私は、BOOKOFFが苦手である。古本や古CDをリサイクルするというモッタイナイ精神は私の信条に合致するものの、それ以前の問題として、あの店構えはおのれが古本屋だという自覚に欠けている気がするのだ。
まず、入り口に小綺麗に化粧した若い女性が立っていて、英検テストやリンガフォンのチラシなんぞを配っている。それじゃあふつーの本屋とおんなじじゃないか。 古本屋といったら、店の一番奥のレジの向こうに老眼鏡を鼻眼鏡にしたおやじがいて、その妻、もしくは第二新卒でいやいや家業を継ぐことになったどら息子が、人一人がやっと通れる狭い通路の両側に山と積まれた古本にはたきをかけている、というのが古き良き時代からの定番である。 より現代的な古本屋でも、アルバイトの店員は色白で黒縁眼鏡の無口そうな青年でなければならず、彼らはいきなり入り口で客に声をかけるなんて節操のない営業マンみたいな真似は絶対にやらない。レジのカウンターにこれみよがしにトンと音を立てて古本が置かれ、「あのお」という声がするまで、ひたすらレジ奥のパイプ椅子に腰掛けて仕入れた古本の側面にしゅりしゅりと紙ヤスリをかけている。そういうのが古本屋の正しいあり方なのである。渋谷センター街のドコモショップじゃあるまいし、いきなりねえちゃんがにこやかに声かけてきてどうする。 次に、店内に流れている音楽の音がBGMというには大きすぎる。HMVやジャズ喫茶じゃあるまいし、本屋にくる人は本が欲しくて店に滞在しているのであり、音楽を聴くためではない。1月と7月の「半期に一度の大バーゲン」期間中のデパートは、女性たちの「お買い得品GET」への戦闘本能を駆り立てるためにロッキーのテーマみたいなアップビートな音楽を流すのが常套手段となっている。しかし、本屋で売るのはTシャツではない。卑しくも本という文化的産物なのだから、安いからと言って色違いをまとめて3枚買っときましょ、などという代物ではないことをBOOKOFFは認識すべきだ。 しかも、定期的に「今日は、ちょっとブックオフの思いを聞いてもらいたくて…」という、客が聞きたくもない押しつけがましい宣伝がたれ流されるのである。売ろうと買おうと、んなことオマエに指示される筋合いはねえっ、とつい怒鳴りたくなる。資本主義の掟にがんじがらめにされた東証一部上場企業として、積極的に売上増のための施策を推進せざるを得ないことは、ビジネスマンの端くれの私もわからないではない(利益なんてお下劣なものを追及したくない本屋や出版社は、だから上場しないのだ、たぶん)。しかしオフの日(そうだ、ブックオフに行くのは普通オフの日なのだ)の客は、古本の独特の香りと佇まいを一人静かに味わいながら、知らない本との出会いを求めてさ迷うことを楽しみにしているのだ。仕入・売上のみならず、コーポレートアイデンティティー、みたいな言葉まで思い浮かべてしまうあのアナウンスは、興ざめ以外の何物でもない。 ごくたまに、あの忌まわしい宣伝文句も音楽も途切れる静寂の瞬間がやってくる。しかし油断はならない。いつまたあの声が聞こえてくるか、戦々恐々と構えてしまう。臨戦態勢を崩せないから、本を探す意欲などすっかり失せてしまうのだ。
by miltlumi
| 2013-05-20 21:55
| 機嫌よく一人暮らし
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