季節の変わり目が、好きだ。 昼間に街を歩いていて、あるいは夕方の空をふと見上げて、ああ、また夏が来たなあ、と思う。あの年の、あの場所で出逢ったのと、同じ夏。 八ヶ岳の麓の貸別荘のデッキテラスに吹いていた風とか。 都心のプールサイトで日がな一日寝転んで眺めていた空とか。 そうやって、昔感じた季節の肌触りを思い出して、今と照らし合わせてみて、うん、やっぱり「あの夏」と同じだ、と思う。たぶんそれは、五感と一緒にあのときの満たされた幸せな気持ちも記憶の中から引っ張り出して、もう一度幸せを反芻したいんだと、自分でもわかっている。 今年は空梅雨なのか、まだ7月にもならないのに、小学校のときの夏休みの空みたいな青空が広がって、お日様は朝っぱらからじりじりと肌を焼き、Tシャツの背中に汗がにじむ。 それでも、季節が一歩進んだことは、なんとなく喜ばしい。特別な場所にいかなくても、こうやってうちでいつもの朝ご飯を食べながら、窓の外を眺めているだけでも、十分な気持ちになれる。 今日の空気は、いつどこで感じた夏と似てるかなぁ、と思いを巡らせてみる。そう思いながら、過去を思い出さなくても、今、ここにいる自分が、そのまま満たされている、ということに気づく。 平凡な朝の、平穏な気持ち。…だったはずなのだが。 今日は「燃えないごみ」の日だから、朝食のミューズリーとコーヒーの食器を洗い終わってすぐにごみをまとめる。玄関を開けると、すいーっと涼しい風が吹き抜ける。昼間の熱を帯びる前の、まだ新鮮な空気。 ごみ置き場から戻って、玄関の鍵を開けようとして。 …鍵が、折れた。 鍵穴にささった部分を中に残したまま、手の平にはヘッドの根元。 まじか~!? 朝っぱらから締め出しか~!? しかし、つい先ほどかけたのは、もう1つ別の鍵のほうだったことを思い出す(玄関錠は2ヶ所あり、それぞれ別の鍵をつけているのだ)。そぉっと鍵を差し込み、そぉっと回して、そぉっと抜き出す。つつがなく、ドアが開く。 もう1つの鍵穴に残った折れた鍵はどうするか。慌てず騒がず、うちの中で一番先っちょが細いペンチを取り出してくる。ペンチは、難なく鍵の片割れをつまんで引きずり出してくれた。 ま、結果オーライか。大過なく(?)始まった今年の夏。 来年の今頃、青い空を見上げながら、くすくすと思い出すのは、この折れた鍵のことにちがいない。
by miltlumi
| 2018-06-29 10:15
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