ホシノ君は、最初小学3年で同じクラスになったとき、ミズタニ君だった。4年生になってしばらくして、ある日突然ホシノ君になったのだ。担任のヒロイ先生が、朝礼のときにものものしく通達した記憶もなければ、友達の間で「名前変わったんだって」というこそこそ話が休み時間にさざ波のように広がった記憶もない。その辺のことが全く欠落しているのはどういうわけだろう。
ともかく、池に小石を投げ入れたくらいの波紋も(少なくとも私の記憶では)なく、気づいたら私達はホシノ君と机を並べていた。 その夏、ホシノ君のお誕生日会にお呼ばれした。ホシノ君の家は、当時は当たり前だった木造平屋建ての長屋、今風に言えば「2K」。6畳間にめいっぱい並べたちゃぶ台の上の豪華なご馳走やお菓子に、正直私は圧倒された。横には、なぜかホシノ君よりも嬉しそうなお母さんはもちろん、お父さんやお姉さんも勢揃いしていた。 食後、外に飛び出した私たちの中でひときわ活発な一団は、裸足になって近くの小川にざぶざぶ入っていった(私は見物側だったと思う)。小川班が裸足のまま戻って、庭先の水道でお父さんに順ぐりに足を洗ってもらっていたとき、品行方正なアキコちゃんが元気よく「おじいさん、ありがとう!」と挨拶した。 えっっ。言われてみれば確かに、お父さんと思っていた人は、半分白髪だし顔も日焼けしてしわが深い。そして、おそらく両親の一番近くにいたのだろう。私の耳が「まあ、じいさんに見えても仕方ないか」というお父さんの苦笑交じりのつぶやきをとらえただけでなく、お母さんの顔に浮かんだ、すまなさそうな、曖昧な微笑み(それはアキコちゃんにではなく、明らかにお父さんに向けられていた)を目撃してしまったのだ。 ああ、そうだったのか。ミズタニ君がホシノ君になったいきさつを、私はいきなり全て理解した。何年も前に離婚してミズタニの旧姓に戻っていた母が、去年、歳の離れたホシノ氏と再婚した。家族4人になって初めての息子のお誕生日会。お父さんもお母さんも総出で、小さな部屋に所狭しと並べたお誕生日会のしつらえ。 「お誕生日会の思い出」のエントリーをUPした後、小学生の親である友人から、最近の公立では小学校から「お誕生日会差し控え」指導が来る、と聞いた。誰が呼ばれた呼ばれないのトラブル回避や、呼ばれてもプレゼントが買えない子への配慮らしい。 子供のいない私は、このあたりの最近の社会情勢には全く疎い。けれど一つ言えるのは、少なくとも私は、ホシノ君のお誕生日会を、これほど鮮やかに憶えている。いつもの学校とはちがう、プライベート空間で出会う友達とその家族。色んな人がいる、という実感。そんな機会から隔離された子供達は、いつどこで何を学ぶのだろう。
by miltlumi
| 2011-12-20 12:01
| 私は私・徒然なるまま
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