子供の頃住んでいた社宅でご近所づきあいをしていた父の上司の奥さんが、この5月に85歳で亡くなった。
9月に入って、91歳のだんな様、つまり父の上司だった方も後を追うように亡くなってしまった。 4か月前と同じように母と兄と3人揃って、お通夜に行った。 兄のクルマで、社宅のあった懐かしい町を抜ける。 両親が住宅ローンで建てた一軒家に引っ越すため、私が一学期間しか通わなかった中学校。 85歳と91歳の夫婦が生涯を共にした、そして最後は長女夫婦と二世帯住宅にした高台の家。 それから、兄が生まれ、私が生まれ、そして父が亡くなった、市民病院。 この道、こんなに狭かったっけ。 折しも、八幡様のお祭りの真っ最中だった。 「水あめ、買いたい!」 「ちょっと降りるか?」 喪服姿で年に一度のハレの場に踏み込むつもりはない。 そのまま兄は路地を折れて、境内のまわりをぐるりと一周する。 あの頃と同じように、境内の真ん中にしつらえられた土俵で子供相撲をやっている。 けれど、それを取り囲んでいる屋台の数は、記憶の中の賑わいに比べて半分以下だ。 昔は水あめや綿菓子やヨーヨーやビーズの店が、本殿の脇にまでぎっしり並んでいたのに。 残暑の名残と初秋の気配が同居する駐車場から、斎場に向かう。 若い頃の彼らのアルバムが置いてあった。三枚くらいめくったページに、おじさんの字で「○○君(父の名前)撮影」と書いてあった。あの頃から父は職場のカメラマン役だったらしい。 二人娘だった妹さんのほうがやってきて、おじさんの最期の様子を話してくれる。 「結婚式の写真も部屋の奥からようやく見つけてね」 「え、見たことなかったの?」 兄が生まれる前の新婚時代、この姉妹を娘のように可愛がっていた母が驚く。 「あんたには見せたわよね、お母さんたちの結婚式の写真」 母は実の娘を振り返って確かめる。 「うん、おきつねさんみたいなやつでしょ」 娘は、わざと憎まれ口をきく。 幼い頃から何度となく見て来た、角隠し姿の母は、ウエストが今の3分の2しかないくらいほっそりしていた上に、解像度の悪い白黒写真なこともあって、なんだか狐みたいなのだ。 帰る道すがら、この夏に整理した自分のアルバムのことを思う。 旅先の同じような風景写真が何枚も貼ってある、やたらかさばる分厚いアルバムから、めぼしいものだけを剥がしてコンパクトなアルバムに移しかえたのだ。 でも、添い遂げることのなかった結婚式の写真は、分厚いアルバムに丸々一冊分、そのまま残した。 来月、勤続三十周年のお祝金が会社から出るというので夫婦で南米旅行を企画している兄の背中に向かって、声をかける。 「飛行機落ちて、死なないでね」 「ばか。縁起でもないこと言うな」 「だってお兄ちゃんに先に死なれたら、色々面倒だもん」 三歳年上の兄が、女性よりも平均寿命の短い男性であることを忘れていた。 我ながら妙なことを口走ってしまった。 自分のお葬式で参列者に閲覧してもらう写真は、あらかじめ自分で選んでおかなきゃ。 我ながら妙なことを思ってしまった。
by miltlumi
| 2013-09-14 22:03
| 機嫌よく一人暮らし
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