スペシャリストかジェネラリストか、ということが盛んに議論されていた時期がある。私が当時勤めていたメーカーでは「専門」といえば「技術」のことで、文系の私にはエントリー資格のない領域だったし、マーケティングとかIRとか、文系でもできる特定の業務領域で研鑽を積んだわけでもなかったし、そもそも本質的には「この道ひとすじ」といって仕事に邁進するタイプではなかった。
かように、スペシャリストの道は自ずと閉ざされていた(と勝手に思い込んだ)。しからば、というわけで「スペシャリストを使えるジェネラリストになろう」「ジェネラリストというスペシャリストになろう」などと言葉遊びをうそぶいて、身の振り方を深く考えることもなく、そのままスル―してしまった。 結局ジェネラリストにもスペシャリストにもならないまま、20年近く所属した会社で身についたスキルがあるとすれば、会議の議事録や資料のサマリーなどを手際よく簡潔にまとめる作文能力(このスキルは既に大学時代から培われてきた筋金入り)と、どんなに偉い肩書きの人の前でもびびらない図々しさ(偉い人のカバン持ちをやったおかげで、そういうおっさんには飽きるほど会った。人間的に思わず惹かれてしまうチャーミングな人は、数えるほどだった)。いずれも履歴書の特技欄に書けるような代物ではない。 それでも、というか、だから、転職したのは、前職とは全く異業種の会社だった。スキル的にはほとんどゼロスタートで、4年かけて業界知識はどうにか身についたものの、スペシャリストと言うには程遠く、またもやモノになる前に投げ出してしまった。 この歳になると、まわりの友人はみな専門分野で立派な実績を持つスペシャリストや、部下をたくさんマネージするジェネラリストに成長している。一回りも若いベンチャー女性社長は、「三度のメシより仕事が好き」と豪語する。みな、自分が誰であり、どこに居てどこへ進もうとしているのか、はっきりと自覚している。 私はと言えば、今の「仕事」(この場合、その行為が直接的に金銭収受につながるものを言う)もまだまだ発展途上、というよりどのように発展させていくか明確に思い描いているわけでもなく、今更キャリアプランという年でもなくなってきてしまった。 お金を稼ぐことだけが仕事じゃない、むしろ読んだ本(もちろん、経営やハウツー本ではなく、純粋人文系)のノートを作ったり文章を書き散らしたり美しい景色を写真に撮ったり緑が見えるカフェでぼんやりするのを「仕事」と呼んでしまおう、などと、性懲りもなくうそぶいている。 誰かのエッセイで、アンドレ・ジッドの言葉を見かけた。 「30歳を過ぎても、自分が何者なのかを答えられない者が小説家になるのだ」 30歳を大幅に超えてしまった私は、小説家にさえなれそうにない。
by miltlumi
| 2012-11-07 12:56
| マンモス系の生態
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