ウブドにあるホテルに到着したのは、夜8時近くだった。窓ガラスのない吹き抜けのフロントの建物を出ると、もうそこは点々と続く足元灯以外、真っ暗な熱帯の夜。案内人のあとを必死で追って、両側にほの白い壁が迫る細い路地を右に左に曲がり、ようやくヴィラにたどり着く。
翌朝。明るい日差しの下でもやっぱり迷路のような細い路地が、しっとりと苔むしている。オープンして5年もたっていないホテルなのに、と思いかけて、ここが2期作・3期作が当たり前のウブドであることを思い出す。バリでは、日本みたいに千代も八千代も待つことなく苔むしてしまうのだ、きっと。 勇んで繰り出した町も、メインストリートから一歩入れば、人が2人ようやく並んで通れるくらいの路地だらけだった。舗装されていない、いかにも肥沃そうな黒土の泥道を、ひと抱えもある果物籠を器用に頭に乗せた女たちがまっすぐに歩いて行く。 もう少し広い(といっても3人並べるくらいの幅の)路地は、バイクに乗った子供達の通路になっていた。礼儀正しく、曲がり角ではクラクションをならす。 小さなお祝事があるのか、民家の門の上にチャナンが多めに供えられ、玄関の奥には七夕のような華やかな飾りが見える。どこからともなく漂ってくる夕餉の香りは、さすがにお味噌汁のそれではなくエスニック調だった。 ウブドで一番の目抜き通り、Raya・Ubud通りから歩いて徒歩3分。あっけないほどに、観光ムードから切り離された日常空間。 ある高名な地球物理学者によると、地球本来が持つ物質循環メカニズムの速度を異常に速めることによって、人類の繁栄がもたらされているという。例えば、日本とオーストラリアはプレート運動の結果数千万年かけてようやくぶつかるのに、飛行機はそれを何千万倍も速める。太古の昔、人類と地球の速度が一緒だった頃、ポリネシアの人々は何万年もかけて徐々に、舟と徒歩でマレー半島からアジアを経由して日本列島にたどり着いた。 それが今、成田からデンパサールまで7時間半。地球システムから見ると、異常としかいいようのない速さ。 それでもやはり、人間が本来持つ速さは太古の昔と変わっていない。クルマの入れない路地を見つけるとほっとする。生来の移動手段で、気の赴くまま散策する。 そういえば、パリでもローマでも京都でも、車が入ってこられない路地を好んで歩いた。その町を肌で感じるには、路地を歩くのが一番いい。
by miltlumi
| 2011-02-05 22:37
| Vacation in Bali
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