5歳の夏にしばらく入院したことがある。毎日、赤い藤のバスケットに入れて行ったスカーレットちゃん人形で着せ替えごっこをしていた。看護婦さんに「いつもお勉強してて偉いわね」と言われたとき、生意気にも、これは勉強じゃなくて遊びなのに、と心の中でつぶやいた。今考えてみれば、幼稚園児にとっては、仕事と遊びがイコールだったのだ。もしかすると人生までイコールだったかもしれない。
今、ワークライフバランスというけれど、ワークとライフを対峙させること自体オカシイ。子供時代のようにワーク=ライフとまではいかなくても、少なくともワークはライフの一部に過ぎない。 一方で「ライフワーク」という言葉は常にポジティブな響きを人に与える。 目下、私にとって一番重要な「仕事」はブログを書くことである。エッセイストの練習だと思っている。だから、日々の糧を得る仕事が忙しくてブログをUpできないと、とても機嫌が悪くなる。 ところが最近まわりから、もっと真面目に「仕事」しろと言われる。具体的な仕事をオファーされて、「でも一番やりたい仕事は、エッセイストなんです」と真剣に訴えたら、陸に上がったシーラカンスがスカートはいて出てきたみたいな顔をされた。んなもんで現代社会の荒波を乗り越えて喰ってけると思ってんのか、オマエは!? いえ、そうは考えてないんだけど。でも。 そういえば今読んでいる太宰治の自伝的小説。裕福な実家に丸ごと生活の面倒を見てもらいながら、自分の人生そのものを小説という手段で見つめ直そうという苦悩に満ち溢れている。きっと、彼にとって小説を書くという仕事はまさしく「ライフワーク」であり、真剣勝負だったのだ。 「ライフワーク」と呼ぶに値する仕事は、必ずしも収入を得ることと直結しない。寝食を忘れて没頭しているライフワークでがっぽがっぽとお金が稼げれば、こんなシアワセなことはなかろう。でも、今日日の資本主義社会では、がっぽがっぽは「経済活動」を通してしか実現が難しい。特に小説とかエッセイとか絵画といったいわゆる「文化活動」では、よほど運がいいか、巧みに商業主義を組み入れない限り、清貧な生活を送ることになる。 この前会った駆け出しのギャラリストが、自分が選んだアーティストの絵はその価値がちゃんと解る人に売りたい、アーティストが魅力的な女性だからといった邪な理由でヘンなおっさんに作品を買ってもらいたくない、と言っていた。それじゃあ生活はできませんぜ、と忠告しながらも、彼女の葛藤に深くSympathyを感じる自分がいた。 こうやって、ライフとかワークとかバランスとかごちゃごちゃ考えるのは、”Mid life crisis”、つまり「中年の危機」の典型であり、この問題を正面からとりあげたのが”SEX and the CITY”だ、というコラムを読んだ。アラブに行ってめでたく大富豪の玉の輿になれたら、日銭を気にせずにライフワークに打ち込むことができるかしらん。
by miltlumi
| 2010-07-08 17:16
| マンモスの干し肉
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