ビックカメラで不思議な店員に出会った。携帯型メモ端末のデモ機がうまく開かなくて、「すみません、これどうなってるんですか?」と尋ねたら、
「ああ…、これね、このスライドのところが壊れちゃってるんですよ。どうしてみんなもっと丁寧に扱ってくれないのかなあ。ほら、ちゃんと注意書きがしてあるでしょう。それなのに、みんなガッと力入れるから…。困ったなあ。本当はこうやってこうすればこうなるのに…」 いつもの声(って、普段どんな声で話してるのか知らないけど)より♭ひとつ分低い、すごく哀しそうな声でぼそぼそと話すのである。歳の離れた妹が大切にしていたセキセイインコが猫に喰われたとか、米寿祝いの直後にお祖父さんが餅をのどに詰まらせて亡くなったとか、そういう話を関係者に伝える役割を負わされた人のように。 ひとつ間違えると、デモ機を壊した張本人でもない無辜の新規客を無言で非難しているような不穏な言葉の連なりだ。でも、あまりに真摯に哀しそうな声を出すものだから、こちらまで「そうだったんですか…。可哀そうに。Pomeraさん、さぞかし痛かったでしょうねえ」などと相槌を打ちそうになる。 しかし、まだ買ってもいない商品のお弔いに関わるわけにもいかないので、気を取り直して新品が収まっている箱のスペック表示を眺め、DM-5とDM-10の違いに話題を変える。 「こっちはWindows7対応、こっちはXPまでしか書いてないけど、大丈夫なんですか?」 「ああ…、これね、こうやって書いてあるけど、本当は関係ないんですよ…。テキストデータなので、OSがなんであれ関係ないんです。紛らわしいですよね…。この商品が出た時はまだ7がなかったんで、書きようがなかったんですよ」 これまたなぜだか哀しそうな声で訥々と説明する。Windows7以前の当該機種発売が、まるで祝福されない赤ちゃんが月足らずで生まれてしまって、戸籍の父親欄が空白であるかのようだ。 さらに、対応SDカードの容量の違いについては、 「たしかに2Gより8Gのほうが大きいですけどね…。テキストで2Gって言ったら、すごい量なんですよ。そんなにたくさん書ける人は、そうそういないんですよ」 いくら食べ放題レストランでも、しゃぶ肉3kg頼んでテーブルの上に置いといったって意味ないですよ。身の程を知りましょうよ。地球の資源は有限なんだから。せっかくなら大容量のほうが…と安直に考えてしまう私の内省を促すかのように、またも哀しげな声を出す。 結局2G、XP止まりの機種を購入。その後しばらく店内をうろつき、59,900円のNECのノートPCの前で立ち止まると、先ほどの店員がまた哀しげな表情で近づいてきた。 「これ、実は中身はLenovoなんですよ…。」 このたびのコンクラーベで選出されたフランシスコ1世は実は女だった、というような禍々しい秘密を打ち明ける枢機卿のような面持ち。 笑顔で明るく元気よく、が基本のはずの家電量販店で、この哀愁はいかがなものか、と思いたいところだが、不思議なことにそれが不快ではないのだ。ついしんみりと聞き入ってしまう。新手のマーケティング手法というより、自身のキャラ。こういうコミュニケーションもありなんだ。私には逆立ちしても真似できないけど。
by miltlumi
| 2013-03-15 20:57
| 機嫌よく一人暮らし
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