目が覚めたら病室だった。朦朧としながらも「ああ、終わったな」と思う。
10年前の手術のときは意識が混濁し、両親がそばにいるのにひたすら兄を呼び求めた(ブラザーコンプレックスと言われようと、いざというとき頼りにしているのは兄なのだ)。7年前に手術をした父は、手術室から出てきて家族の顔を見た途端、「いかんっ、寝過ごした!」とベッドから起き上がろうとした(手術直後に会社にでも行くつもりだったのだろうか)。 お酒が飲めないので、意識をなくしたとか記憶にないとかいう失態経験がない私としては、前回や父のような意味不明の挙動には出たくない。麻酔のせいでまだ意識がぶよぶよしているにも関わらず、しっかりしなきゃ、と思った。 そして一番気になったのは、腹腔鏡手術で済んだのか、開腹したのかということだった。開腹だと術後の快復が当然遅い。そもそもこんなに事を荒立てるつもりはなかったのだ。夜中にお腹が痛くなって7119に電話をしたときには、入院するとは夢にも思わなかった。入院です、と言われたときも、1日か2日点滴を打ってもらえばすむものとたかをくくっていた。イレウス管を入れても、友達の経験談を元に3・4日で解決すると思っていた。そうこうするうちに入院生活3週間。ついに手術と相成ったときも、腹腔鏡ならあと1週間だ、とひたすら軽く済むことを期待していた。 だから、開口一番そばにいる看護師さんに尋ねた。 「手術、何時間かかりました?」 「2時間です」 ああ。希望がしぼんでいく。手術前の説明のとき、腹腔鏡で順調に行けば1時間、と先生に言われていたのだ。2時間もかかったということは、順調ではなかったということだ。それでも一抹の期待を込めて尋ねる。 「おなか、切ったんですか?」 患者を刺激してはいけないと思ったのか、彼女は慎重に答える。 「あとで先生が説明してくださいますからね」 この時点で私は観念した。この夏はビキニが着られない。 ここまでまともな会話が出来れば上出来と思われたのか、看護師さんが外で待機していた家族を病室内に呼び寄せる。 「わかる?」 「大丈夫?」 「痛い?」 母と義姉と甥っ子がかわるがわる声をかける。そんな大袈裟に騒がなくてお大丈夫だよ、と思うが、あとから考えれば、そのときの私は酸素マスクをかぶせられ、ベッドの横には父が癌で亡くなる直前までつながれていたのと同じ心電図が刻々脈拍やら血圧を示しているのだから、大袈裟になるのも無理はない。 もう夜であった。「夜の付添はしたほうが…」と的外れな心配をする母を、看護師が「付き添っていただくほうが手続き面倒ですから」と諭している。回りで起こっていることを、ちゃんと認識できる。10年前と比べて、自分の意識はしっかりしていると思えることが、何より嬉しかった。
by miltlumi
| 2014-05-21 13:01
| イレウス奮闘記
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