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イレウス管の悲喜劇 (その5)

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 H先生の浮き浮きをよそに、前回まな板の鯉ならぬミミズ体験をした私としては、気は抜けない。いきなり戦闘開始。前回と同様の会話がH先生とリケジョ史の間で繰り広げられる。
  「そこ、もう少し右に!」
  「まさかUターンしてないよね」
  「大丈夫です、そのまま行ってください」
  「あー、もっと下の方に進んでほしいのにっ」
  「すみません、たたきますよっ」
 きゃしゃそうなわりに逞しいリケジョ史は、前回のオタク助手と同様かそれ以上の強さで腹をもむ、叩く。ここまで来ると、鼻の孔の痛みなど感じられない。でかいままの「ミクロの決死隊」みたいな彼ら二人が無事ミッションを全うするのを、涙を流しながら、ひたすら祈るばかりである。リケジョ史が叫ぶ。
  「ちょっと痛いけど我慢してくださいね」
 下の方からどんどんどんどんと叩く。しかし意外にも腰のツボだったらしく、イタ気持ちいい。
  「大丈夫です、そこは気持ちいいです
 整体に来てるわけではないが、つい本音を漏らす。
  「あと少しなんだがなあ」
  「ちょっとH先生、私が代わります」
  「じゃ僕がこっち守るから。おっ、うまいな。行け!頑張れ!」
 2人の会話を聞きながら、何やらこの状況が可笑しくなってくる。ミクロの決死隊というより、迷路を張り巡らせたフィールドでゴール目指してやみくもにパスをしているサッカーチームのようだ。そこのクランクは右だ! そのまま真っ直ぐ進め! あと少し!
  「行った!」
  「やったー」
 ついにゴールイン。目標としていた箇所に到達したらしい。二人がガッツポーズをせんばかりの達成感に包まれる。腹の中の喧噪が突然なくなった私も、「ゴーーール!」と叫んで彼らとハイタッチしたい気分である。ゴールの瞬間は目にしていないけれど。何たって肝心のゴールは私の身体の中だったのだから。

 迎えに来た看護師さんが、「長くかかりましたね」と同情を寄せてくれた。時間など気にしている余裕はなかったけれど。
  「どのくらいかかったんですか?」
  「入ったのが10時ですから、1時間半ですね」
 ハーフタイムなしの90分、一本勝負であった。
 
 午後、いつもの威厳ある白衣に着替えたH先生とリケジョ史が病室に来た。「相当つらい思いさせちゃったから、心配で見に来ました」という彼女は、H先生の紹介によると立派なお医者さんであった。
  「お二人があんまり楽しそうにやっておられたので、途中から笑いたくなりました。小説が書けそうです」
 そういうと、二人はほっとしたように笑い、それからH先生が付け加えた。
  「匿名でお願いしますね」
                                    ・・・(その6、最終回)に続く

by miltlumi | 2014-05-07 11:38 | イレウス奮闘記 | Comments(0)
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