イレウス管の悲喜劇 (その3)

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 そうやって私が耐えている間、「痛いですよね、気持ち悪いけど頑張って」と気遣いながらも管の力を抜かないH先生と、患者の存在など目に入っていないかのような「そこ、左に行ってもらわないと」「う~、どうして進まないんだ」といった容赦ない助手技師の声は続く。

 知らぬ間に目元に貯まっている涙を時折看護師さんに拭いてもらいながら、友人が言っていた言葉をふと思い出す。
 「人間は、1本の管(くだ)なんだよね
 その人は、毎日のご飯が美味しく食べられて健やかに体外に排出されることに殊の外幸せを感じていて、それを実行できる身体の維持を心がけている。そう聞いた時、口から肛門まですとーんと真っ直ぐ管が通っているシンプルなシルエットを想像してしまった。
 それをこの冷たいレントゲン室で、しかしタオルケットの下の身体を汗ばませながら、ふと思い出したのだ。

 そうだ。管なのだ。その後半部のどこかが詰まってしまったから、こんなに苦労しているのだ。それを治すために、ヒトの管の中に人工の管を入れようとして、またぞろ苦労している。それもこれも私の腸が曲がりくねっているから悪いんだ。私のカラダが、あのとき想像したようにすとーんと真っ直ぐだったらこんな苦労はしなくて済んだのだ。そうだ、ミミズみたいに真っ直ぐだったらイレウス管もさっさと入れられるのに(ミミズはそもそも腸閉塞にならない、という事実はさておき)。
 ああ、ミミズだったらよかった

 人間としての尊厳をかなぐり捨て、その瞬間私は心の底からミミズになりたかった。しかし、そう考えることでH先生と助手の奮闘もどこか遠いものに感じることができたのも事実である。
 かくして2mものイレウス管がどうやら小腸の半分くらいのところまで挿入されたらしい。私以上に汗びっしょりのH先生が、額の汗を拭き拭きにっこりと微笑んだ。
 「いやあ、お疲れ様でした。これで様子を見ましょうね」

 先生と助手が去った後は、看護師さんが鼻の管をさらに延長させて排出物をためるドレインパックを装備する。今日からはそれを点滴棒に掛けて移動するのだ。ほどなく服部さんではない別の看護師さんが迎えに来てくれた。ドレインパックを点滴棒にかけて立ち上がった看護師さんの白衣に茶色い汁が飛び散っている。
 「そこ、汚れてますよ」
 なんとドレインパックの口を閉めておらず、早速小腸から管を通って出てきた腸液が思いっきり彼女の白衣にぶちかかってしまったのだ。汚い(自分のだけど)。きゃあ、と言いながらとにかく応急処置をして病室に戻る。
                                    ・・・(その4)に続く
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by miltlumi | 2014-05-05 10:23 | イレウス奮闘記 | Comments(0)
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