人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ほらね

 旅行に行く前に、詳細にガイドブックに目を通す人と全く見ない人と、人のタイプは大きく2つに分かれる。私はどちらかといえば前者である。でも、くまなく読むというより大体ざっと見る感じ。
 地図を見て、宿泊するホテルを中心に東西南北を把握して、主だった観光スポットとの位置関係をチェックする。何しろ私は「地図が読める女」なので(数少ない自慢だ)、これだけは事前確認しておきたいのだ。一人旅のときはなおさら。さらに興味を引いたレストランがあれば、付箋に矢印と食べ物ジャンルと電話番号を書いて貼りつける(たいがいガイドブックは図書館からの借り物だから直接書き込むわけにはいかない)。ましてや最近は「食べログ」で調べたお店のほうが信頼度が高かったりするから、付箋の書き込みと貼付は必須になってきた。

 ホテルにチェックインして荷物を置くと、いざ出発。大体の地理は頭に入っているから、この道をこう行けばあそこに出る、という目算をつけて、散策を始める。しばらくあちこち歩いているうちに、身体が位置関係を習得してくる。
 何度目かの道を歩きながら、ふと思いつく。たぶんここを真っ直ぐ行って右に曲がればあの橋の上に出られて、観覧車が目の前にそびえたつはず。勘を頼りに歩いていくと、期待通りの光景が眼前に広がる。
 「ほらね」
 心の中でつぶやきながら、ひとり笑みを浮かべる。
 調子が出てくると、空間だけでなく時間の感覚も研ぎ澄まされてくる。この時間にカフェを出て、モールの裏からあの建物の横を通って行けば、海辺にはちょうど日が傾きかけた頃に着くだろう。海風にくまなく撫でられている丘の上から、逆光に縁どられた街のシルエットが見渡せるだろう。そして、その時間その場所に到着する。
  「ほらね」
 今や私は得意満面である。

 でも、本当の旅の醍醐味は、ガイドブックにも載っていない路地に迷い込んで思わぬ景色に出くわすことなのかもしれない。とある作家が、気が向くと最寄駅から電車に乗って、適当な駅で降りて何も考えずにあてもなく散歩をし、当然のように道に迷う、と書いていた。うわあ、大物だ、と思った。
 そういう人にとっては、「ほらね」という言葉はありえない。「ほらね」というのは、あらかじめ何らかの予測を立てておいて、それがその通りになったときに発する「ほら、当たったでしょう」という確認の感嘆詞なのである。何の予測も目論見もないままただふらふらと歩いていて、何かに出会ったときに口を衝いて出るのは、それこそ「うわあ」とか「あらまあ」といったものだろう。

 「ほらね」よりも「うわあ」のほうが、サプライズが無限大に広がる可能性を感じさせる。そう、わかってはいるのだが、事前に地図を確かめる癖はなかなか抜けてくれない。まあ、どちらでも本人が楽しめればいいのだけれど。
by miltlumi | 2014-08-06 21:28 | 私は私・徒然なるまま | Comments(2)
Commented by cazorla at 2014-11-28 05:26
迷子です。
迷子しまくり。
で バスも適当に乗り継いで 知らないところに行くのがすきです。 それは地図を読めない女が あきらめから達した旅の方法。 あらまあの連続も この年 54 では きついですが。 バスでたどり着いたところが 終点で もうバスがないと運転手さんに言われ どうやってホテルに帰るっという状況もありました。 バスに乗せるのは禁止だから見えないようにしてねと言われ床に這いつくばって ホテルに連れて行ってもらいました。 
Commented by miltlumi at 2014-12-20 13:24
Cazorlaさんは「地図が読めない女」ですか(笑)
そのバスの運転手さん、ステキですね(笑) 素直に這いつくばったCazorlaさんもステキ(笑)
<< ぽよよん (その1) 本を揃える >>