総合商社初の女性執行役員誕生の記事が出ていた。プロファイル紹介の欄を見て、あああ、日経記者はまだ20世紀型だなあ、と思ってしまった。新婚旅行のとき、案件交渉が重なって旅行を途中で切り上げた、と書かれていたのである。
これを読んで、「さすが」と思うか「やっぱり」と思うか「あぁあ」と思うか、受け止め方は人それぞれだろう。 さすが。執行役員に選ばれるほどの社員は、このくらいやるんだ。彼女のモーレツぶりを手放しに賞賛するタイプ。これ、典型的なマンモス狩り型。おそらく記者も、この感慨を持って、インタビューの際に彼女の口から飛び出した様々なエピソードの中からあえてこれを選んだのであろう。 やっぱり。女性が執行役員になるには、ここまでやらないといけないのね。ここでの「感慨」は、上述と微妙に似ているようで、絶対的に違う。前者の客観的賞賛に対して、後者は読者が主観的に自分に引き戻している。本気で執行役員を目指している人(女性)は、それだけの覚悟を新たにし、そうでない人は、女性の昇進の大変さを痛感するとともに諦め(執行役員になることに?シアワセな結婚をすることに?)が脳裡をよぎる。 そして、「あぁあ」というのは、この記事が、前者の思惑によっていまだに滅私奉公を潔しとする風潮を助長するのではないか、という懸念がひとつ。さらには、それが後者のように、女性の昇進に対する悲壮感や諦念を煽ることにならないか、という心配。 囲み記事の中のほんの2行に、これほど大袈裟に反応するのは、私が「女性の昇進問題」に神経質なせいかもしれない。昇進というほど大それたものではないにしろ、「家庭生活を犠牲にして」仕事に打ち込み、それが遠因にもなった(と自分で勝手に思い込んでいる)離婚の後、提示された統括部長職を、「ストレスがたまるから」という理由で断った。 それまでは、私自身マンモス狩り型だった。でも、突然ばかばかしくなってしまったのだ。それでも、子育てと仕事をうまく両立させている女性管理職に対して、そのとばっちりでこっちが余計に働かないといけない、という不満を露わにしたこともある。心のどこかで彼女を羨んでいたから。 本来なら、ちゃんと家庭も大切にして、仕事もしっかりこなして、それが公正に評価されて昇進する。それが理想である。そのためには、モーレツ型の男性社員がもう少しだけスピードダウンする必要がある。女性はどうしてもハンディを負っているのだ。 この熾烈な競争社会の中でスピードダウンなんてとんでもない、と経営者は思うかもしれない。けれど、ほんの少しのスピードダウンで、多くの女性社員が「私にも出来るかも」と思って頑張り始めれば、会社全体の生産性は絶対に上がると思う。 (さらに続きます。お読みになる方は、下の「More」をクリックしてください) しかも、ドイツの経済学者の調査によると、男女の賃金弾力性には明確な差異があり、働くモチベーションとして女性は男性ほど賃金に重きをおかないという。昇進や昇給というニンジンで奮起する男性と、明らかに異なる。言い換えると、男性社員を手っ取り早くやる気にさせるには人件費アップが欠かせないが、女性は昇給をちらつかせなくても、的確なモチベーションさえ与えれば頑張る。企業の収益性にとってどちらが効率的か、明らかである。 少子高齢化による労働力不足への解決策として、高齢者パワーとともに女性労働力の活用が声高に叫ばれて久しい。ダイバーシティーの旗印のもとに、女性管理職の増加を意識的に進めている企業も少なくない。しかし、そうした推進実行の影で、働いてもらうからには「女性も“男性並み”に頑張ってもらわないと」という暗黙のプレッシャーが依然として社会の底辺にうずくまっているのではないか。 ニッポンの商品を売るためなら、たとえ火の中水の中、身の危険を冒して地の果てにまでも赴いていく商社の世界で、初の女性役員が誕生したことをメディアが大きく取り上げてくれることは、ありがたい。けれどその取り上げ方が、旧態依然とした働き方を是認するかのようだと、この国の企業が変わるにはまだまだ時間がかかるのでは、と思わざるを得ない。 蛇足ではあるが、新婚旅行を投げ打って大型投資案件の交渉現場に駆け付けた、というのは、決して褒められた所作ではないように思う。新婚旅行というのは、普通は何か月も前から計画するものであろう。一方のM&A案件も、大型ならばいつ交渉の山場を迎えそうか、大体の見当はつくはずだ。土壇場で思わぬ目算違いが生じたとしても、数日でいきなり状況が一変することなど、さほど多くないのではないか。あったとしても、 ある程度前から把握できたであろう何らかの予兆はあったはずだ。 だから、新婚旅行に行っている花嫁を途中で呼び戻さねばならないほど、突然交渉が暗礁に乗り上げるというのは、その会社の交渉推進能力に問題があったと言わざるを得ないのではないか。 あるいは、責任感の塊のような彼女が、新婚旅行中も毎晩メールをチェックし、交渉の雲行きが怪しくなってきたのを鋭く察知して「私、帰国します!」と自ら手を上げたのだろうか。「いや、オレ達で何とかするから」と押しとどめる上司や同僚の配慮を振り切ってまで(ついでに言えば、ベッドの隣で「え、帰るの!?」と鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした新郎に決然と、あるいは甘え声で、帰国宣言して)、自発的に彼女が戦線に加わったのだろうか。 いずれにしろ、彼女が公私ともに充実した生活を送り、後進たちの見本になってくれることを願ってやまない。
by miltlumi
| 2013-02-19 22:08
| マンモス系の生態
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