最近前に進んでる感がないんですよ、と知り合いの女性が言うのを聞いて、反射的に心の中で眉をひそめた。昔ある人に、「君と一緒にいても前に進んでる感じがなくて嫌なんだよ」と言われた記憶が苦々しく甦ってきたのだ。そんな私的感情を押し殺して、私はにこやかに質問を投げかける。
「厳密に言うと好きなのは、前に進んでる感じ? それとも上に上がっている感じ?」 即答だった。 「前に進んでる感じ」 働く人の多くは、前に進むこと、あるいは上に昇っていくことに大きな喜びを見出し、そこに「フロー」を感じる。働くこと=上に上がる、つまり昇進昇格昇給、と信じて出世街道をひた走り、何かの手違いで(あるいは客観的評価の結果?)ラダーから脱落すると人生が終わったみたいに自暴自棄になる人さえいる。 前に進むほうが、上に昇るよりは楽かもしれない。地球の重力に逆らう必要はないし、周りの景色が後ろに流れていくだけでも前に進んでる感は味わえる。単なる横移動でも、まあ進んでると言えば、言える。 前進や上昇が1次元であるのに対して、2次元型もある。「拡がる感」追求型。古くはアレクサンダー大王からチンギス・ハン、果ては東西冷戦時の米ソ。身近な例では、仕事のやりがい=部下の数、みたいな人もいれば、牡犬のマーキングよろしくちょこっとつばつけて肩書きもらうだけでも、とにかく自分の縄張りが拡がるのが嬉しい拡大志向型は、枚挙に暇がない。 前進する猪とか上に昇る猿(ブタかな?)とか縄張りに拘る狼とかは、なんとなくマスキュリンな感じだが、フェミニンなフローの典型は、ひたすら「貯める」のが好きなリスかもしれない。 女性がよく、本職に関係のない資格をやたらめったらとりまくったり、出世を伴う異動を嫌がる一方で「他の業務も勉強したいんです」と単なる別部署への異動を希望する。あれはどう見ても「木の実貯めたい」本能なんじゃないかと思う。 「会社は学校じゃないんだから、インプットだけじゃ困るのよ。ちゃんとアウトプットを出してもらわなきゃ」と言いたかったけど、むっとふくれて冬眠態勢に入られるとまずいので、我慢したことがある。 私自身はといえば、猪でもブタでも狼でもリスでもない。アライグマである。仕事をする最大のモチベーションが、「片づけること」なのである。昔から、どんな部署に配属になっても、どんな会社に転職しても、まず率先遂行するのはファイル整理や在庫管理、なんちゃらリストの一覧表作りになんとかレポートの統廃合。個人レベルでは、Eメールの受信ボックスを空にする、というのが何よりの目標である。 こういうことに喜びを見出すタイプは、前進や上昇タイプに比べてずっと人口密度が低いので、結構重宝されるのだが、仕事人として致命的欠陥がある。つまり、「仕事をする」モチベーションが「仕事を片付ける」ことなので、やればやるほど「仕事がなくなる」のだ。アライグマが一生懸命石鹸を洗って洗って、ふと見ると手に何もなくなっていて、びっくりきょろきょろ。あれである。 「前に進む」のが好きな人にとっては、何でもさっさと片づけてあとは何もしない私が魅力的に映らなかったのもむべなるかな。そして私も、相手そのものを「片づけて」しまった。身辺整理。すっからかん。そろそろごちゃごちゃにこんがらがった毛糸玉でも探そうか。
by miltlumi
| 2015-04-20 15:55
| マンモスの干し肉
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