秋来ぬと…

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吾亦紅(われもこう)なんて、あんな地味な、花とも呼べないような花なんて。
長い間、そう思っていたのに、
今朝、スーパーの朝市に並べられた生花の中から、思わず手に取ってしまった。

竜胆(りんどう)と百合と、猫じゃらしみたいなピンクの花と。
(百合は夏の花だけど、御愛嬌)

秋だな、と思う。

今年の夏は本当に涼しかった。
残暑の中にどうにか秋の訪れを見つけようと、
朝夕に吹く風のほんのかすかな気配に耳をそばだてずとも、
一足飛びに10月の肌寒さになったり。

それでもやはり、9月の声を聞くと、この歌を口ずさむ。

秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる

というわけで、フォントも秋色、吾亦紅色。



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# by miltlumi | 2017-09-03 14:44 | フォトアルバム | Comments(0)

拝啓 小野但馬守政次殿

 政次殿。
 いつか告白しようしようと思いながら今日に至り、ついにその機会を逸してしまいました。こんなに早く(大河ドラマ12月の最終回までまだ4ヶ月もあるというのに)逝ってしまわれるなんて。しかも。

 あなたが、「私ひとりが死ねばいい」とおっしゃったとき、脳裏をよぎったのは「エアフォースワン」のハリソン・フォードでした。テロリストが愛くるしい女性報道官のこめかみに銃を突きつけてカウントダウンを始めたとき、ハリソン演じる大統領は、自分の愛する1人の命と、テロリストの圧政に苦しむ不特定多数の見知らぬ外国民を両天秤にかけ、後者を選んだ。あの決断力。あのときも、映画を観た後、かなり尾を引きました。
 政次殿が選んだのは、ハリソンとちがい、ご自分自身。その高潔で冷静な判断に、私は息を飲みました。
 でも最も大きな、ハリソンとは比較にならないほど次元の異なる大きなちがいは、直虎への愛情。うぇ~ん。

 刑場に足を踏み入れ、そこに直虎の姿を認めたときのあなたの表情。もともと能面のような、それこそがまさに私の愛する、あのお醤油顔が、さらに能面のようになり、けれど瞳だけが能弁にあなたの心の内を物語っておりました。

 そして、誰一人予想していなかった直虎の挙動。

 「おまえは、俺を使え」という政次殿の言葉を、井戸のほとりで考え抜いた末の、あの直虎の行為は、あまりに激烈でした。幼い頃からずっと変わらなかったあなたの深い深い愛情。井伊家の家老としての、文字通り命を懸けた忠誠。
 それを想うとき、どこぞの馬の骨に処刑されるくらいなら自らの手で殺めてやろう、という直虎の決断は、うべなるべし。そして最後まで、最も喪いたくない相手の最期まで、罵詈雑言を浴びせ、政次殿を使い倒そうとする、その直虎の自制心。
 あなたも、さすがにあの直虎の行為は予想だにしていなかったでしょう。けれど、その瞬間、あなたは心の中で快哉を叫んだはず。よくやった。直虎。それでこそ井伊家城主。
 だから、血を吐きながら、直虎の迫真の演技にあなたも同調されました。地獄の底から見届けてやる、という言葉は、本当の本音だったことと思います。
 父上から言われた呪いのような一言が、おそらくは片時も脳裏を離れることがなかったのでしょう。裏切り者の家老の役回りを演じ切ること。あなたは、完璧に、その任務を全うなさいました。

 しかしなお、あれは激烈過ぎました。私には、理解しかねます。承服しかねます。
 そこまで人を愛することができるのか。愛する人のために、あのような形で命を投げ出すことができるのか。
 そして、そこまで自分を愛してくれる人に、刃を突き通す強さは、どこから来るのか。

 それでも、私は私なりに、あなたさまをお慕い申し上げておりました。告白するには、もう遅すぎるけれど。政次殿。心より、ご冥福をお祈り申し上げます。

追伸:
来週から、日曜日の夜8時に家に居るモチベーションが、ぐんと下がりそうです。あなたのかそけき微笑みを見ることのできない大河ドラマなんて。

追々伸:
蛇足ではありますが、あなたさまの、あの瞳だけで万感の想いを語る演技力と並び、紫咲コウの大根ぶり(鰤大根ではない)も見事でした。槍を突き付けながら叫ぶときの、憎しみしか読み取れない一本調子の視線は、どうにかならなかったのでしょうか。
瞳の端に、一抹の哀しみと愛惜をちらり浮かべることが出来たなら、彼女もようやく「女優」と呼ばれることでしょうに。


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# by miltlumi | 2017-08-21 22:17 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)

かけがえのない人たち

 今年の初め、筋トレで痛めた筋を治すために駆け込んだ整骨院に、いまだに通っている。肩の痛みはとっくの昔に解消したが、治療師さんの、骨盤矯正の手腕にハマった。30代半ばとおぼしき、すっきり系の面立ち。支払い時、つややかな低めの声で「次どうしますか?」と尋ねられると、ついガラケー(いまだにこれが私のスケジュール管理ツールだ)を引っ張り出して「じゃあ4週間後に」と予約してしまう。

 先週、首のホネをくりくりと調整しながら、彼が低い声をさらに低めて、私の耳元でささやいた。「実はボク…」どきっ。
 「独立することになったんです」
 あ、そういう話。がくっ(笑) 瞬時に気を取り直し、カーテンを隔てた先にいる彼の同僚を憚りながら、私も小声で応じる。
 「今度のお店、どこなんですか?」
 「あの…。まだ本決まりじゃないんですけど。名刺とか、お持ちですか?メールしますから」
 施術が終わり、支払いのクレカと一緒にしゃらっと名刺を渡し、共犯者めいた視線を交わす。

 帰り道、もしも彼のお店が遠すぎて通えなくなったらどうしよう、と思う。彼は、世界中の誰よりも、当の私自身よりも、私の骨格のことを熟知している。そのことに、不思議な気がする。
 大袈裟に言えば、赤の他人に自分の命あずけてる感。そういう人は、他にもいる。

 まず、行きつけの美容師さん。私の髪はくせ毛で、ちょっと見はわからないうねりを計算に入れてハサミを入れないと髪型が決まらない。もうかれこれ25年近い付き合いの彼女でないと、手に負えない(と信じている)。
 しかも2ヶ月に一度は必ず会って、旅行したの離婚したの彼ができたの別れたの、きちんとアップデートしているから、たぶん私のプライベートライフ熟知度も、学生時代の親友の次くらいだ。
 1歳年上で、西麻布の賃貸マンションに一人暮らしで、福島県に親兄姉がいる。もしも彼女が引退して福島に帰っちゃったら、1ヶ月おきに東北新幹線に乗って訪ねて行かねばならない。

 歯科医の先生にも12年間お世話になっている。美容院ほど頻繁ではないが、年に1・2回はかならず詰めたりかぶせたりしたモノがコロリと取れて、駆け込む。詰め物やかぶせ物がしっくり馴染むように調節する、そのきめ細かい技術たるや、お見事なのだ。
 歯科治療という状況の制約上、美容師ほど密な会話は出来ないが、「奥歯がこんなにすり減って…。日中も無意識に歯を食いしばってませんか?」「寝てる時、歯ぎしりしてますね」などと、自分では気づかないもう一人の自分の姿を次々暴かれる。健康だった歯がぽろりと欠けて、「どうしてこうなるんですか?」と尋ねたら、一言。「加齢、ですね」 …。ふん。アンタだって12年分、おんなじだけ加齢してるくせに。
 先生がもしも独立開業してしまったら、これまた追っかけて行こうと心に決めている。

 長く生きれば生きるほど、このような「かけがえのない」赤の他人、が増えていく。もしも彼らがいなくなったら、という不安は、彼らに対する掛け値なしの敬意と感謝の裏返しだ。


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# by miltlumi | 2017-08-11 15:48 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(2)