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ある日の夜食

 夕方6時過ぎという中途半端な時間に、鰻おこわとチーズと柿の種わさび風味というみょうちきりんな組み合わせの夕飯(?)を食べ、夜8時からのライブに行った。ライブハウスで、オニオンリングとジャンバラヤとアボカドエビディップという、頼りあるようなないようなメニューをつまみ、11時過ぎの電車に乗った。

 駅のホームのベンチ。なんとなくおなかが空いてるかなあ、と思いつつ文庫本を広げる。くしゃり、とレジ袋の音がした。隣に座っている20代前半と思しき男性が、菓子パンと紙パックジュースを取り出したところだった。桃とぶどうの模様、どうやらミックスフルーツジュース。何の菓子パンかはわからない。
 次発電車表示板を見るふりをして、近視用眼鏡をかける。顔は表示板に向け、目玉だけ動かして彼の口元を見ると、薄ベージュのクリーム。カスタードクリームかチーズクリームかはわからないが、パンがイングリッシュマフィンのような平たいタイプであることを確認し、おそらくチーズだ、と踏む。鞄に半分つっこまれたレジ袋のとなりに、マクドナルドの茶色い紙袋も見える。
  「あなた、最近のマクドナルド、買う勇気あったんですか」
 思わず声をかけそうになった。前日、次の予定までの時間潰しに軽食のとれる店に入ろうとして、駅前広場から見えるマクドナルドかすきやかドトールか迷って、最初にリストから脱落したのがマクドナルドだったのだ。でも、そんな個人的な事情をつゆにも知らない彼に、真夜中近くの人気の少ないホームでいきなり声をかけるのは失礼だと気づき、思い留まった。もしマクドナルド社の社員だったりしたら厄介なことになるし。
 チーズパンのあとに出てくるのはダブルチーズハンバーガーかフィレオフィッシュか、はたまたアップルパイか、すごく気になったけれど、電車が来てしまったのでやむなく席を立った。降車駅で一番エスカレーターに近い車両は、もっと後ろのほうなのだ。

 改札から地上に出る長い上りエスカレーターで手袋やイヤーマッフルの装備を着用していたら、下りエスカレーターのほうでアイスクリームバーをかじっている20代前半と思しき男性とすれちがった。あれはゼッタイに「明治アーモンドチョコレートアイスバー」にちがいない。下のほうからエスカレーターがだんだん近づいてくるおかげで、彼の口元を十分に観察する(さっきの近視眼鏡をそのままかけていたのだ)余裕が、今回はあった。
 つまるところ、やはりおなかが空いているのだ。ヒトが食べているモノが気になってしょうがないのは、そういうことだ。余談だが、人とおしゃべりしていて、気づくと食べ物の話になっていることがあるが、あれもおなかが空いてきた証拠である。

 一人暮らしの冷蔵庫には、外出している間に食材が増えている、というミラクルは起こらない。夕方と同じ鰻おこわとチーズと柿の種わさび風味があるだけである。ハーゲンダッツアイスクリームもあるけど、これは「デザート」であって「食事」ではない。こういうときに限って冷凍ご飯も卵のストックもない。仕方なく、冷蔵庫の中で一番「食事」に近い、「桃屋のザーサイ」の封を切った。
 辛いなあ、と思いつつも、つい壜の半分くらいまで食べてしまった。気持ち悪くなって、お風呂に入って、寝た。
by miltlumi | 2015-02-27 11:43 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)
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