もう少し時間の自由が効くようになったら、お金が貯まったら、気持ちに余裕ができたら、そうしたらきっと。いつかきっと必ず。 そう思いながらも雑事日常茶飯事に取り紛れ、実現しないまま、今に至ってしまった。 何、大したことではない。植物を育てる。ただそれだけのことである。大上段にふりかざさなくても、気軽にすぐに出来そうなことだ。 事実、既に今いる部屋にも、植え替えもせず20年近く生きている健気なパキラや、ディップを作ったあとの種から芽が出て今や150㎝くらいに育ったアボカドや、2年半前にハーブ園で買って以来何度も枯死の危機に瀕しながら奇跡の復活を果たしているペパーミントや、大小7つの鉢植えがある。 でも、私の理想はちがうのだ。南向きの100坪くらいの庭に、蝋梅、沈丁花、土佐水木、雪柳、連翹、木蓮、三叉、満天星、石楠花、花海棠、木香薔薇、泰山木、野牡丹、木槿、夾竹桃、芙蓉、百日紅、萩、金木犀、山茶花、姫椿などなどの花木、そのたもとには宿根草やこぼれ種で増える手間いらずの花々を植えて、さらには蕗や紫蘇やローズマリーといった料理に使える賢い草もあれこれ揃え、できれば野菜畑も作りたい。そういうのをやりたい。 便利な場所に佇むこのマンションに暮らし始めて15年、人生の中で一番長い住まいとなってしまった。だが振り返ってみると、庭つきの一軒家に住んでいた年月のほうが、アパート・マンション暮らしよりもまだ1.5倍も長いのだ。 はいはいをしていた赤ん坊の頃は別として、3歳くらいの頃からずっと、庭で土いじりがお気に入りの遊びだった。中学2年の保健体育の授業中、「休みの日の過ごし方は?」という先生の質問に元気よく「庭いじりです!」と答えたら、「じいさんみたいなやつだな」と揶揄されて初めて、これがクールな趣味でないことを知った。 だからと言って、山から採ってきた菫を軒先に植えたり学校をさぼって金木犀の花びらを摘んだりといった行動を止めることはなかった。 このマンションでの最初の10年は忙しくて出張がちだったから、しばらく水をやらなくても耐えられる丈夫な観葉植物しか置かなかったが、会社を辞めてから少しずつバリエーションを増やした。3週間の海外旅行中は、大学生の甥っ子にバイト代を払って週1度水やりに来てもらった。 そうして今年、室内で大きくなりすぎたキダチアロエを大きな鉢に植え替えたとき、無性に本格的に植物を育てたくなった。今や時間と気持ちは余裕たっぷりになったものの、中年老いやすく、金貯め難し。100坪の庭を夢見ているうちに死んでしまうかもしれない。鉢植えでもプランターでもとにかくやろう。狭いベランダで、お布団干しと非常梯子の邪魔にならない程度でも。 手始めに買おうと思い立ったのは、しかし、花木ではなく山椒である。この季節、筍とセットで買う木の芽の値段を見るたび、実家の庭にある大きな犬山椒を思い出してため息をついていた。木があれば、いくらでも芽を摘んで香り高い木の芽和えが食べられるのに。思いは通じるもので、近所の花屋さんに珍しく苗木が並んでいた。 「木の芽、買うと高いんですよね~」 どの苗が一番良さそうか、熱心に選んでくれていた白髪の女性店員が苦笑した。 「新芽を摘むのはちょっとだけ。丸坊主にしないでくださいね」 花より団子。
by miltlumi
| 2015-05-10 09:05
| 機嫌よく一人暮らし
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