人気ブログランキング | 話題のタグを見る

落ち込みの処方箋

 落ち込むことがあった。誰のせいにもできない、120%自分の実力不足に起因する出来事だったので、余計に落ち込んだ。というより、他人に責任転嫁できるようなことにはいちいち落ち込んだりしないタイプだから、私が本気で落ち込む時は、必ずや自分の至らなさを痛感するときなのである。
 猿でもできる反省を、ひとりくよくよとしていても時間の無駄なのはわかっている。だからといって、過ぎた出来事をあっけらかんと忘れてすっくと立ち直るほど強靭な神経は持ち合わせていない。会社員を辞めて、嫌なことを我慢する必要がなくなったせいで、近頃この手の神経がすっかり細くなっている。

 どうしようかなあ。一人でしゅんとしていたってどうにもならないからなあ。かといって、心にひっかかったことがあるまま、全然別のことに取り組もうとしてもきっと集中できないだろうし。落ち込んだときって、昔はどうやって気を紛らわせていたんだっけなあ。やけ食いしようにも、夕飯の時間には早すぎる(やけ食いなんだからとっとと食べればいいものを、昨今の健康志向のおかげでこのあたりは冷静である)。
 なかば無意識に始めたのは、CDをプラスチックケースから抜き出して100円ショップで買ったCDバインダーケースに収納する、という極めつきの単純作業である。究極のスペースセイビングを目指し、CDのケースを捨ててコンパクトにまとめ直そうと用意していたのだ(そもそも持っているCD自体ものすごく少ないのに、まあ少ないからこそまとめ直すことが可能なわけで)。

 作業開始後まもなく、無性に歌が歌いたくなる。高校の頃、お小遣いで買ってダビングしてカセットテープが擦り切れるほど聴いたアルバム。買い直したCDをPCドライブに入れてスピーカーの音量を上げる。うん十年以上前の歌の歌詞を、いまだにほとんど暗記していて、ひとつの曲が終わると、CDよりも0.5秒早く次の曲のイントロを口ずさみ始める、ウルトライントロクイズ顔負けの実力。あまりに条件反射的なので、歌いながら例の落ち込みもしつこく反芻することが可能である。
 一方で手の方は、入れ替えついでにアーティスト名をアルファベット順に並べ直す。さだまさしを歌いながらABCの歌を頭の中で思い浮かべて、HはJの前だよね、などという小学生のような自問自答を繰り返す。しかし二つの歌を一人で再生するのは結構難しくて、松任谷由実と中島みゆきの間にはMichael Jackson…とやっているうちに、だんだんわけがわからなくなってくる。こんな単純作業さえできないボケだから、ああいう体たらくを晒すのよ。単純作業と歌による落ち込みからの立ち直りをひそかに期待しているのに、これじゃあ藪蛇。手元と口と脳みそは、今や完璧なマルチタスク状態だ。

 何度かアルファベット順を間違えながら、ブックオフに持って行くCDもより分けて、残ったCDは五分の一のスペースに収まった。ちょうどいい具合に夕飯の時間である。
 胸に手を当てて心身に尋ねてみると、喉は大声だしたおかげで心地よく疲労しているが、当初の落ち込みはいまだ元気にしっかと居座り続けている。でもまあ、自分が悪いんだし。今日すでに何十回も繰り返した台詞をまたつぶやく。
by miltlumi | 2013-04-17 21:50 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)
<< 池営業とは 正しいラザニアのつくり方 (下) >>