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脳みその自動自己正当化装置

 夫婦お互いことごとく共通点がなく、水と油、冷戦だというエッセイを読んだ。それでも知り合って間もない頃、誕生日が同じであることがわかった。今やそれが二人をつなぎとめる数少ない紐帯だそうだ。
 元の夫と、誕生日が1日違いだった。それを知ったとき、これこそ「運命」だと欣喜雀躍した。結婚披露宴の最後に新郎とともに挨拶したときも「誕生日が一日違いで性格が似てるから、気の合うところはすごく合うけどぶつかると大変」というようなことを口走った。
 今から思えば、誕生日なんぞ運命でもなんでもない。大体、誕生日が1日違いの人は他にもいたし。恋をしているときは、何でもいいから相手との共通点を捻りだすものだ。1日違いどころか、誕生月が同じでも嬉しいし、違う月で同じ日でもそれが特別なことに思える。

 私の女友だちは、つきあっている彼氏とうまく行かなくなり始めていた頃、見知らぬ街を尋ねるのに、その地に住む男友だちに案内してもらうことになった。当日彼の都合がつかなくなり、代わりにその友だちがやってきた。待ち合わせの場所でその人を一目見た彼女は、「運命」を感じた。かくして半年かそこらでスピード結婚。
 こんな例は枚挙にいとまがない。要は、ケッコンしたいときは相手に関して見るもの聞くことすべて「運命」と結び付け、単にサカリがついていることを正当化しているだけなのである。

 脳科学者が行った実験で、二つの選択肢から一つを選んでもらった場合、選択行為のBefore・Afterで選ばなかったほうの物事の評価が下がるという現象が確認され、シナプスからなんとかいう物質が放出されていることもわかった(*)。人間の脳みそは、自分が正しい選択をしたと信じたいがために無意識のうちに感情を操作する。この機能がうまく働かないと、決めてしまった後で「あっちのほうがよかったんじゃないか」とくよくよ悩まないといけなくなる。
 あれもこれも「運命」に思えてしまう、あの結婚間際の浮足立った感情は、明らかにこの自動自己正当化装置の賜物であろう。だいたい、「世界広しと言えども、カレでなければいけない」理由なんてどこにもないのだ。
 …と胸を張って言えるのは、おそらく離婚経験者だからこそである。幸運にも一度目の結婚を継続している忍耐強い紳士淑女の皆様は、自動自己正当化装置をずっと正常に稼働させ続ける手腕に恵まれているちがいない。羨ましい限りである。

 さほどに親切な脳みその自動自己正当化装置も、歳を重ねてだんだん賢くなるにつれ、理性にうっちゃられてしまう。結婚前にこの装置の機能が低下すると、結婚相手候補との「運命」をでっちあげるヒマもなく、やれ年収だとか会社の肩書きだとか家事ができるできないとか、細かいことが気になりだす。昨今のアラフォーお見合いでは、生命保険加入状況まで開示する場合もあるらしい。
 やっぱり結婚はあまり賢くない若いうちに勢いでやってしまったほうが、いいのではないか。

(*)「脳は楽観的に考える」(ターリ・シャーロット)

by miltlumi | 2014-07-10 14:24 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)
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