当事者の片一方はそのことをよく覚えているのに、もう片一方は全く覚えていない、ということはままある。押しなべて相対的に記憶力のいい私は、前者の役回りを果たすことになる。 10年以上ぶりに会うことになったその人とは、フェイスブック上に勤勉に写真をアップしてくれる共通の知人のおかげでお互いの顔を見紛う心配はなかった。毎年交換している年賀状のおかげで、互いの近況はもちろん最近引っ越したことも知っているから、待ち合わせのお店も両者の中間地点、ということで悩む必要もない。 一番最近まともなやりとりをしたのは、4年近く前。彼からのリクルートだった。脱サラして自由業になってぷらぷらしていた(わけでもないけれど)頃。同じ会社を辞めてからは6年半たっていたから、ちょっと驚いた。去る者日々に疎し、が当たり前の世の中で、年に1度の年賀状つながりしかない私を思い出してくれたことが、正直、嬉しかった。今さらサラリーマン生活に戻る気は毛頭なかったけれど、一応信義を尽くして検討し、お断りしたのだけれど。 この話をしたら、「あのとき、何の仕事してほしかったんだっけ」と本人はほとんど忘れていた。 もうひとつ、さらにきれいさっぱり忘れていたのは、新築間もない彼の自宅を訪問したことがあったことだ。海の近くで、木の香りも瑞々しい一軒家で、バミューダ姿の彼が次から次へと缶ビールを空けては「資源ごみ」の袋に放り込んでいたのを、私のほうはよく憶えている。 ぴかぴかのフローリングのリビングルームで、まだ幼稚園にもならない彼の長男を、戯れに何度も「高い高い」をしてあげた。もともと子供好きでなかった私にしては、我ながら珍しいことをやっているな、と思ったから、余計に記憶に残っているのかもしれない。彼のほうは、この訪問のことも何一つ憶えていなかった。 別の話になったとき、息子が大学3年なんだ、と教えられ、さすがにそれには「わああ」と思った。 大学を卒業したらもう息子と一緒に暮らすこともないだろうからせめて最後の数年は、と奥さんが言い張って、わざわざ大学通学圏内の都心に引っ越したのだという。ちょっとびっくりした。バリキャリ系だった奥さんが、息子が「高い高い」を卒業した頃に突然育児に専念すると言って会社を辞めたときもびっくりしたけれど。 考えてみれば、あの新居訪問は奥さんに誘われたイベントだった。もともと親しかったのは、奥さんのほうなのだ。やはり彼女と親しかった私の夫とともに夫婦で招かれた。私たちは彼らより一足先に新居を構えたけれど、子供はまだだった。あの「高い高い」を、夫はどんな思いで眺めていたのか。 お互い夫婦連名で出し合っていた年賀状の宛名は、途中からこちら側の相棒の名前が消えた。 別れ際、彼がぽつんと「今、かみさんと冷戦状態でさ」と白状した。些細なきっかけの、些細な諍い。あはは、と笑っていたら、彼が降りる駅に着いてしまった。 うちに帰ってから、ご馳走になったお礼のメールを出した。最後に「○○さんと早く仲直りしてくださいね」と書いたら、たった一言「仲直り努力します」という返事が来た。
by miltlumi
| 2015-07-17 21:36
| 機嫌よく一人暮らし
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