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スタバにて

 オフィスビルの1階にあるスターバックス。様々な向きに置かれたソファやチェア。2階まで吹き抜けの高い天井に、BGMと人々の話し声が響く。PCを使いたくて、真ん中にどんとしつらえられた電源コンセントのある大きな長机に陣取った。
 向かい側に、どさどさっと荷物を置いて3人連れが一列に並んで座る。スーツにネクタイの男性二人、40代前後。うち一人の部下と思しき、茶髪の女性。女の子、と呼ぶほうがふさわしいような20代、グレイのニットが可愛らしい。
 彼女だけ、すぐカウンターに行き、トレイに3人分の飲物を乗せて戻ってくる。男性二人は鞄からA4の書類と黒い手帳を取り出し、早速何やら商談を始める。真ん中に座ってひたすら左側のクライアント(?)に向かって話しかける上司の右側で、彼女はノートとペンを取り出して、顔と身体を左側に向ける。ざわついた店内で、こちら側を向いていない人の声を拾うのは難しい。

 彼女の姿勢がだんだん左側から正面に向き直る。上司はますます身体ごと左向き。彼らに正対している向かい側の私にも、会話の声は聞こえない。机の上に出ていたはずの彼女のノートとペンが、いつの間にかなくなっている。
 彼女はアイススターバックスラテのストローをくるくるといじっている。上司とクライアントの目の前にあるアイスコーヒーは、一向に減る気配がない。
 ついに彼女はスマホを取り出す。隣に遠慮するように画面に指を滑らせているが、上司はそれを気に掛けるどころか、さっきから一度も彼女のほうを向こうともしない。

 「じゃあこれで」「あとはよろしく」みたいな〆の言葉が交わされ、彼女は急いでスマホを鞄にしまう。
 男性二人が立ち上がると、彼女も立ち上がる。「どうもありがとうございました」と声を出したのは上司だけで、彼女は最後に一度だけ、黙って頭を下げる。
 クライアントが去って行った後、上司はトレイを3㎝くらい彼女のほうに押す。彼女は3人分のカップをまとめてトレイを持ち上げると、上司に向かってはっきりとした声を出す。
 「あとで教えてください。何話してたか」
 書類を鞄にしまおうとしていた上司は、その動作を一瞬止める。
 「えー?」 
 「100%聞こえなかったから」
 彼女は、下膳台に向かいながら、私にもしっかり聞こえるくらい、今度もはっきりとした声を出す。上司は今度も同じセリフをはく。
 「えー」
 ちょうど私の背後にある下膳台で彼女がカップを処理する間、鞄を持ち上げて彼女に近づきながら、上司はようやく「えー」以外の言葉を吐く。
 「内緒の話。教えてやらない」

 そのまま二人で出入り口に向かってしまったので、彼女の表情は見ていない。
 くたびれた黒い鞄を肩にかけた上司の後ろ姿を見ながら、心の中でつい「死ね」とつぶやいてしまった。それから少し冷静になって、もうちょっとコメントらしいコメントに修正した。
 「だったら何のために彼女を連れてきたのよ。コーヒーをカウンターからとってくるだけなら、自分でやりなさいよ」
 雇用機会均等法施行から27年。こうした光景がいまだに展開されているのは、世の中の会社のうち何%くらいなんだろう。
by miltlumi | 2013-11-01 22:41 | マンモス系の生態 | Comments(3)
Commented by 向井 at 2013-11-02 23:03 x
ご無沙汰してます。
日本にはまだまだ多そうですよね。
階級社会の国だと男女の別なく、上げ膳据え膳係りが居ますよね。
ダイバーシティって奥が深いですね。

Commented by miltlumi at 2013-11-03 09:36
向井さん、コメントありがとうございます! たしかに、国によっては男性がお茶をだす会社もありますよね。そういう仕事をする人として雇われている。
Commented by miltlumi at 2013-11-03 09:37
Job Descriptionがはっきりしない日本の企業文化って、いい面もありますが、悪い面も…?
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