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個性、安心感、もしくは夏枯れ

 夏のバーゲン最後の追い込みのこの時期、ランチタイムに丸の内仲通りを散策するのが、ささやかな幸せである。いかにも丸の内のOLをターゲットにした洋服が30~50%引き。店員は、限られた休み時間に効率的にお財布を開けてもらおうと、素早くセールストークを展開する。
 ワールドのSPAであるOPAQUEは、直営店だけあって値引き率が高い。60%引きのカーディガンを手にとると「オフィスの冷房対策に最適でしょう」 私の視線の先にある白いブラウスを即座に認知して「これは身頃が二重になってて肌触りがいいの。とてもよく売れてるんですよ~」 
 その瞬間、生地をひっくりかえそうとしていた私の手がぴたりと止まる。よく売れてる? 丸の内のOLに? ということは、後日この仲通りを逍遥していると、同じ服着た(もしかしたら年代の異なる)女性に鉢合う可能性が高いってこと? じょおおおーーだんじゃない。

 Sachs 5th Avenueで、清水の舞台から飛び降りる思い(って、アメリカには清水寺はないけど)で買ったドレスを着てパーティに出たら、同じ服着た女性を見つけてしまい、舌噛んで死にたくなって会場を飛び出した、というストーリーは、映画だっただろうか、本だっただろうか。
 さほどに、女性にとって同じ服を着た見知らぬ同性(って、異性が着てたらもっとヤバイけど)と鉢合うことほど屈辱的なシチュエーションはない。仲の良い友達なら「私達、気が合うわね~」で笑ってすませられるが、他人同士はそうはいかない。
 女性が洋服に賭ける執念は、男性が職務経歴書にかける熱意と同じくらい強いものなのだ。これまで築き上げてきた実力と個性の「見せ場」なのだ。見せる目的は、前者が「異性」、後者は「仕事」の違いはあるが。

 何年か前に「クールビズ」なる造語が霞が関から発せられ、当局指導に忠実な大手町の金融機関が速やかに「カジュアルフライデー」を導入した。その結果、職場のあちらでもこちらでも「おそろい」のボタンダウンシャツ(って、色違いというしゃれた「おそろ」もあったらしいけど)とチノパンを召した部課長が散見されたそうだ。
 組み合わせまで同じというのは、それがとある店先(今や5兆円企業を目指す某アパレルメーカー)のディスプレイだったからだ。さすが。この戦略はどぶネズミ諸氏には奏功するだろう。彼らにとってオフィスの服装なんてタダの作業着ですから。

 それにしても、丸の内でさえ「よく売れてるんですよ」が売り文句になるのだとすると、「舌噛んで死にたくなる」なんて過激なことを思うOLはまだまだ少数派なのだろうか。個性より、「みんなと一緒」の安心感を優先する子のほうが多いのだろうか。それとも、東京駅周辺は「見せたくなる異性」もいない、万年「夏枯れ」オフィスが多いのだろうか。
by miltlumi | 2010-07-23 23:30 | マンモスの干し肉 | Comments(0)
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