人気ブログランキング |

ぽよよん (その1)

 少し前、イレウス闘病記をこのブログで連載したのは、人に伝えずにはいられないほど面白い体験だったせいだが、将来(あるいは過去)に同様のことを経験するであろう(した)方々への心の準備(あるいは整理)に役立てれば、という貢献意欲も、まあ10%くらいは、あった。
 その後日談である今回は、明らかに後者である。イレウス管とちがって面白くもなんともない話ではあるが、参考実用情報として記しておきたい。

 コトの発端は、術後2ヶ月が過ぎるあたりから、おなかの張りが減るどころかむしろ増してきたことである。ぽよよん、とばかりに膨らんでいる。体重快復のためせっせとカロリー摂取したせいかと思ったが、体重はさほど増えていない。病院に行って胃腸薬を処方してもらうが、一向に改善しない。
 しばらくして、寝る前にベッドの上でお腹をさすって張り具合を確かめるという、既に習慣と化した動作をしていたとき、突如自分のしでかした失敗に思い当たり、血の気が引いた。「術後3ヶ月は控えてください」と言われていた腹筋運動を、2ヶ月たったあたりからついやってしまっていたのである。「ちゃんとくっついてないのにおなかに力を入れると、裂けちゃいますからね」と脅されたのに、ころっと忘れていた。むしろ、お腹がなかなか引っ込まないのにしびれを切らして腹筋鍛え直さなきゃ、と真逆な発想に囚われてしまったのである。
 眠気も吹っ飛び、心臓がどきどきした。腹筋が裂けちゃってるかもしれない…。思い浮かぶのは、ズボンの後ろの縫い目がびりっと破れたみたいにぱっかりと紡錘形に開いた腹である。どうしようどうしようどうしよう。そうなると、なんだか傷口の周辺がちりちりと痛む気さえする。がばりと起き上ってPCをオンにし、グーグル検索する。
 開腹手術、腹筋、切れる、切断、痛い、…。思いつく限りのキーワードを入れて出てくる結果を片っ端からクリックするが、どれもいわゆる質問投稿サイトばかり。「私もおなかがへこみません」「腹筋運動はしばらくしないほうがいいと言われました」「手術した病院でもう一度診てもらうのが一番でしょう」など気休め程度のことしか書かれていない。
 熱心に書き込みをしてくれる人たちを責めるのはお門違いだが、読んでいるうちになんだか腹が立ってくる。私が得たい情報は「同病相哀れむ」的な慰めや「専門家に相談しましょう」という解かりきったアドバイスではない。術後3ヶ月たたないうちに腹筋運動をしてしまったら何が起こるのか、それはどの程度に深刻なものでどのように対処すべきなのか、そういう具体的な専門家の意見なのである。専門家である医師は、そういうことをネットで説明するほどヒマではないらしい。やはり病院に行くしかない。
 しかし、翌日からしばらく泊りがけの予定があったため、週明けでないと病院に行けない。再手術になったらどうしよう。「無理しないでね」と気遣ってくれた友だちに合わせる顔がない。また仕事を休んで迷惑がかかる。きっと兄に馬鹿者扱いされる。暗澹たる気分がどんどんと募り、久しぶりに夜中過ぎまで寝つけなかった。

 それからの数日間、朝起きるとお腹に手を当てて「昨日より張ってる」と思い、ベッドから起き上がるときにちりりとお腹が痛む気がして眉を顰め、食後にお腹を見下ろしては「でかすぎる」とつぶやく。何をしていても、いつの間にか意識は腹筋に舞い戻ってくる。素人が何度繰り返し考えても、医者に診てもらうまで腹筋の状態はわからない。こうやって心配してもしなくても、腹筋の状態が変わるわけではない。自分の知らないところで、といってもつまり自分のお腹の中で、既に結論は出ているのである。あれこれ考えたからといって事態が改善するわけではない。時間の無駄というものである。
 それでもやっぱり考えてしまう。身体のコンディションというものが、どれほど気持ちに影響するか、身を以て知る。想像力がだんだんリアルになり、「裂けた腹筋」で連想するものは破れたズボンのお尻ではなく、箸でつまみ上げたときに不規則に亀裂が入る、しゃぶしゃぶ用の豚ロース肉の赤身に進化(?)する。
                            ・・・ (その2)に続く
by miltlumi | 2014-08-11 21:40 | Comments(0)
<< ぽよよん (その2) ほらね >>