カテゴリ:機嫌よく一人暮らし( 265 )

丁寧な生活 (すり切れたパジャマ編)

 ここのところ整理整頓好きが過熱している。狭いうちの中、クローゼットも食器棚も仕事の書類も、みーんなあるべきものがあるべきところに納まっていて、しかもそこここに余白の美まで登場し始めているのに、整理したい欲求は留まるところを知らない。

 次はどこを整理しようか。家じゅうをぐるぐる見回し、収納スペースの扉を開け、しばし黙考。はたと思いついたのは、幅140cm 高さ2mのどでかいワードローブ。
 遠い将来、ワンルームの介護付き老人ホームに引っ越す可能性を考えると、大きな家具は早めに処分するに越したことはない。ワードローブにはシーズンオフのスーツが入っているが、ベッドルームに作り付けのクローゼットの服を減らして、そちらにまとめてしまえば、家具は不要になる。

 しかし、既に捨てるべき不要な服は全て処分済み。服はもちろん、下着も靴下もパジャマも、(コンマリさん風に言えば)ときめく物ばかり。生来のケチ根性も相俟って、擦り切れたり破れたりしない限り、ぽいぽいステるには忍びない。
 であれば、とっとと擦り切れてくれれば諦めもつくというもの。

 千里の道も一歩から、というわけで、服を地道に着倒して心置きなく捨てられるよう、この夏は同じものばかり繰り返し着用した。おかげで、まずパジャマ(14年前に購入。赤地に白黒の縞々服を着たブタさんが何十匹も飛んでいる)のウェストゴムの部分が、擦り切れた。
 うはは。捨てなきゃ。と思うのだが、お気に入りのブタさんを見るたび、ゴミ袋に直行させる気持ちが萎える。そうだ。擦り切れた部分をカットして股上を少し短くして縫い直したら、まだ着られるんじゃないか。
 ワードローブ撤去に向け、服を擦り切れさせて捨てる作戦はどこへやら、やおら「モッタイナイ」作戦に切り替わる。

 そういえば、同じような断捨離作戦で冬のタイツを履き倒そうとしたときも、無事(?)穴が開くと、反射的に手縫いで穴かがりをしてしまった。
 ロングだったスカートの丈を短く詰めたり、身ごろの幅をかえてシルエットを整えたり、自分で手を入れた服は少なくないし、裾が擦り切れた麻のバギーパンツも、丈を短くしてガウチョ風にすればいいと、いまだにクローゼットの中でスタンバイしている。

 洋裁が好きなのは、母譲りだ。「ときめく服」の中には、母のお手製のコート(高校1年のときに作ってくれた)とフレアのジャンパースカート(同・大学1年)。いずれもシンプルなデザインで飽きの来ないベージュ色だから、いまだに現役だ。

 服のリフォームが得意なことと、整理整頓・断捨離好きは、どうにも相容れない。
 共通点があるとすれば、やっている最中は作業に没頭できることと、やり終わったあと「丁寧に生活している」という感覚を味わえることだ。
 駆け足急ぎ足、スピードアップが常態になりがちな中で、お気に入りの時間、ではある。

 こんな調子では、いつまでたってもワードローブは捨てられそうにない。
 でも、洋裁で手先を使っていればボケずに済んで、ワンルームの介護施設とも無縁かもしれない。であれば、ワードローブを捨てる必要もない。


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by miltlumi | 2017-10-08 11:40 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)

丁寧な生活(生春巻き編)

 少し前、ホームパーティで、久しぶりに生春巻きを作った。何年も前に1度作ったきりだから、作り方のコツを忘れていた。とにかく、心が穏やかなときでないと決して作ってはならない、という教訓だけは深く記憶に刻まれていた。
 だから、当日は準備の時間配分に気を付けて、一番ゆったりできるときに調理に取り掛かった。

 ベトナム製のライスペーパーは、半透明で薄くてパリパリしていて、ちょっと手荒に扱うとすぐパリンと割れてしまう。あーそうだった、と思いながら1枚ずつ袋から取り出す。
 ペーパーがすっぽり入る大きさの大皿にぬるま湯を張って、ゆっくりとペーパーを沈める。袋の指示書には「あまり柔らかく戻さずに」とあるが、どのくらいが適当なのかよくわからない。
 と思っているうち、みるみる柔らかくなり、慌てて(これがダメだっちゅーの)引き上げようとしたら、端がしわしわになってしまった。嗚呼。
 まな板の上に広げて、できるだけしわを伸ばそうとするが、くっついて離れない。無理にやると破れるから、諦める。とりあえず細切りレタスをぎゅうぎゅうつぶしながら、もやしと米麺代わりの素麺とともに、ゆっくりゆっくり巻いていく。一巻きしたら、エビのピンクが表に透けるように配置して、パクチーを散らしてさらに巻く。
 出来た。

 2つめは、ペーパーを横から滑らせるように大皿に浸し、まだ固いかな、と思ううちに、やはり横に滑らせるようにゆっくり取り出す。今度は成功。しわひとつない満月だ。レタスの適量もだいたいわかってきた。
 3つめ。戻しは完璧だったが、レタスを押えるときにちょっと力を入れ過ぎて、少しペーパーが破けてしまった。う~、残念。でも破滅的状態はどうにか免れた。

 やや細め、3本並んだ生春巻きが乾燥しないよう、ラップを密着させて丁寧にくるむ。4時間後、この子たちは5分もかからず3人の食いしん坊のお腹の中に収まった。

 コツを思い出したのに気をよくして、その後も何度か、自分だけのために生春巻きを作っている。慌てずゆっくり、でもタイミングを見計らってすかさず、ライスペーパーをお湯から滑り出せると、とても幸せな気持ちになれる。
 ぷよぷよした地肌を指でつかんで、スイートチリソースをたっぷりつける。エビだけでなく、チキンとアボカドとか、スモークサーモンとクリームチーズとか、好きなものを丁寧に巻いていく。
 
 成城石井で買ったら、たしか500円もしないんだけどね。
 それを言い始めたら、ポテトサラダだってきんぴらごぼうだって麻婆豆腐だって、買ってしまったほうがよっぽど手軽で、時間の節約になる。
 忙しい人にとっては、本当に便利な時代になった。
 
 幸い私はそんなに忙しくない。平日の真っ昼間、うちにいることも少なくないので、昼ご飯のついでににぼしの頭をもいでお鍋の水に入れ、夜ご飯のお味噌汁の準備をしたりする。ありがたいことである。
 いっそ電気釜もガスレンジもなくして、森で倒れ木を拾ってきて薪割りをして火を熾して土鍋でご飯を炊いたり、コーヒー豆を炒ってからミルでこりこり擂ってドリップで淹れたり、そういう生活になったら、一日じゅう忙しいだろうなあ、と思う。
 でも多分、そういう忙しさを、私はきっと愛することができると思う。


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by miltlumi | 2017-10-08 11:39 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)

丁寧な生活(蒸しかぼちゃとお豆腐と青りんご編)

 この秋、北海道産のかぼちゃは「当たり」、ということで、福岡に住む友だちと意見が一致した。彼女がFacebookで「かぼちゃの蒸したの、バター塗って塩ぱらり」とつぶやいたのに私が反応し、同じ時期に同じ産地のかぼちゃを同じ食べ方で食べていたことが発覚したのだ。
 
 昔は、かぼちゃと言えばお醤油とお砂糖で甘辛く煮る、母の受け売り調理が定番だった。それが最近は、そういう手間もかけなくなった。
 1人暮らしにはやや多い半分サイズだが、蒸してまずはそのまま食べる。余りはスライス玉葱やレーズンと混ぜてサラダにしようと思っていても、結局そのままシンプルに塩で食べてしまうことの方が多い。一番低カロリーだし、何しろ甘さが最も引き立つ。
 
 かぼちゃに限らず、最近は何でも「蒸し物」にしてしまう。じゃがいも、さつま芋はもちろん、茄子や玉葱や人参や、鶏もサーモンも豚肩ロースも。でもって、グルメな友だちがくれたざらめのような岩塩とか、お気に入りのアンデスの紅塩とか、クリスマス島の青い塩、などなど。それにレモン、もしくは柚子こしょうかわさび、刺激が欲しいときは豆板醤。う~、たまらん。

 そういえば、お豆腐も、葱のみじん切りと鰹節にお醤油たらして、という食べ方から、塩とわさび、のほうが多くなった。「濃い豆乳の絹豆腐」という謳い文句に惹かれて買ってきたものは、塩もお醤油もなくてもしっかり大豆の味がして、幸せな気分になれる。
 ふと思いついて、スプーンでお豆腐の真ん中に穴を開けてメープルシロップを注ぎ、まわりにほんの少しの塩とごくちょっぴりの柚子こしょうをのせて、三者混ぜながら食べたら、そこらのプリンやパンナコッタよりも慎ましやかで品のいいデザートになった。
 3個128円也のお豆腐が、おかずにもデザートにもなるなんて、なんて賢いんでしょう。ということで、「おかめ納豆」と並んで常備品の仲間入りをした。

 こんな、料理とも呼べないような単純なことばかりやっていたら、ただでさえ一人暮らしの手抜きし放題が、ますます勘がにぶるではないか。…と思うのだが、これで十分美味しいのだから、いいではないか。食べ物の本来の味を感じることができるのは、心身が健康な証拠だ。

 先日、ちょっと仕事の区切りがついて、一人プチ祝いをしたい気分になった。こういうとき、お酒に興味がないのが残念。缶ビールをプシュッという至福(らしい)を味わえないので、食べることしか選択肢がない。
 帰りがけの電車の中でさんざん悩んだ末、昨夜にぼしとかつお節で丁寧にとっただし汁があるのを思い出し、結局スーパーで三つ葉とお寿司を買ってうちに帰る。
 「濃い豆乳の絹豆腐」はおつゆに入れて温かくするとさらに甘味が増す。三つ葉の香り。デザートに、青りんごがあったことを思い出す。紅玉みたいに身が締まっていて、しゃきっと齧ったとたんにあふれる果汁が舌に甘い。8つ298円也のささやかな幸せ。
 
 昔、父が「マグロの刺身と白菜の漬物があれば他は何もいらない」と言うのを聞いて、なんてワンパターンな、つまらない、と思ったものだ。
 今や自分も「季節の野菜と果物とお豆腐」。 そういう年頃になってしまった。


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by miltlumi | 2017-10-08 11:36 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)

かけがえのない人たち

 今年の初め、筋トレで痛めた筋を治すために駆け込んだ整骨院に、いまだに通っている。肩の痛みはとっくの昔に解消したが、治療師さんの、骨盤矯正の手腕にハマった。30代半ばとおぼしき、すっきり系の面立ち。支払い時、つややかな低めの声で「次どうしますか?」と尋ねられると、ついガラケー(いまだにこれが私のスケジュール管理ツールだ)を引っ張り出して「じゃあ4週間後に」と予約してしまう。

 先週、首のホネをくりくりと調整しながら、彼が低い声をさらに低めて、私の耳元でささやいた。「実はボク…」どきっ。
 「独立することになったんです」
 あ、そういう話。がくっ(笑) 瞬時に気を取り直し、カーテンを隔てた先にいる彼の同僚を憚りながら、私も小声で応じる。
 「今度のお店、どこなんですか?」
 「あの…。まだ本決まりじゃないんですけど。名刺とか、お持ちですか?メールしますから」
 施術が終わり、支払いのクレカと一緒にしゃらっと名刺を渡し、共犯者めいた視線を交わす。

 帰り道、もしも彼のお店が遠すぎて通えなくなったらどうしよう、と思う。彼は、世界中の誰よりも、当の私自身よりも、私の骨格のことを熟知している。そのことに、不思議な気がする。
 大袈裟に言えば、赤の他人に自分の命あずけてる感。そういう人は、他にもいる。

 まず、行きつけの美容師さん。私の髪はくせ毛で、ちょっと見はわからないうねりを計算に入れてハサミを入れないと髪型が決まらない。もうかれこれ25年近い付き合いの彼女でないと、手に負えない(と信じている)。
 しかも2ヶ月に一度は必ず会って、旅行したの離婚したの彼ができたの別れたの、きちんとアップデートしているから、たぶん私のプライベートライフ熟知度も、学生時代の親友の次くらいだ。
 1歳年上で、西麻布の賃貸マンションに一人暮らしで、福島県に親兄姉がいる。もしも彼女が引退して福島に帰っちゃったら、1ヶ月おきに東北新幹線に乗って訪ねて行かねばならない。

 歯科医の先生にも12年間お世話になっている。美容院ほど頻繁ではないが、年に1・2回はかならず詰めたりかぶせたりしたモノがコロリと取れて、駆け込む。詰め物やかぶせ物がしっくり馴染むように調節する、そのきめ細かい技術たるや、お見事なのだ。
 歯科治療という状況の制約上、美容師ほど密な会話は出来ないが、「奥歯がこんなにすり減って…。日中も無意識に歯を食いしばってませんか?」「寝てる時、歯ぎしりしてますね」などと、自分では気づかないもう一人の自分の姿を次々暴かれる。健康だった歯がぽろりと欠けて、「どうしてこうなるんですか?」と尋ねたら、一言。「加齢、ですね」 …。ふん。アンタだって12年分、おんなじだけ加齢してるくせに。
 先生がもしも独立開業してしまったら、これまた追っかけて行こうと心に決めている。

 長く生きれば生きるほど、このような「かけがえのない」赤の他人、が増えていく。もしも彼らがいなくなったら、という不安は、彼らに対する掛け値なしの敬意と感謝の裏返しだ。


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by miltlumi | 2017-08-11 15:48 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(2)

危機

 昨夜、ついに「若年性アルツハイマー」をググってしまった。いよいよヤバい。危機である。

 先月モントリオールに行ったとき、生れて初めて、前代未聞の失敗をしでかした。ホテルをダブルブッキングしていたのである。
 ダウンタウンでの仕事が16日までだから、翌日から車で1時間半のリゾート地のB&Bで2泊3日のプチ夏休みをとる、つもりが、予約を16日から入れていたのだ。ダウンタウンのホテルの部屋をシェアしていた仲間が旅慣れた人で、「だったら私も1足先に次の目的地に行くわ」と即決してくれ、ダウンタウンのホテルもペナルティーなしで1日早くチェックアウトさせてくれたおかげで、大過なく乗り切れた。
 1泊予約し忘れて宿無しになるより、ダブルブッキングでよかったね~、と彼女に慰められたものの、会社員時代の一時期は年に10回近く海外出張していた身としては、かなりショックだ。
 しかも、最終日の早朝、母からの電話でたたき起こされた。「なんでまだカナダにいるの?今日帰国じゃなかったの!?」と言われ、「時差あるんだから羽田は明日だよっ」と無愛想な声を出したものの、あとで見直したら、旅程連絡メールで帰国日を翌日にするのを忘れていた。これまた前代未聞である。

 時差ボケもなく日常復帰。。。するつもりで、歯医者の予約のあとに仕事の予定をいれた。なのに、当日すっかり歯医者を忘れて自宅でごそごそしていて、予約時間の1時間前に気づいた。慌てて着替えて飛び出し、事なきを得たが、出掛ける前にと思っていたシャンプーをする時間がなかった。髪が多少汗臭くて歯医者さんと仕事仲間に迷惑かけたかも。だけど間に合ってよかった、と自分を慰めてみたが、問題の本質はそこではない。

 それ以外も、友達とのランチで5,700円の割り勘が一人2,750円になったり、この3ヶ月間に5回も自転車で転んだり(これはアルツハイマー的な話とはちがうが)、挙げ始めれば枚挙にいとまはない。しかし、その程度ならまだ単なる「加齢」で笑い飛ばせる。決定打は、これ↓である。

 かなり年下の女性との仕事中。私の正確な年齢を知らない相手に、ちょっと謙遜してみた。
 「私なんてもうかなりトシだから…。お母様、おいくつ?」
 「えっと、うちの母は○○さんと同い年です」
 ○○さんは、日本人なら誰でも知っている有名人だ。そして、私の年齢に縁ある人。
 「あ~、私も、○○さんと同い年なのよ。ということはお母様とも同い年ね」
 「えっ!!!!!」
 相手は驚愕の表情を浮かべる。自慢じゃないが、私は実年齢よりは若く見られることが多い。まあ、悪い気はしない。

 しかし3日後。その仕事のフォローをしていて、突然思い出した。私が同い年なのは、○○さんではなく、○○さんの妻のほうだっ…。思いっきり蛍光灯状態ではあるが、その女性に謝罪と訂正のメッセージを送った。「家でもやもや考えてしまいました」と即レスだった。

 ちなみに、○○さん、の「○○」に当てはまる人名は「安倍晋三」である。
 
 …どこでどういうシナプスを開発すれば、自分が安倍首相と同い年、という思考が生まれるのか。仮に一瞬そう思ったとしても、口に出した瞬間、間違いに気づくだろうが。普通は。もう、私は自分の脳みそが信用できない。

 「若年性アルツハイマー」のチェックリストは、いずれも心当たりがあった。


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by miltlumi | 2017-08-02 17:45 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)

風に締め出される、またの名を1Q84事件

 部屋には開け放した窓から涼しげな皐月の風が流れている。爽やかな土曜日。夕方からのホームパーティの料理作りがひと段落したところで、バゲットを買いに玄関を出る。扉が閉まりかけたその隙間。10㎝ほどの隙間に風圧がかかり、ひゅうぅ、と風が強まったと思うと、ガチン、バタンッ。 …? ガチン? まさか。

 そぉっとドアを開けようとして、予感的中。恐るべき事態が発生していた。中途半端に浮いていたU字ロックが風に煽られ、ロックされてしまったのだ。

 …うそでしょ。あはは。

 って、ここで笑ってどうする。玄関外の物置から棒を取り出し、ドアの隙間からU字ロックを外そうと試みる。もちろん、そんな小手先で外からロックが開くはずがない。っていうか、それで外れたら、ロックの意味を成さないではないか。冷静な思考回路が自分をたしなめる。


 そうだ。セコム。数年前、旅行先のホテルの部屋の金庫に家の鍵を置き忘れ、帰国早々お世話になったことを思い出す。管理人室に行き、かくかくしかじか。しかしあいにく今日の担当は、仲良しのA氏ではなく、保守的なB氏。

 「セコムさんは、マンションとの契約上合い鍵は預かってますが、家の中のことは関知しませんよ」

 「え、じゃあ、どうすればいいんですか!?」

 「管理室は共用部分にしか責任がありませんから」

 むかっ。毎月きちんきちんと管理費を払ってる住民が、自分ちから締め出されたっていうのに、なんだ、その他人事モードは。しかしここで怒鳴ったところでロックが外れるわけもない。冷静な思考回路は、再びウルトラCを思いつく。

 「じゃあ、ハシゴ貸してください」

ベランダの窓を開けたままにしていたのだ。うちは2階なので、1階のうちのテラスからハシゴでベランダによじ登れる。なんたる幸運。って、窓を開けていたから風が通ってロックが煽られ、この悲劇が起こったとも言えるが。ともあれ、B氏はあくまで保守的である。

 「階下のお宅に立ち入らないといけないじゃないですか」

 「これからお断りしてきます」

 「でも、ハシゴ落ちたら危ないですよ」

 「構いません!!」

 とっとと〇号室に行き、いつもテラスで子供と遊んでいる若いお父さんに了解をとると、いやいやハシゴを運んできた管理人と共にテラスに侵入する。


 通常は「く」の字で使うハシゴを一直線に伸ばすと、かろうじてベランダの手摺の1mほど下に届く。

 「普通はこういう使い方しないんですよ」

 あくまでネガティブなB氏は無視。が、足に履いた9.5㎝ヒールのミュールは無視できない。つい最近読み直した村上春樹の「1Q84」の青豆(知らない人は1Q84を読んでね)を思い出す。ぴっぴっとヒールを脱ぐと、バッグにぼんぼんっと突っ込み、はしっとばかりにハシゴを登り始める。どきどき。


 ハシゴの上まで到達。手を伸ばし、1ヶ月前の体力測定で30kg以上をマークした握力で手摺をがしっと掴む。

 「手摺、つかみましたっ」

 不安げに私を見上げているであろうB氏に報告する。ハシゴ最上段に足をかけ、むぎゅっと体を持ち上げて、さらりとベランダに着地。

 「ありがとうございました~」


 妙に新しい気持ちで、見慣れたはずのベッドルームに足を踏み入れる。そこが1Q84もどきの新たな世界だったら。一抹の不安が脳裡をよぎるが、今はそれよりバゲットが先決だ。

 玄関で、閉まっていたU字ロックを開け、今度はしっかりと畳み込み、慎重にドアを開ける。階下のお父さんとB氏にお礼を言い、メゾンカイザーに向かったのであった。


 それにしても、風に締め出されるなんて。U字ロックは最後まできちんと畳みましょう、とマンション掲示板に貼り紙しようとして、こんな記事を見つけた。





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by miltlumi | 2017-05-29 21:33 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(4)

節分の日の出来事

 節分。快晴。春の訪れ。暦の上で、新しい季節が始まる。
 「八方塞がり」だった昨年からようやく解放される、と心も軽く、出雲大社分祠でいただいた福豆の豆まきを、朝からいそいそと執り行った。歳の数だけ豆を食べているうちに出掛ける時間が迫り、急いで支度を整える。今日は朝から晩までてんでばらばらな用事が目白押し。あの会議にはこのノート、この会議にはあの資料。忘れ物しないようにしなきゃ、と思いながらも、電車の時刻を気にして家を飛び出す。

 駅への道すがら、夜の勉強会の参考図書を忘れたことに、早速気づく。あ、やっぱり。何か忘れてると思ったんだ。でもこれならたいしたことない。隣の人に見せてもらえばいいや。他力本願、である。
 地下鉄への階段を降りる前に、2番目の忘れ物に気づく。最初の会議に必要な書類を印刷し忘れた。あいたっ。これはちょっとマズい。自分で作った資料を説明する立場なのに。でも、事前に相手方にメールで送ってある。秘書さん、優しそうな人だったよね、とスマホからメールで印刷依頼。即レス。ありがたいことである。
 2度あることは3度ある。というけれど、まさかまだ他に忘れ物なかったっけ。

 やっぱりあった。次の会議、非常勤で働いている会社の従業員用セキュリティカード。あああ。これは結構マズい。総合受付に行くと、いろいろ職務尋問されて紙を書かされて厄介なのだ。ここでも頼るは秘書さん。電話をして、わざわざゲートまでお迎えに来てもらう。ホント、お手数おかけします…。

 会議が終わり、彼らは全社員総会で別の場所にある会議室へ移動、というので、私もとっとと退散する。…と、エレベーターの中で、ゲートを出るにもカードが必要なことを思い出す。げげげっ。これはかなり本格的にマズい。とりあえずゲートに行くも、1カード1タッチで1人ずつ、ピッピと出入りする中、紛れて出て行くことは不可能。テナント企業社員専用ゲートだから、警備員もいない。
 策のないまま再びエレベーターを昇る。当然ながら、オフィスに入ることもできない。カード不要の秘密の出口はないものかとうろうろするが、ドラえもんじゃない限り、そんなもんあるはずもない。

 なんの勝算もなく、みたびエレベーターへ。そこに、地獄に仏。警備員さま!! 見た目も明らかな制服姿に、聞かずもがなの問いかけをする。
 「あの、警備員の方ですか?」
 「…? はい。でも、〇〇証券の専任ですが」
 〇〇も△△もカンケーない。かくかくしかじか、出来るだけしおらしい表情を作ってお願いする。
 「つまり、出て行ければいいんですね」
 「はい。すみません。お願いします」
 人目を盗んでピピッとカードをかざした警備員さんに、ゲートの外から深々とお辞儀をしたのであった。

 「八方塞がり」をうまく乗り切るには、まわりをぐるり囲む人たちに助けを乞うしかないという。ということで昨年は色々な人に助けていただいた。最終日の節分の日、まさにその集大成とも言える「人様の情け」オンパレードであった。
 新しい季節が始まって1週間。相変わらず人の助けで生きている、今日この頃である。


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by miltlumi | 2017-02-10 10:29 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)

永遠の松田聖子

 元旦が日曜日だったせいで、仕事始めと思ったらすぐ成人の日の3連休。昨日からようやく、街も人も通常のペースに戻った感じがする。毎朝同じ時間に同じ場所に通勤する習慣のない私も、仕事外出のためにきちんと身繕いする作業が再開した。
 出掛けない日はノーメイクの顔を鏡に映して、しげしげと覗き込む。一昨年は、新たなしみやしわを見つけるたび「げげっ」と驚いていたのが、昨年からタメ息に変わり、年末には静かな諦めが浮かぶようになっていた。確実に歳はとっていく。
 とはいえ、1月初めはその諦念がちょっと揺らぐ。なぜかといえば、年末に観たTVのせいなのだ。

 子供の頃から全然TVっ子でなく、今でも夜7時のNHKニュース(すみません、飲み会がない限りこの時間うちにいるんです)、週末はそれに続き「ブラタモリ」、「ダーウィンが来た」から大河ドラマの梯子、くらいがせいぜいである。
 それが、年末年始だけは一変。帰省先の母と兄一家の家では、朝から晩まで50インチの大画面いっぱいに、騒がしい色と音とともに、妙に眉の整った男の子たちや個性があるんだかないんだかわからない女の子集団が飛んだり跳ねたりしている。
 「神ってる」というコトバがそこらじゅうで連発されるのも、ピコ太郎のCM露出度がこんなに高いのも、12月30日に初めて目の当たりにした。

 大晦日の夜は、傘寿を越えた母のために紅白歌合戦と決まっている。それでも彼女は小林明子と美川憲一がいないのが不服そうだ。
 紅白どちらの歌もイントロとともに口ずさみ始める甥っ子の横で、私は「ダーウィンが来た」の珍獣を見るのと同じ視線を投げる。ときたま登場する馴染みの顔にも、「TOKIOもおっさんになったなぁ~」といった感想ばかり。

 とそのとき。出た。松田聖子。

 いつものように(って、年1回、紅白のときしか知らないけど)、こめかみの皮膚を思いっきり引っ張り上げるアップのヘアスタイルで、ぴんぴんの肌。まっ白なデコルテ。
 決して誰も、全然まったく気にもしてないとは思うけれど、何を隠そう、松田聖子は私と同い年なのだ。正確には、彼女のほうが1ヶ月年上である。
 それなのに、なんだこの肌は。キレイ過ぎるじゃないか。
 相手は押しも押されぬ歌手、女優。美肌のためなら世界中どこへでも行く(細胞が生まれ変わる28日周期を早めるためのピーリングを、彼女がLAかどっかでやってると聞いたことがある)財力と根性。同い年というだけで、美しくあることが仕事である彼女と、自分を比べるほうが間違っている。

 それでもやっぱり、気になる。「聖子ちゃんカット」が一世を風靡した頃から、クラスメートとともに同い年の対抗意識を燃やした仲(?)である。結婚も出産も離婚も再婚も、とても他人とは思えなかった。その彼女の、経年変化、のなさ。
 画面に近寄って、まじまじと見つめてしまった。
 所属事務所からの厳命なのか、NHKカメラマンの気配り精神なのか、顔を大写しにしたアングルが2秒以上続くことはなかった…ような気がする。

 というわけで、仕事始めの外出にあたり、経年変化と諦念について、さまざまな思いが胸を去来したのであった。


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by miltlumi | 2017-01-11 15:40 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(2)

年末小景

 今朝の朝ご飯は、ローストオニオンディップ添え丸かじりきゅうり1本とコーヒーだった。明日から実家で年末年始を過ごすので、今日中に冷蔵庫の野菜室を空にしないといけないのだ。
 のんびりする間もなく、大掃除開始。今年はさぼりにさぼって全て後伸ばし、昨日の晩に最も難物の換気扇とガスコンロまわりをやっつけたから、多少は気持ちが軽い。順番を間違えないよう、まずカーテンを取り外し、洗濯機が回っている間に窓ガラス拭きと網戸洗い。腰高窓の網戸は取り外してお風呂場で洗う。ベランダは、アロエの花に引き寄せられた小鳥たちが落し物をしていくので、水洗いをしないといけない。
 昼ご飯(ブロッコリーとしめじと玉ネギのガーリックオイルスパゲティときゅうり1本)のあと、掃除機をかけてフローリングの床を2回雑巾がけしてから、ワックス塗り。キッチンは2度塗りしたほうがいいのだが、今年は断念。その代わりに玄関の石タイルに専用のワックスを塗りこむと、黒光りして美しい。
 ワックスを乾かしている間に、お風呂の掃除。天井の換気扇は定期的に洗っているが、湯船のエプロン外しは年1回だけのスペシャルである。

 すべて終了したのは午後4時。やればできるものである。ぴかぴかのお風呂はもう汚したくないので、慣れない雑巾がけで強張った身体をほぐしがてらスポーツジムの大風呂に行くことにする。
 年内最終日の夕方ということで、案の定サウナはめいっぱい混んでいた。ひるまず奥の高い段に体育座りをして見回すと、みなさま常連の顔見知り同士らしく、おしゃべりの輪ができている。このジムは、場所柄いわゆる「有閑マダム」系が多く、平均年齢はおそらく私より10才くらい上だ。
 「今日はダンナが夕飯いらないから、友だちと忘年会なのよ」とはしゃいでいる50代後半。
 「その友だちって、51才なんだけど、なーんと電撃アメリカ人と結婚してハワイ島に行くのよ。タイのリトリートで一緒になった人なんですって。ハワイ島に家2軒持ってる海洋学者。60過ぎで、最初はじじいだと思ったんだけど、やりたいことがいろいろ一致してて、決めたんですって」
 ふーん。リトリートか。クリスマス3連休をタイで過ごしたのに、脇目もふらずにひたすら金ぴかの仏様に手を合わせていた自分が悔やまれる。
 リトリート、ねえ。でも、別に、ハワイ島になんて住みたくないし。
 ま、リトリートで出会えるのは、ハワイ在住者だけとは限らないし。
 あ、それよりそもそも私、リトリートなんて興味あるんだっけ。

 それにしても、マンダリンオリエンタルのアフタヌーンティーは最高に美味しかったっけ。

 思いは、散々に乱れ飛ぶ。
 来年、いいことがありますように。
 ***
 今年も1年、ご愛読ありがとうございました。
 来年が、みなさまにとって佳い年になりますように。
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by miltlumi | 2016-12-29 22:02 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)

無印編 塞翁が馬

塞翁が馬。禍福はあざなえる縄のごとし、とも言う。

福)真夜中に素晴らしいクローゼット収納改造計画を思いついた。
禍)そのために必要な無印の収納ケース6個をなかなか買いにいけなかった。
福)ミッドタウンから平日2日間限定ポイント10倍キャンペーン(つまり10%引き)のDMが来て、対象店舗に無印が入っていた。
禍)金曜日に勇んで行ったら、対応してくれた店員が新人の中国人女性で、こちらの質問にひとつも答えられなかった。
福)代りにやってきた中国人男性の店員が、イケメンだった。
禍)送料節約のためちゃりで運ぼうと、ケースの四隅を養生してくれるよう頼んだら、二人の中国人の梱包材の使い方がめちゃくちゃだった。
福)見かねて自分でやり始め、彼らと応援に入った日本人女性の3人が3個やる時間で私が3個仕上げた。
禍)さすがに6個は持ち帰れないので、まず3個だけ受け取って駐輪場に向かったが、途中で彼らの梱包がぼろりと落ちた。
禍)しかも3個だけでもとてもちゃりでは運べない大きさであることが発覚した。
福)3個を持って店に戻り、配送依頼をしたら、対応した日本人女性店員の感じがとてもよかった。
福)しかも配送料金が予想よりずっと安い金額だった。
禍)最速の配送日が当日どころか3日後の月曜日で、週末に改造計画を実行しようとしていた予定が狂った。
福)無印のためを思い、日本人女性店員に梱包材の件を指摘したら、とても丁寧な謝罪と的確な対応をしてくれた。
禍)月曜日に配送されてきた段ボールが、雨でぐしゃりと濡れていた。
福)中のケースには影響がなかった。
禍)ケースを見ると心がときめかず、実は今使っている小引き出しのキャビネットをすごく愛していること、無印は無駄な買い物だったことに気づいた。
福)じっくり考え、洋服ではなく鞄を入れる案を思いついてようやく心ときめき、整理コンサルのサンプルケースにしようと”Before”の写真を撮った。
禍)鞄を入れてみたら、全然すっきりせず、しかもケースごと置くと棚がかしいでしまった。
福)再度考え直して、鞄ではなくジーンズ類を入れる案を思いついて、これなら絶対今よりすっきりすると確信した。
禍)心が逸り、早速ジーンズを引っ張り出してケースにいれ始めてから、”Before”の写真を撮り忘れたことに気づいた。
福)期待どおりジーンズがすっきり納まり、せめても、ということで”After”の写真を撮った。
禍)収納整理などしているヒマはなく、仕事をしなければならないことを思い出した。
福)PCに向かったとき、この話を「塞翁が馬」シリーズとして、ブログに書くことを思いついた。
禍)ブログなど書いているヒマはなく、仕事をしなければならないことを思い出した。

…かくして、禍福はあざなえる縄のごとく、延々と続くのであった。
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by miltlumi | 2016-10-19 15:29 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(2)