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アポロと満月、そして鯵の干物

 イプシロンの打ち上げが延期された。発射19秒前にコンピューターが「異常を検知」して自動停止したが、実際に確認したら異常はみつからなかったという。このたびのロケットは、たしか打ち上げ費用削減のため、これまで人海戦術で対応していた機能の多くをコンピューター制御で自動化したことが画期的、という触れ込みだったと記憶している。ふむ。

 その詳細は今後の検証を待つとして、咄嗟に思い出したのは、アポロ11号月面着陸のドラマだ。アポロがあと何百フィートで月面に届かんとするときの、手に汗握るシーン。
 いきなり地上の司令室でアラームが鳴り響く。何の警報か、たくさんの係員が一斉に分厚いマニュアルをめくる。勉強小僧(平成教育委員会、覚えてるかな)みたいな顔をした生っ白い眼鏡の担当官が、額に汗しながら叫ぶ。
 「これが断続的なら問題ないです。続行します」
 そして再びアラーム音。勉強小僧の緊迫した表情が画面に大写しになる。
 「続行ですっ」
 これが実際にあったことかどうかは知らないが、ドラマではアームストロング船長はその指示に淡々と従い、ついに人類の偉業を成し遂げる。あのとき、機械ではなく人が最終判断を下し、それは間違っていなかった。ちなみに、当時宇宙センターに配備されていたコンピューターの性能は現在のスマホにも満たない程度だった、ということは事実だ。

 今に始まったことではないが、科学技術、というものを改めて不思議に思う。技術が発達するにつれて、色んなことがどんどん自動化されていく。これまでヒトが手でしこしこやっていたことを、コンピューターがとっととやってくれる。おかげでヒトはより高度な、よりクリエイティブなコトに時間を割くことができるようになり、さらに技術は発達する。…はずだけど、ほんと? 
 日本は人口が減っているというのに、若年層の失業率が社会問題化し、65歳以上への定年年齢引き上げで中高年は何の仕事をしたらいいか右往左往している。ヒトでなくてもコンピューターが出来ることはコンピューターにやらせる代わりに、コンピューターでなくても人が出来ることは人がやればいい、と思うのは時代錯誤、なのだろう。
 反論されるのはわかっている。イプシロンの省人化は、国内失業対策にケンカを売りたいがためではなく、国際競争力を高めて他国に勝つためだ。でないとニッポン国の産業が負けてしまう。
 でも、あえて暴言を吐かせていただくと、負けたら、いけないの?

 満月が明るい夜、パイロットの友だちが、「この月明かりに助けられて仕事しています」と言っていた。いいなあ、としみじみ思った。いくら自動操縦装置が発達しても、最後は人の目。自然の光。
 機械音痴で逆立ちしてもパイロットになれない私は、月を眺めながら鯵の干物を焼いている。「干物」ボタンを押せば理想的に焼き上げてくれるはずの最新式グリルをしばし複雑な面持ちで見つめ、やっぱり扉を開けて焼き具合を確かめている。
by miltlumi | 2013-08-29 08:42 | マンモス系の生態 | Comments(0)
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