も、発せられた途端に脳みそにはね返って、気分を捻じ曲げます。お互いの言葉がお互いの脳みそを、そして子供達の心をとげとげにしてしまいます。
 太陽ちょっと頑張り過ぎだよね。そろそろへたってくれてもいいのにね。熱風吹いたら、タダでサウナ入ってると思おう。
 
  「すみません、これにかけるチーズください」
  「粉チーズ、ですか?」
  「他に、何があるっていうんですかっっ」
 ついにイガイガ言葉は、店のウェイターの脳みそも攻撃し始めた。心の耳に栓をして、私は読書に集中し始めた。
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by miltlumi | 2012-08-26 18:11 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)