カテゴリ:慣れてない男たち( 9 )

ボクが彼女を好きな理由(わけ) (下)

 女性AとBの告白で大いに盛り上がる中、「彼が自分のどこを気に入ったのか」というテーマについて、女性Cは結局最後まで言及を避けた。
 私の勝手な想像だが、彼女を満足させることはおろか(って、女性AとBも別にあれらのセリフ満足したかどうか知らないが)に、彼女の記憶に残るよう印象的な描写をしてくれた男性が少ないのではないか。

 友達の私が言うのもなんだけど、この人は美しい。透きとおるような肌をしていて、20代の頃は(女性Bの表現を借りれば)「秘密の花園」と称されるような、深窓の令嬢的高貴かつ儚げな美女であるにも関わらず、頭の回転が速くて(って、儚げな美女はトロい、と悔し紛れの発言をしたいわけではない)仕事は一見マンモス狩り系なほど頑張る。
 でも実のところは、誠に女性的なモチベーションのもとに一生懸命頑張ってしまう、フクザツ系なのである。裏の裏のウラまで読まなくては、彼女を理解することは難しい。
 蛇足だが、女性的モチベーションとは、「誰かのために」という発想。尊敬できるボスに出会うと、その人に尽くしたい、評価してもらいたい、という気持ちで頑張ってしまうのである。単にマンモスを狩ってアドレナリン出すのが快感だとか、ライバルより1kgでも大きいマンモスを仕留めたいとかいう男性的モチベーションとは性質がちがう。

 とにかく、外見だけ見て「美しいところがいいなあ」って褒めたって、今一つ響かない。美しさを保ちながらガンガン仕事をする様子を見て「やり手ですね」と賞賛しても、彼女の本質を見抜いていない。いっそ「キミのすべてが好きだ」なんて言おうもんなら、そのひねりのなさに彼女は呆れ返って「ばかとはつきあえないわ」と即、お払い箱ですね。
 …すみません、彼女の名誉のためにも断言しておくが、これらはすべて後日私が一人で妄想したことであって、断じてCの口から出たものではない。

 私が彼女の彼だったら(って、そっちの性癖があるわけではないけれど)、なんて言おうかなあ。少なくとも、そんじょそこらの男性よりは、彼女の本質をとらまえた洒落た一言を差し出せそうな気がする。人間観察力並びに言語能力は、男性より女性の方が勝っていることは周知の事実だもの。

 「そろそろ閉店です」とのウェイターの言葉に立ちあがった私たち。Cの、ストイックな黒い縦襟のワンピースの背中には、首元からくるぶし近くの長さまで一直線にファスナーが通っていた。
  私「きゃあ、セクシーなお洋服」
  B「男の人って、ファスナー好きだよね」
  C「うふ、開けるよろこび♪」
  全員「げらげらげら」
  C「でも、財布のファスナーは開けな~い! けちなやつら」

 やはり、そんじょそこらの男性では、太刀打ちできそうにない。
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by miltlumi | 2011-08-16 09:16 | 慣れてない男たち | Comments(3)

ボクが彼女を好きな理由(わけ) (中)

 女子会は続く。「彼が自分のどこを気に入ったのか」への回答、女性B。
  「うるさくないとこ、なんだってさ。私、男の人といると、ずううっとしゃべり続けてるんだけどね」
 たしかに彼女は、男性ではない私といるときも、結構よくしゃべる。もちろん私もしゃべるけれど、おしゃべりな私が「よくしゃべるなあ」と思うくらいしゃべる。 
 それなのに、「うるさくない」とはこれいかに。声の大きい私と違って、あまり通らないトーンの声、という意味ではない。

 正確には「『こ』うるさくない」のである。相手に対して、あーせいこーせいといった、したり顔のアドバイス、もしくは指示命令を出さない。健康のためにもっと野菜を食べろとか、汗をかいたTシャツはすぐ着替えろとか、貯金は若いうちからコツコツ続けたほうがいいとか、「彼のためを思って」こうるさいことを並べたて、結局嫌われる女性は多い。 

 「だって私がちゃんと見てなきゃ彼はダメになる」と、私も若い頃は反論していた。けれどそれは、言い換えれば相手の判断能力に対する不信感の裏返しとも言える。失礼な話である。
 女性が手取り足取りアドバイスしないとダメになる男なんて、そもそも付き合っている意味がない。あるいは、女性が「ダメだ」と思う基準と、彼の「ダメ」の基準がちがうのかもしれない。客観的に見れば、全然ダメじゃないのに、「私の彼たるからには、これくらいしてくれないと」と、つまりは自分の価値観を押し付けている。なんでも一緒じゃなきゃ気が済まない。自分と相手を一体化してしまって、分離できていない。
 卑近な例だが、私の母は一体化が得意で、家族全員自分と同じ価値観でないと気が済まない。孫の部屋が汚いと言っては嘆き、私の香水の匂いが気に入らないと言っては顔をしかめる。「血がつながってたって、所詮他人なんだから、お母さんの価値観を押し付けないほうがいいんじゃない?」というと、「そういうわけにはいきませんっ」と聞く耳を持たない。

 こうるさくない、というのは、自分と相手が別物であるという事実を受け入れ、相手の価値観を尊重して自分のそれと混同したりせず、へたに踏み込まない礼儀正しさを持っている、ということだろう。そういう彼女も偉いが、それを評価する彼も偉い。
 夫婦は一心同体、なんて嘘。親子だって兄弟だって、歳をとれば考え方も感じ方も違ってくる。ましてや他人をや。たとえ「愛してる」と囁きあったって、その「愛してる」の意味が二人にとって全く同じだなんて、ありえないのだ、悲しいけど。最愛のパートナーを「所詮他人」と思うのは、どこか冷めた哀しさが漂うが、真実なのだ。

 こうるさくない彼女の同居人は、目下モノ言わぬ犬である。
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by miltlumi | 2011-08-14 14:11 | 慣れてない男たち | Comments(2)

ボクが彼女を好きな理由(わけ) (上)

 久しぶりの女子会で、「彼が自分のどこを気に入ったのか」というテーマで議論が展開された。
 女性Aいわく。
  「パーティーでだんなが誰かに訊かれてたんで、耳ダンボにしてたんですけど、『マニュアルのクルマを運転できるところ』って言ってるんですよお。え、そういうとこなわけ、って感じじゃありません?」
 と、ちょっとご不満なご様子。しかし、私にしてみると、拍手喝采ものだと思う。さすが私の友達を好きになった男性だけのことはある。

 クルマが運転できる、ということは、つまり、一人でどこへでも行ける、ということである。地図が読めるかどうかは別にして、自分で目的地を決め、自分でドアを開け、自分でイグニッションキーを回す、ということである。他人に頼ることなく、行動のイニシアチブをとれる。
 しかもそのクルマがマニュアルとなると、単に運転するだけでなく、アクセルとクラッチとブレーキと、瞬時に状況判断して咄嗟に行動に移す、その俊敏性と判断力が求められる。そういう資質を備えている。
 そんじょそこらの男性にとっては、ある意味脅威であろうポイントこそを「気に入った」とする彼は、本当にすばらしい。助手席に乗せて信号待ちしてたら、「もっとさっさと発進すれば?」とか言われてしまいそうだけど、そんなことにびびったり腹を立てたりしないんだ、きっと。
 その器の大きさが好ましい。受けて立つだけの能力と自信を持っている、ということだから、彼自身のレベルの高さも自ずとうかがえる。素晴らしい。

 でも、彼女のほうは別に、独立心旺盛な点に自分のアイデンティティーを求めているわけでは、決してない。むしろ、せっかくケッコンしたのだから、だんなに思いっきり頼っちゃいたい、と(たぶん)思っている。
 少し前、まだ新婚といえる時期に、会社辞めて専業主婦になっちゃおうかなあ、とうそぶいたことがあるそうだ。ばりばりに仕事できるとはいえ、ぜんっぜんマンモス狩り系ではなく、料理は上手だし楽器もやるし、仕事以外にたくさん人生楽しめる人なのである。ところが、彼は真顔で「会社辞めたら食べてけなくなるじゃない」とのたもうたそうだ。 
 え??? アナタが食べさせてくれるんじゃないの? この彼も、将来を嘱望されている非常に優秀な方なのだが、やはりマンモス狩り系ではないらしい。「オレが食わしてやる」みたいな発想が皆無なのだ。

 相手が認める自分の魅力と、自分が認めてもらいたいと思う自分の長所は、必ずしも一致しない。でも、すれ違いは男女の運命なのだから、魅力的だと思ってもらえるだけで良しとしないといけない。

***
追記:女子会の後、彼女は、たまたま近くで飲んでいた彼に合流すべく、マニュアルのアウディで去って行った。彼は単に、酔っ払った自分をお気に入りのマニュアル車で迎えに来てくれるような彼女が、欲しかっただけなのかも。とほほ。
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by miltlumi | 2011-08-13 10:10 | 慣れてない男たち | Comments(2)

別れのデート「べき」と「べからず」

 大体、男性というのものは自分から終止符を打つことを忌み嫌う。別れのデートに誘っておいて(あるいはしびれをきらした女性の方が、白黒はっきりさせたくてかけた呼び出しをおめおめと承諾しておいて)、それでも最後の一言を切り出す勇気を持たない。
 男らしく自分でピリオドを打たないって、潔くない。やめてほしい。別れたいなら、思いっきりばしっと言ってほしい。そしたら次の恋を探す勇気も出るから。

 …という主題で、「デートべからず集」を締めくくろうとしていた矢先、素晴らしい例外に出会った。当時まだ20代の青二才だったにも関わらず、男らしく(なく?)、はっきり、ざっくり、好きだった彼女を振ったというのである。ちょっとエキセントリックなところが憎めなかった(キワモノに惹かれるのは若さの印ですね)が、内助の功がモノを言う職業に就いていた彼は、感情に流されんとする心に鞭打って、冷静な判断を下し、「最後の一言」を切り出したという。
 「すごい。初めて聞いた。『男らしい』ですね~」とひたすら感心する私に、彼は手の内を明かしてくれた。姉から、冷静な判断を後押しされたのみならず「切る時はばっさり切れ」との指令を受けたのである。やっぱり、女じゃなきゃできない発想だったんだ。思いっきりピリオド打って別れるのは、「女らしい」所作なんだ。
 
 会話の輪にいたもう一人も白状する。やはりお姉さんから「ふるなら、絶対『他に好きな人ができたから』って言え」と忠告された。次の候補はいるようないないような…という状況なんだけど、と正直に答える弟に対し、姉は「実際がどうだろうと、とにかく彼女には『もう次がいる』と言え」と繰り返した。弟は素直に従い、所期を達成した。
 これもまた誠に女らしい発想である。よほど男らしい(?)女性でない限り、「他に好きな女ができた」と言われれば、「じゃあ私も次を」と諦めるものである。

 浅墓な私は、男も同じ思考回路かと思い、この手を使おうとしたことがある。しかし恋愛プロの女友達から大反対された。、ライバル出現は水ではなく油にしかならない、燃えるマンモス狩り男にそんなこと言おうものなら、「どんなやつだ、一度会わせろオレの方が絶対優れているに決まってる」ってことになり、余計話がややこしくなるに決まっていると。
 この話をすると、別の男性が「それ、正しい」と身を乗り出す。「そろそろ別れようかな、と思ってる彼女から『他に好きな人が…』と言われたら、俄然やる気モードに入って、そいつを叩きのめした後で、オレから彼女を振ってやる、ってなりますよね」

 「人にしてもらいたくないことは、自分もやらない」「人からしてもらいたいことを、自分もやる」という道徳の基本は、男と女の別れの場面には、通用しないのである。
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by miltlumi | 2011-05-15 14:48 | 慣れてない男たち | Comments(5)

まじデートべからず集

 初デートべからず集をUPしたところ、早速さそりいのししさんから「中3の時の初デートで「青春の門」を観に行ったら、濃厚な濡場だらけ…」というコメントをいただいた。ねっ言ったでしょ、映画はヤバいって。
 気を良くした私は、シリーズ第二弾「まじデート」版を書こうと思い立ったが、あいにく自身の経験が貧弱で、サンプル数が少なすぎる。必然的に今回は見聞録となる。

 その1。相手の親への付け届け。まじめにつきあってるけど、ケッコンなんてまだまだ、と思っている遊び盛りの若者がいた。お中元の季節、田舎の両親から「日頃お世話になってる方のリストを出せ。梨を送るから」との指示。何気なく、彼女の両親の名を加えた。彼女の家は東京だったので、ちょくちょく訪れては夕飯をご馳走になっていたのだ。
 数週間後、いつものように彼女の家に行くと、両親の様子がおかしい。食事の後、突然改まって「あの、で、日取りはいつ頃に…」 え!?? ぼぼぼく、まだその気はないんですけどどど。お茶を濁して逃げ帰り、そのような展開になった理由を考えた。あ、梨だ。。。 わざわざ田舎の親から贈答品ということは、と深読みされたのである。ただこれは20世紀後半の話。今はもうこんな古風な親はいないだろうから、参考にならないかもしれない。

 その2は、出雲大社旅行。要は、男性の側に彼女とケッコンできない法的理由があるのに、一緒に出雲大社に行ってしまったのだ。最初はイヤだと断ったが、「他意はない」というから、しぶしぶ行ったという。あのお、「他意はない」って、ないわけないだろーがっ 相手はニッポン全国津々浦々におわします「縁結びの神様」のご本尊、出雲大社だよっ そんな言葉を信じるなんて、なんちゅーナイーブな。。。
 だが、彼女が本当に「他意はなかった」可能性はある。いや、そうかもしれない。でも、いざかの地に1歩でも足を踏み入れてごらんあそばせ。まわりは「まじ」カップルでいっぱい。そりゃあ、その後ぎくしゃくしないわけがない。
 法的理由がなくても、ケース1のように、まだ腹が固まってないときに、ただの観光気分で出雲大社に行ってはならない。自分より相手の気持ちが1mmでも高かったら、その格差が広がらないわけがない。合わせる手をハート型にして盛り上がってる相手の横で「今年こそ昇進できますように」なんてマンモス狩り祈念を口走ったら、後の顛末は神様じゃなくても見通せる。

 もちろん私も出雲大社は行ったことがある。大学3年の時、女友達と。彼女は紆余曲折の末、当時の意中の彼氏とゴールインし、今は1男児の母である。一方そのとき私が思い浮かべた相手も、今年大学受験の娘がいる(らしい)。
 なぜこうもちがう境遇に…。お参りの仕方を間違えたかと思い、Googleで調べてみると、出雲大社は二拝四拍手(二拍手ではなく)一拝だという。知らなかった。
 次に、もしも、万一、出雲大社に行く機会があれば、忘れないようにしよう。
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by miltlumi | 2011-05-08 23:29 | 慣れてない男たち | Comments(10)

初デートべからず集

 男女数名で談笑しているとき、ある女性が藪から棒に「初めてのデートでプラネタリウムに誘うの、やめてほしいんですよね」と言った。むべなるかな。二人並んで真っ暗闇に寝っ転がるなんて、はしたない。邪な下心ありと見られて当然である。え、二人でお星様見るなんてロマンチックじゃない、などと無邪気に言うなかれ。「初めて」のときはあまりロマンチシズムを求めてはいけない。
 星空を見上げながら「僕たちは、過去からつながってる今を眺めているんだよ」とささやいた宇宙物理学部出身の輩がいたが、ロマンチシズムの追及はリーチがかかってから(彼はその相手とちゃんとケッコンした)。初デートでそんなキザな台詞吐いたら、「私、アナタの過去になんて、ひとっっつも興味ないんですけどっ」と反発されるのは必定である。

 それから、観覧車もまずい。15分一本勝負、空中の密室。「インスタント拉致」という軽犯罪ですね、これは。私は馬鹿で高いところが好きなので、会社の先輩に単純に「観覧車乗りたいです!」と言ったことがある(ほんとに馬鹿だね)。経験豊かな彼に「カーテンついてるやつでいいの?」と切り返され、自らの浅はかさに気づいた。
 後日、友人にこの失敗談を告げると、「カーテンついてたら、景色見えないじゃないですか」と言われた。さすがわが友。類は友を呼ぶ。上には上がいるものである。

 映画というのは、無難な選択のようでリスキーである。こてこてのラブストーリーは色々な意味で「やぶへび」になるリスクがあるのでとりあえず避けるのは当然として、コメディーも気をつけないといけない。笑うツボが相手とかみ合わない場合、こっちが涙流して笑い転げてるのに、横から白けた視線を送られ、「ふうん、そういう感性なのね。へええ」と、たかがお笑いで勝手に値踏みされる恐れさえある。

 過去最大のびっくりケースは、まだツーショットで食事もしたことがないのに、いきなり「八ヶ岳の僕んちの別荘に来ない?」と誘われた時である。八ヶ岳は、日本で一番晴天率が高いとっても気持ちのいいところで、私のお気に入りスポットだ。それでもどうやったら見ず知らずの男性の別荘に一人でのこのこ行けるかね、一体。

 いずれにしろ、何よりも大切なのは、まず初デートに誘ってOKしてくれる相手を見つけること。
 先日、手に入れた演劇チケットが余ったので、「誰か一緒に行かない?」とオフィス内で声をかけたら、ものすごーく年下の男の子が「え、○○さんと初デートできるんですか?」と乗ってきてくれた。嬉しさを隠し、私は大人の余裕で微笑んだ。
 「大丈夫、最初で最後だから」
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by miltlumi | 2011-05-07 18:06 | 慣れてない男たち | Comments(10)

いまだによくわからないこと

 この歳になると、色々と来し方を振り返って、自分の至らなさを反省したりその時は気付かなかった人情の機微に思い当たったりする。でも、そうやって考えてみても、どうしてもわからないこともある。あれって、ナンダッタンダロウ…

 20代前半の頃、私は田舎に住んでいた。勤務先も田舎と東京の中間に位置していたから、普段の生活は支障なかった。でも大学の友達や勤務先の「本社」の友達と遊ぶ時は、東京まで鈍行で片道2時間。だから、飲み会が金曜日だと嬉々として東京のホテルに泊まった。せせこましいビジネスホテルなんかではなくて、新宿副都心や品川や赤坂の一応ちゃんとしたホテル。スポンサーなしでは泊るのが憚られるような外資系の超高級なホテルは当時はまだ存在せず、どんなホテルもまだ良心的な値段だった。
 私だけでなく、飲み会メンバー全員で宿泊、なんてイベントも時折やった。スイートルームを借りて、3名宿泊と言いながら男女7・8人が五月雨式に集まる。ベッドは3つしかないけど、朝まで飲んでしゃべって騒ぐだけだから全然問題ない。

 そんな仲間の一人と、どういう成り行きだったか、「じゃあ今度は2人で泊ろうか」という話で盛り上がった。
  「どのホテルにする?」
  「○○さんのお気に入りはどこ?」
  「新宿ヒルトン!」
  「じゃあそこにしよう」
  「でも勿論部屋は2つだよ」
  「そんなのあるわけないだろう」
 あれが若さというものだったのだろうか。彼は数ヶ月後に大学の同級生と結婚することが決まっていた。私もつきあっている彼がいた。冗談をどこまで通せるか、お互い肝試しみたいなノリだったかもしれない。当然、ダブルのシングルユースを2部屋予約した。
 約束の日の夕方、ホテルのロビーで落ち合う。2部屋分をチェックインして、彼に鍵を渡す。
  「え、そうなの?」
  「当然でしょ」
 お互いちょっぴり複雑な、でもあっけらかんとした笑いを浮かべて、隣同士の部屋に荷物を置く。

 レストランで食事をした後、自然の成り行きでちょっと部屋で飲もうよ、ということになる。その結果。何も起こらなかった。しばらく彼の部屋で飲んで(あの頃は私も結構お酒が飲めたのだ)、じゃあおやすみなさいって、私は自分の部屋に戻った。彼もそれを強引に引き止めたりはしなかった。
 翌朝、同じ時間にドアを開けて廊下で合流し、一緒に朝食を食べた。昨晩の延長みたいに、他愛もない仕事の話や学生時代の話や彼女・彼の話で盛り上がった。12時を待たずにチェックアウトして、「じゃあね」って言って、土曜日の冬の朝の光の中で別れた。

 彼とはその後もいい友達である。でも、あれは一体、なんだったんだろう。
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by miltlumi | 2010-12-10 17:24 | 慣れてない男たち | Comments(1)

クリームソーダ発、コーヒー経由、チャイ行き

 小さい頃、家族と喫茶店に入って注文するのは「プリンアラモード」か「チョコレートパフェ」と決まっていた(何しろスパゲティーといえば「ミートソース」と「ナポリタン」しかない時代だったのだ)。

 高校1年のときに初めて男の子とそういうお店(といっても、イトーヨーカドーに併設されたDenny’sでした)に入ったときは、めいっぱいオトナのふりをして、相当地味(だと私なりに考えた)クリームソーダを注文した。しかし彼は私の上を行っていた。
 「アイスコーヒー。ガムシロップ別でね」
 なにそれ。高校生のくせに。小学校の頃から親に「子供がコーヒーを飲むとばかになりますよ」と言われ続け、特別な日の給食に出てくるコーヒー牛乳しか飲んだことのなかった私は、無条件に反発を感じてしまった(コドモだね)。しかもガムシロップ別って、なにかっこつけてんのよ。目の前に座っているスポーツ刈りの学ラン姿が、どうにも空々しく感じられた(タダの偏見ですけど)。それ以外にもおそらく理由はあっただろうが、結局その男の子とはそれきりだった。
 噂によると、彼は自分が300円のコーヒーだったのに、私がそれより50円(80円だったかな)高いクリームソーダを注文したと、憤慨していたらしい。お小遣いが月3000円の時代。彼も、私も、みんな慣れていなかった。
 
 晴れて喫茶店でコーヒーを注文したのは、大学受験に受かって入学式を間近に控えた春先だった(大学に合格したのが、18年間コーヒー断ちしたおかげかどうかは、証明不能である)。アイスコーヒー。もちろんガムシロップは別で。
 そうやって人は大人になっていく。大学1年。東京の私立高校出身の男の子に連れて行ってもらった渋谷パルコの地下のコーヒー専門店。「僕、キリマンジャロね」とお姉さんに声をかける彼に、もはや「何かっこつけてんの」とは思わなかった。大学2年。ラ・マレー・ド茶屋で「本物の彼」とお茶したときは、なんだかとっても出世した気分になったっけ。
 社会人になって、渋谷・葉山はもちろん、外国でも、色んなものを飲んだ。夏、トロントのハーバーフロントで乾いた風に吹かれて氷を鳴らしたコーヒーフロート。留学先の下宿を探す友達と道草したロンドンのアフタヌーンティー。マンハッタンの冬の朝、スーツ姿の金髪と一緒に並んで買った水筒みたいに大きなカップの薄いコーヒーとシナモンベーグル。イスタンブールのグランド・バザールでパシュミナを値切りながらご馳走してもらったアップルティー。こうして、色々なことが当たり前になっていく。

 少し前、友達のうちに行ったら、チャイを淹れてくれた。インドにはまだ行ったことがないけれど、とても美味しかった。遠くまで来たな、と思った。
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by miltlumi | 2010-09-14 19:12 | 慣れてない男たち | Comments(2)

じゃこと青唐辛子スパゲッティー

 その彼とは、大学の授業が一緒だった。ひとつ年上で学科も違っていたが、こじんまりした講義だったので互いの顔と名前はすぐ一致した。勉強熱心でない私と違って、彼は端正な顔にいかにも「勉強好き」な雰囲気を漂わせていた。学食でランチを一緒に食べたことも授業以外でプライベートな話をしたこともない。だから、私が卒業して就職した直後、1年前に大学院に進学していた彼から連絡があったときは、結構驚いた。

 「来る者は拒まず」タイプの私は、彼が指定するまま渋谷駅で待ち合わせをした。「お久しぶりです」といいながら向かった先は東急ハンズ近くの「五右衛門」というスパゲッティー専門店。「いかと明太子」「おろし納豆」といった和風から定番まで、豊富に並んだメニューを物珍しげに上から読み始めた。ところが、彼は「ここは、『じゃこと青唐辛子の醤油味』がおいしいんだよ。」と言ったかと思うと、「すみません、じゃこと青唐辛子のスパゲッティーふたつ。」え、どうしてアナタが私の分まで注文するの?と目をしばたたかせる。しかし相手は一応先輩である。二人で会うのは今日が初めてである。とりあえずおとなしくしよう
 心持ち口数を減らした私の前に、「じゃこと青唐辛子」が運ばれてくる。醤油の香ばしい香り。目の前にあるパルメザンチーズの器に手を伸ばす。私は乳製品全般が大好きだった。と、彼の眼鏡がきらりと光る。「このスパゲッティーにはチーズはかけないんだ。このままで味わってみなさい」 …宮中晩餐会じゃないんだから、醤油味にチーズかけたっていいじゃん、醤油バターラーメンっちゅうもんを知らんのか!?と言いそうになるのを、再び「まあ最初だし」という(この時点で徐々に説得性を欠き始めている)セリフを心の中で繰り返し、黙ってフォークを動かす。
 それでも沈黙が苦手な私は、質問する。「お勉強は忙しいですか?」 今度の眼鏡のきらめきは、さっきと違い心なしか冷たい。「勉強じゃないよ。」 勘のいい私は即座に反応する。「あ、『研究』ですね。大学院生ですものね。」「そう。」彼は満足げにうなづく。

 そして藪から棒に講義が始まる。「君はね、まだ手の入ってない1本の若葉の木みたいなものなんだよ。あちこち枝を張り始めているけど、どの枝を伸ばしていくか、まだわかっていない。もっと洗練されていくべきなんだ」 一種芸術的なこの台詞も、20代前半の私にとっては、自己否定されたようで屈辱的だった。週1回同じ教室にいただけで、私の何を知っているというのか。「…そうですか。」せめて口調が尖りませんように、と最後の情けを込めて発言し、そそくさとスパゲッティーの残りを口に押し込んだ。 

 先日、久しぶりに彼の噂を聞いた。なんとか大学教授の彼はまだ独身で、友人の仲介で開催した合コンの席上、北方領土問題だかアフガニスタン問題についてずっと語っていたらしい。3人の女性は2次会に来なかったそうだ。
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by miltlumi | 2010-04-29 11:45 | 慣れてない男たち | Comments(0)