YouTubeでTED(Technology, Entertainment, and Design)というものが流行っているらしい。恥ずかしながらTEDのことは初耳だったので、3つくらい見てみた。何かがひっかかった。でもひっかかったのは、TEDそのものではなく、情報入手ということについて、である。
TEDがすごいのは、動画が持つ情報伝達力のインパクトだという。言葉のみならず話し手の声のトーンや仕草が受け手の心にぐぐっと迫り、コトバ以上のものを伝える。文字だらけのプレゼンより、1枚の写真のほうが、直感に訴えかける力はずっと大きい。時と場合と内容によっては、その通りだろう。でも別の時と場合と内容は?…。 私は、昔から動画が苦手だ。映画やTVより本を読む方が好きだ。映像配信は、私の理解を待ってくれないから。あれ、今の台詞、どういう意味?と思っても、スクリーンは既に次のシーンに移っている。DVDなら巻き戻し(とは言わないか)できるが、戻ったときには、さっきの「あれ、」という感覚はもう遠のいている。まいっか、と見流してしまう。 映画のクレジットが流れる頃には、涙でぐちゃぐちゃだったり、まだドキドキしてる胸をなでおろしたりするが、何がどう自分の心を打ったのか、よく憶えていない。確かに直感には大いに訴えかけてくるが、なんだか外からの刺激を受け取った瞬間に反射神経で「反応」しただけみたいで、しっかり内容を受け止めてじっくり理解した感が、本に比べると低いような気がする。 本は「あれ」と思った瞬間に読み返すことができるし、ドッキドキの山場に近づくと、一旦本を閉じて呼吸を整えてから臨むこともできる。反応モードは減退するが、その分みっちり「読後感」を考える余裕は増える。 もう一つTEDの効用は、これまでの自分の世界観になかった様々なテーマに次々と接することで、新しいアイディアがひらめくきっかけになる、という。脳みそに色んな刺激を与えてできるだけ柔らかくして、新たなアイディアを創造していくことは、現代人にとって非常に重要な活動のひとつであろう。 しかしここでも重視されるのは、ある意味「刺激に対する反応」である。別にそこで語られる建築学そのものの理解を深めたり自分なりの考えをまとめたりする必要はない。 折しも、読んでいた池田晶子の本の中に「映像や音声は考えなくても一方的に入ってくるが、本は読む、つまり考えなくてはならない、考えないと人はバカになる」という文章と出くわした。 映像や音声は、受け身な「カウチポテト」に動物的反応を促すにすぎず、あるいは自分のアイディアを磨くというどこか実利的な臭いのする活動手段に過ぎず、「考える葦」として真っ当に生きたければ、本を読め、ということか。 しかしYouTubeは、自分が納得するまで繰り返し見ることができる。私の友人は、感銘を受けた思想家のスピーチ映像を、愛読書や座右の銘のように、スマホで何度も見返している。 情報の上っ面を舐めるだけで時間を浪費するTV Zappingやネットサーフから、人々がこうした使い方に進化していけば、ようやくネットも池田晶子に認められるようになるだろうか。ちなみに私は、ネットでも本でも、気になった箇所をノートに書き写してかみしめる、という古風な方法をいまだに愛用している。
by miltlumi
| 2012-07-11 21:13
| 私は私・徒然なるまま
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