(その1)はこちら・・・
左の鼻から入っている管をつるつると抜いてほっとしたのも束の間、右のほうからそれより0.3㎜太い管が差し込まれたとたん、私はうめいた。 「いた、いたい、いたいっ」 「あ、痛いですね。鼻の孔、右のほうが狭いですね」 すかさずH先生が管を引っ込める。感触でわかったのだろう。すぐに左に変更される。それでも痛い。しかし前回ある程度経験した痛みである。「痛いですか?」「う~」みたいな意味のない会話を繰り返しながら管は胃に達したらしい。 問題はそれからだ。管の目的は、小腸にたまった腸液やガスを吸い出すこと。従って、通常は縦横無尽に腹腔内をのたくりまわっている小腸に、柔らかいとはいえ真っ直ぐなゴム管を入れるのである。というような客観的事実は、事後になってようやく理解したことで、そのときは何の理解も心の準備も、もちろんカラダの準備もできていなかった。 で、どうやって曲がりくねった小腸に管を入れるかというと、単に外から押すのである。人間の動きはGPSで地球上どこにいても逐一感知され、自動車さえ自動走行しようという21世紀にあって、物理的にぐいぐい押しながら入れるのである。もちろん管に造影剤が混入されていて、レントゲンのモニターをリアルタイムで見ながら、ではあるが。あとは、鼻の孔から出ている管の先を微妙に上下左右に動かして調節する。単なる職人芸である。 「よし、そのまま真っ直ぐ」 「次、クランク。あー、そうじゃなくて左」 H先生があれこれ言うたび、助手役の技師が私の腹を押したり揉んだりする。そんじょそこらのリンパドレナージュや痩身術など足元にも及ばないような激しい揉み方である。さすがに内臓内に痛点はないらしく、揉みしだかれるお腹の中は異物感が感じられるだけだが、操り人形のような職人芸が続く管があたる鼻の孔や食道はたまったものではない。「痛いですか?」という言葉の3回に1回くらいはゼリー状の麻酔剤が管の周りに塗られて、さらにずいずいと鼻の孔を通って深部に向かう。ただの気休めである。 しかし、この管を入れない限りお腹にたまった悪いモノは出て行かないし、出て行かない限り、ぱんぱんに膨れた腹はぺたんこにならない。それに、開腹手術に比べればまだましだ。10年前に子宮筋腫で開腹手術をした翌日、強引に歩かされて病室を出て3歩もいかないうちに根を上げるほど痛かった記憶が生々しく甦る。あれをもう一度やるならこの管のほうがずっと耐えられる、と自分に言い聞かす。 ・・・(その3)に続く
by miltlumi
| 2014-05-04 00:04
| イレウス奮闘記
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