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イレウス管の悲喜劇 (その4)

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 しかし考えてみれば汚いも何も、これから先数日間は、その汚いものがこともあろうに自分の鼻先から目の前を通って外に出て行くのである。みっちりしたゴム管越しだから漏れたり臭ったりすることはないとはいえ、しばらく目の前でずうっと「それ」が流れ出てくるのを眺めていなければならないのである。お茶の間のすぐ脇に、絶対割れない透明なガラスの壁でできた汲み取り式トイレが鎮座しているようなものである。
 といっても、背に腹は代えられない。所詮人間は入れて出すだけの存在なのだ。美味しくいただいたものが下から出て行くかわりに上から出てって何が悪い。人間、いざとなればどんな環境の元でも生きられる。

 じきに自然放出型のドレインパックから吸引器に変わり、圧力をかけて人工的に吸い出す作戦に移った。鼻から出てくる「いかにも」な色の腸液を眺めながら数日を過ごしたが、今一つ出が悪い。レントゲンで見ると管がまだ大量にたまっている箇所に到達していないという。

 管の先には直径1㎝くらいのバルーンがついていて、本来であればバルーンが先導役となって腸の蠕動によって管は自然と先に進んでいき、閉塞を起こしたまさにその場所で止まるらしい。多少の狭窄であれば、バルーンをすぼめなくても進んでいって、自然に狭窄を突破して管が貫通する。そうやってそのまま小腸の最後まで行きつけば万事OK。
 そう、今、私のお腹のなかには風船が浮かんでいるのだ。バルーン。そのメルヘンチックなグッズは、管の路肩部に注射器で空気を入れたり抜いたりすることで膨らませたり萎ませたり自由自在なのである。しかしそれは、ぽっかりのんびり青空に浮かぶのではなく、薄桃色の狭い空のもと、うんしょこうんしょこ前進あるのみ。想像するだけで健気な姿ではないか。

 話が逸れたが、ともかく愛しきバルーンちゃんが悪戦苦闘しているというので、再びレントゲン室でトレーニングウェアもどきのH先生と対面した。例の物理的・原始的方法によって管を強引にさらに奥に押し進めようというのである。
 今回の助手はうら若き女性で、しかもH先生のようなトレパン姿ではなく、さすがに白いエプロンこそつけてはいるものの紫のタートルネックにシルバーのネックレス、茶髪を肩のあたりでくるんとさせている。今流行りのリケジョタイプである。気のせいか、H先生もこの前より明るく張り切っているようである。
                                                ・・・(その5)に続く
by miltlumi | 2014-05-06 10:23 | イレウス奮闘記 | Comments(0)
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