大学2年のちょうど今頃、藤で編んだバスケットを買った。アタッシュケースのような箱型で、蓋の側についた枝みたいな棒を本体側に編み込まれた輪っかにぐさっと挿して留めるという、徹底的に自然素材のエコなデザインだった。 バスケットに合わせて、赤い小花がグラデーションに散っている白いレース生地で、襟ぐりをフリルで覆ったブラウスとロングのティアードスカートを縫った。これでつばの広い麦わら帽子をかぶれば、堀辰夫の小説から抜け出したようなオトメ、あるいはモネの「日傘の女性」(日傘じゃないけど)の一丁上がり♡。…あの頃の私は、あくまで少女趣味であったのだ。 その出で立ちを公衆の面前で披露する機会は、夏休みに入ってすぐに訪れた。高原の風そよぐ軽井沢、ではなく、西伊豆の海岸。同じ大学の女子学生10人くらいで、体育会連中が運営する寮に1泊2日で行くことになったのだ。 しかし、荷造りの段階でいきなり難題に直面した。バスケットが小さい。夏の1泊旅行とはいえ、海となると水着にビーサンに日除けのパーカーも必要になる。とても入りきらない。 今も自慢の私の「コンパクト荷造り」能力は、おそらくあの時にわかに習得したと思う。さすがにビーサンはギブアップしたが、とにかくきっちりかっきり洋服類を畳んで隙間なく詰め、化粧品は最低量のミニボトル。天然素材の伸縮性に助けられ、驚くような軽装を実現した。パンパンのバスケットの取っ手を持ち上げたときの、ずっしり、しかし軽やかな感触が、いまだ手に残っている。 神奈川県の西の端にある実家に帰省していた私は、駅のホームで、友だちを乗せて延々東海道を走ってくる緑とみかん色の電車を待った。16両編成の長い列車がやってくる。窓越しに手を振っているのが、彼氏だったらよかったのに。彼氏イナイ歴20ヶ月目に突入しつつあった私は、それでもにこやかに友達の輪の中に入って行き、私の軽装への感嘆の声を一身に浴びた。 入り江に面した寮に到着すると、モネを真似てティアードスカートの裾を海風になびかせてみることも忘れて、とっとと短パンにはき替えて砂浜に向かった。 夜。ハタチ前後の女の子ばかりのおしゃべりは尽きない。どんな話に花を咲かせていたのか、何も憶えていないけれど。ひとつだけ憶えているのは、寮に備え付けられたノート(あの頃の民宿にはたいがい、宿泊者が旅情に任せて想いを綴るためのノートが置いてあった)に書いた一言。 「今は100人の友達より1人の恋人がほしい」 運動部の友達が、このあと泊りに来るセンパイ男子学生に読まれたらハズカしい、と騒いだので、余計に記憶に刻まれている。 スマホやデジカメが発明される前の時代。父が買ってくれた銀塩フィルムのカメラは最初にバスケットからはじき出されたから、バスケットもティアードスカートも、そして10人の友達も、あのときの写真は何も残っていない。 でも今日、その友達一人と、大学構内に出来たレストランで久しぶりにランチをする予定だ。
by miltlumi
| 2016-07-13 09:17
| 機嫌よく一人暮らし
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