おばあちゃんち、みたいなうちに泊まった。東京から程近い山里に、ずうっと昔からあった茅葺屋根の古民家がそのまま民宿になっている。以前近くを通りかかったときに目にしていて、今回思い立って電話をしてみたら(HPはあったけれど、ネット予約はもちろんできない)、「一部屋だけ空いてます」
チェックインタイムよりちょっと早めに到着すると、雑種らしき黒犬が愛想よく出迎えてくれる。鼻を触ろうとしたら(私は犬や猫や馬の鼻の感触が大好きなのだ。牛の鼻は硬いのでNGだ)吠えられた。それでも頭や首を撫でてやろうとすると、「もうアンタへの歓待はおしまい。つぎっ!」と言わんばかりに、連れのほうに行ってしまう。 庭先で植木に水をやっていたおばあさんが「車はそこに停めていいですから」と、古民家の手前にある普通の家の庭先を指差して、親切に教えてくれる。 間近で見る古民家は、軒の下から見る茅葺の厚みといい、杉板で作られた戸袋の模様といい、30㎝ほど持ち上がった床から庭に降りるための踏み石といい、兵庫の山里にあったおばあちゃんちに本当にそっくりである。 開け放たれた玄関を入ると、土間の向こうにいきなり二間続きの十畳間。右手の茶の間には囲炉裏が切ってある。土間の吹き抜けには黒々とした太い梁が横たわる。十畳間は食事室らしく、どっしりした座卓に既に夕食用の座布団がしつらえてある。 長押の上には、これまたおばあちゃんちと同じように、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの対の白黒写真が数組。神棚に仏壇。二部屋をぐるりと囲む障子はあっけらかんと開け放たれて、縁側の掃出し窓にかかるよしずが涼しい風に揺れている。ここしばらくの東京の猛暑に比べると、もう天国。 「お部屋は一階になります」 お嫁さんか、あるいはあのおばあさんの娘か、予約の電話口に出たのと同じ女性が案内してくれた先は、なんとその食事室と襖で隔てられただけのもうひとつの十畳間。障子越しに、先ほどの縁側がぐるりつながっている。プライバシーもセキュリティーもへったくれもない。本当に、夏休みにおばあちゃんちに帰省した気分になる。 大きな掛け軸がかかっている床の間には雄々しい鎧兜(ホンモノっぽい)、碁盤の上に白黒の碁石入れ。そして、羽根を大きく広げた鷲が二羽、つるつるに磨かれたこぶこぶの木の根にとまっている。これもホンモノだわ、と眺めていると、連れが無邪気に一言。 「これ、くんせい?」 「うん、そうみたい」 うなづいた次の瞬間、爆笑。それ言うなら、クンセイじゃなくてハクセイでしょう。 ・・・その2.に続く
by miltlumi
| 2013-07-25 08:11
| 私は私・徒然なるまま
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