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女が階段を上る時 (上)

 高峰秀子の映画を観た。さすがに彼女は美しかった。本当に綺麗だった。しかしそれよりももっと印象深かったのは、次々登場する男たちである。ダメ男の典型的パターン、みたいなのがぞろぞろと出てくる。

 まず、ケッコン詐欺の関根(加東大介)、あまりモテない、いかにも人のよさそうなデブが真摯にママに惚れ込んで、ついに結婚を申し込む。
 「プレス工場のおかみさんになるなんて、思ってもみなかったわ」と、全身の緊張を解いてゆったりと微笑み、ようやく訪れた(と思い込んでいた)幸せに身を委ね、お天気のいい日にベランダに布団を干す圭子。ああ、いい表情だなあ、と見惚れていると、自分にプロポーズした男性の「奥さん」から電話がかかる。

 すごい、と思ったのはそれからである。生活臭をふんぷんと漂わせる奥さんの言葉。本人(ってつまり、自分のダンナのことである)騙すつもりはないんだけど、やってるうちにそのつもりになっちゃって、というのである。これ、男性の典型。悪気はない。単に、美しい女性を見ると惚れる。惚れると自分のものにしたくなる。自分のものにするには「結婚しよう」というのが一番の殺し文句。瞬間、自分が既に結婚しているのも忘れて(たぶん、ある瞬間、本当に忘れるのだろう)、プロポーズしてしまう。もう、その場限りの感情に押し流されて、本能の赴くままである。だから、でっかい果物籠抱えて病気の圭子を見舞う優しさも、バーのママより家庭の主婦のほうが似合うというその言葉も、本心なのだ。だからこそ、余計に始末が悪い。
 こういう男の馬鹿さ加減を、奥さんはすべて承知して飲み込んでいる。オトコの持病、くらいに諦めている。死に至る病じゃないからほとぼりが冷めるのを待つしかないが、お隣のクルマを借りたまま1週間も行方をくらましているから、「お隣にご迷惑」だという理由だけで、仕方なく電話帳を繰ったまでである。
 すごいなあ。成瀬監督、よくここまで見事に、男の弱さ(とそれを理解している妻)を描写するなあ。

 お次は大阪の実業家、郷田(中村雁治郎)。返ってこないと思っていた貸金が返ってくる。もとより金持ちの彼にとっては、あってもなくてもどうでもいい金である。ならばいっそ以前からモノにしたいと思っている圭子をなびかせる手段に使おう。カネでオンナを釣ろうというのは、典型的なオトコのやり口である。
 しかし、これまた「すごい」と思ったのは、なびかなかった圭子の代わりに、甘え上手な純子にその金を使ってしまうところ。あちゃー。純子が金目当てで媚を売っているのをわかっていて、やっぱり「愛いヤツ」と思ってしまうオトコの浅はかさ。オマエ、圭子への思慕はどこへ行ったんだ!?とどやしたくなるが、ポリシーもなんもなく、反射的・刹那的に行動してしまうのが男というのものなのだ。仕事だと緻密な権謀術数を巡らすくせにね。
 肝心の圭子自身は、純子から事の顛末を聞いて、おほほと笑って「頑張ってね」と励ます。男の利用の仕方をわきまえているのである。はああ。
                                   ・・・(下)に続く。。。
by miltlumi | 2013-09-10 16:34 | マンモス系の生態 | Comments(0)
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