(その1)はこちら・・・
(その2)はこちら・・・ (その3)はこちら・・・ (その4)はこちら・・・ (その5)はこちら・・・ これだけ苦労して挿入しただけのことはあって、その日からは1日1リットル近くもずいずい悪い物が吸い出された。お腹がぐるぐる…と来て少しすると、視界ぎりぎりに入っている管の中が動き出す。吸引器につながる管にどどどーっと茶色いどろどろした液体が流れて行く。そこにたまにガスが混じる。本来なら下のほうから「お○ら」として放出されるべきものである。 その頃にはもう免疫が出来ていて、目の前を「そういうもの」たちが移動して行っても何とも思わない。吸い出されるたび、少しずつへこんでいくお腹をなでながら、「もっと出てね~」とお祈りをする。 H先生とリケジョ先生の単独サッカー戦ののち1週間、お腹はほぼ元通りになったが、腸液の放出は止まらない。つまりまだ先にもたまっているのである。レントゲンを撮ってみると、小腸の終りまであと30㎝以上あるのに、バルーンを萎めても管がそれ以上先に進まない。最難関の閉塞がそこで起こっているらしい。メルヘンはハッピーエンドではなかった。表情を曇らせたH先生が告げる。 「I先生と相談します」 少し前から手術を視野に入れていたH先生の要請で、外科の先生も容態を診るようになっていた。翌日、I先生から宣告が下る。 「どうも手術したほうがよさそうですね」 ただ、GWに入ってしまうので、強引にスケジュールを組むと、明後日の25日か、そうでなければ1日(9日後だ)だという。どうしますか?と聞かれ、即答する。 「明後日にしてください」 こんなもの、待っていたっていいことはひとつもない。医師にしてみれば、手術という一大事への心の準備が必要だろうとか、家族と相談する時間を下さいと言われるかも、と慮って「どうしますか?」と言われたのだろうが、善(?)は急げ、である。 「わかりました。ではその方向で」 幸い、そのとき立ち会った看護師も服部さんだった。I先生が出て行ったあと、例のビジネスライクなトーンで服部さんが言った。 「冷静でしたね」 そうか。「手術」と言われ、普通なら「えー!」とか「成功するんですか?」とか少しはうろたえるべきだったか。しかし出続ける腸液やふとしたはずみでまた張ってくるお腹が、一筋縄ではいかない容態を物語っているのに気づいてはいた。昨日のH先生の表情からも、これは手術かもと思っていたし、やるなら早いほうがいい。 「なんだか、そういう気がしてたんですよね。自分の身体のことって、なんとなくわかりますでしょう」 「ああ、そうですね。若い人ならね」 日頃から平均年齢70歳くらいの患者を相手にしている服部さんにとって、私は若手である。それにしても「若い人」のほうが自分の身体の声に耳を傾けたりせず無茶をしそうであるが、逆に80歳くらいになると感覚が鈍ってくるものなのだろうか。 手術が終わって食事が再開され、しばらくお休みしていた体内の管が再び働き始める。イレウス管のおかげで、私は悟りを得た。 人間は、考える管である。 しかも、ミミズよりも厄介な管であり、厄介であるおかげで管の中でメルヘンやサッカーが繰り広げられる。自分の好むと好まざるとに関わらず。 宇宙の森羅万象。自分の身体さえも、自分の意思に関係なく動いていく。 (おしまい)
by miltlumi
| 2014-05-08 16:44
| イレウス奮闘記
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Comments(14)
はじめまして
素晴らしい体験記ですね 誰もコメントしていないので、躊躇いましたが、コメント欄が開いているということは許されるのだろうと書かせていただきました ものすごくスピード感があって、しかもユーモラス! 腸閉塞なんてすごく苦しい病でしょうに、にも関わらず明るく楽しく書かれて… 特にその⑤のゴールを決めたところなど、腹を抱えて笑いました ハイタッチして拍手喝采です さすがです まだ通院されているとのこと お身体お大事になさってください 一ファンより
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scarofheart47さん、コメントは大歓迎ですよ~ ありがとうございます!
ブログの読者のほとんどがFacebook友達なんで、コメントは主にFBに書きこまれることが多いのです。でもこうやって直接コメントしていただけると嬉しいです。 これからもよろしくお願いいたします♪ ![]()
やませみさん、ありがとうございます。皆様にご心配いただき、深謝です。
忠告に従い、無理せずゆるゆるリハビリに努めます。 ![]()
はじめまして、現在腸閉塞で入院中です。胃菅では改善されず、とうとう明日イレウス菅を入れると宣告されて体験記を探してたどり着きました。不安で仕方ありませんでしたが、先生たちのやりとりを私も先生たちのやりとりを冷静に観察しようと思いました。勇気もらいました。ありがとうございます。
ナボナさん、コメントありがとうございました!
入院生活、大変ですね。イレウス管、明日挿入ですか。ちょっとタイヘンかもしれませんが、ぜひじっくりご自分と先生たちの様子を観察してみてくださいませ。冷静に観察するのって、面白いです。 いずれにしろ、イレウス管を入れれば必ず、おなかにたまってるものの排出は格段に進みますから、快復に向けた大きな一歩になります。頑張ってくださいね~!
ナボナさんは、イレウス管でうまく快復なさって、手術まではしなくて済むことを、心よりお祈りしています!
![]()
はじめまして。40代男性・X線装置のメンテナンスをている者です。
X線装置検査立会でイレウス管挿入があり、あまりよく知らなかった為、 単に「イレウス管挿入とは何か?」を調べる目的で検索していたらこちらにたどり着きました。 あまりに文章がお上手なので、本来の目的を忘れて読みふけってしまいました。 おかげさまで、単に知識としてのイレウス管挿入の意味だけでなく、リアルで生々しい部分も よくわかり、大変おもしろかったです。ありがとうございました。 また、こちらのブログを見にきたいと思いました。
tetsuさん、コメントありがとうございます!
わたしのときも、はい、X線装置、ありました。っていうか、先生はひたすらそれを頼りに超原始的・手さぐりのイレウス管挿入作業を進めておられました。あれが唯一科学的な道しるべ。私は見られなかったけど…(笑) メンテナンスのお仕事、患者さんたちのためにも、ぜひとも宜しくお願いします! ![]()
友人がイレウス管を入れたと言うので、検索していたら、この記事に出会いました。
素晴らしい文章!、いつでも自分の身にふりかかる思いもあって、思わず、一気に最後まで読んでしまいました。 お礼を申し上げたく。 ありがとうございました!
てうさん、コメントありがとうございました!
ご友人の方、イレウス管治療は順調でしょうか? 私みたいに結局手術、ということにならず、快復なさるといいですね。 この文章、入院中にベッドの上で書いたものなんで、今読み返すと我ながら生々しい(笑)ですが、同じ体験をされた(あるいはするかもしれない)方々に、少しでもお役に立てると嬉しいです。 ![]()
イレウスの悲喜劇という、今まさに鼻から管二日目の私には目からウロコの記事!大変興味深く拝見させていただきました!管を入れる痛みに私は耐えきれず、嗚咽号泣嘔吐。。入れてからも、喉の異物感で吐き気が止まらず。あと3日の予定ですが、頑張ってみます!
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