図書館が好きで、よく行く。特に目当ての本があるわけではないけれど、書棚から書棚をぶらぶらと眺めながら、なんとなく目についた本を片っ端から手に取って見ていると、時間が経つのを忘れる。
「なんとなく」と言っても、それは聞いたことのある作家の名前だったり、あるいは知らない名前でも背表紙の題名やそのフォント、ハードカバーの色や質感など、それこそ「なんとなく」訴えかけてくるものだったり。「これはもしや」と手にしてみて、気まぐれに開いたページの数行を読み、巻末の著者のプロファイルと発行年月日を確かめる。「なんとなく」自分の趣味に合いそうだと、「ほらね」と心の中でつぶやいて、得意顔になる。 昔は本屋でも同じようなことをやっていたが、指が切れるようなピカピカの本がずらりぴったり並んでいる様に、最近はちょっと気圧される。それよりも図書館で複数の手でページがめくられた跡のある多少くたびれた本のほうが、あるいはそういう先輩本に挟まれて、ぴかぴかの背表紙にかえって肩身の狭い思いをしながら「まだ新人ですみません」と縮こまっている新刊のほうが、なんとなく気軽に手を伸ばせる。 何よりも図書館の本は、読んでみて実はあまり面白くなくても、いくらかお金を無駄にしたという後悔なしに、さっさと返却できるところが素晴らしい。 図書館でひとつ問題なのは、間違えた場所にある本をつい並べ直したくなってしまうところだ。あいうえお順に並んだ日本作家のハードカバーの棚で、古井由吉の本が一冊だけ古川某の本の間に挟まっている。それは古井由吉に失礼だろうと見上げると、少し離れた場所にちゃんと何冊も彼の本が並んでいる。ブックエンドを少しだけ右にずらして隙間を作り、仲間外れになっていた本をしかるべき場所に戻してやる。 パリなど人気スポットの「地球の歩き方」は、10-11年版と11-12年版の2冊が置いてあったりするが、これも離れ離れになっていると気になって、隣同士・年代順につい並べ直してしまうのだ。 本屋でも本が間違った場所にあることはあるが、それを直すのは店員の役割である。図書館だと、区民のボランティア精神が喚起されるのか、単に整理好きが高じただけか。 先日なんとなく目についたのは、内田樹の「もういちど村上春樹にご用心」という本だ。書評本というのか、著作家が別の著作家の著書について書いた著書、というものはあまり読まないが、内田樹だったのでつい手に取った。ぱらりとめくったページに、村上が訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」は白水社史上最高の売上記録だったのでは、と書かれていて、思わず笑みがこぼれた。 借りようとして、でも、と思い直した。「もういちど」というからには、これの前に第一弾があるはずだ。棚をたどると、案の定「村上春樹にご用心」という本があった。15冊も離れたところに置かずに、正直に隣同士に並べておくべきだ。気づかずに「もういちど」から先に読んだりしたら、内田樹に失礼ではないか。 で、一応元祖のほうのページを開いたら、なんとライ麦畑と白水社の同じエピソードがそっくり書かれていた。もういちど「もういちど」のほうを手にとって「前書き」を読むと、旧版のいくつに新しいテクストを加えてこの本を作った、とある。なるほど。 結局、「もういちど」のほうだけを借りた。 *もういちど村上春樹にご用心* *キャッチャー・イン・ザ・ライ(村上春樹訳)*
by miltlumi
| 2014-08-03 10:02
| 機嫌よく一人暮らし
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