苦手な質問 (その1) アメフトのマネージャー

 人から訊かれて苦手な質問のひとつが、「大学時代なんのサークルやってたの?」というやつだ。なぜなら何のサークルにも属していなかったから。卒業アルバムの「サークル活動コーナー」には、たまたま学食でだべっていた同じ学部の雑多なメンバーがアルバム委員にせっつかれて学生寮の屋上に集められて撮影した集合写真が、「悪い子サークル」という名称で掲載されている。
 別に、脇目も振らずに学業に勤しんだとか、無気力幽霊学生としてめったにキャンパスに顔を出さなかったというわけではない。大学入学当初以来、サークル選定に失敗しまくった結果なのだ。

 入学式直後の新歓オリエンテーション(って名前だっけ)、一人で浮き浮き歩いていたら、アメフト部に声をかけられた。もちろん選手としてではなく、女子マネージャーである。破滅的に運動音痴の私は、アメフトのルールはおろか1チーム何人で戦うかさえ知らないのに、そのアメリカンな響き(って、名前そのままやん)と屈強なガタイの上に乗っかった笑顔にほだされて、つい声を上げた。「わ、アメフト?!」
 運動はできなくても、演技は得意である。小学校の頃から国語の教科書にある登場人物の「 」書きを思い切り感情込めて読み、クラスメートの苦笑を買うのが常だった。大学キャンパス初デビュー、埃くさい教室という舞台に立つ私は、無意識に「ぶりっ子」演技をしていた。それにころりと騙された若人らは勝鬨の声を上げた。
  「お~っ」
  「やった~」
  「じゃあ明日からよろしく!」
 そのあからさまな「よいしょ」に、今度は私のほうがころりと騙された。じゃあいついつにどこどこのグラウンドに来て下さい、ということで、速攻でお膳立てが整った。まあ、運動部のマネージャーなんて、少女マンガの主人公みたいで悪くないじゃないか、くらいの軽いノリだった。

 約束の日、指定されたグラウンドに行くと、すらりと背が高くて髪の長い先輩マネージャーが待っていた。薬学部の4年生だという彼女は、自分が卒業したあとのことを考えると1年生に入ってもらえるのはとても嬉しいと歓迎してくれた。
  「○○女子大の2年と3年のマネージャーはいるんだけどね・・・」
 そのときはただ聞き流し、後日練習試合のときにやってきた女子大生を見たときも、アイメイクが濃くてクレオパトラみたいなあと思ったくらいだった。
 今ならわかる。薬学部の先輩は、将来のダンナ探しにひたすら熱心なクレオパトラさんではなく、きっとちゃんと試合日程の連絡をしたりユニホームの補充をしたりゲータレードの在庫を確認したりする本当の後任「マネージャー」が欲しかったのだ。かくいう彼女も、お約束通りキャプテンと付き合っているという噂だったが。

 その日からいきなり始まったマネージャー仕事。何が驚いたって、平日はもちろん、毎週末どっかしらの大学と練習試合があって、神奈川の僻地に住んでいた私が聞いたこともない駅まで出向かねばならないことだった。片道2時間かけて大学に通い始めた身にとって、休みの日まで駆り出されるのはたまらない。試合中、汗をまき散らして戻ってくる選手にひたすらゲータレードを渡しながら、とてもじゃないけどやってられない、と思った。馬鹿な私は、薬学部の先輩の後輩への真摯な期待はもちろん、「キャプテンの彼女」という輝かしい実績にもクレオパトラの深慮遠謀にも思いを巡らせなかった。
 大学1年のゴールデンウィークを都内大学巡りに費やした直後、退部届を出した。

 その後何年もたってから、自分の間違いの大きさに気づいた。あのとき頑張って続けていたら、きっと私はあの文武両道・将来を嘱望された若者たちの中からよりどりみどりで彼氏を選び出して、クレオパトラ並みのシアワセをつかんでいたにちがいない。
 人生に「たられば」はない。そして、私はいまだにアメフトが1チーム何人かを知らない。
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by miltlumi | 2015-01-31 17:43 | 私は私・徒然なるまま | Comments(0)
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