私が通うスポーツジムは、整体・マッサージの施術も行っている。受付カウンターで申し込むと、各スタッフ(親切にも顔写真入り)の得意分野(スポーツマッサージとか指圧とか)や「強め」「弱め」といった特長が書かれたリストを示され、好みのスタッフを指名できる仕組みになっている。
先日、私の隣でそのリストを見ている初老の男性がいた。「2時からですと、ホンマとカワカミになります。フジナミは1時半から別予約が入っているので2時半からです」という受付のお兄さんの言葉に、本当はフジナミさんに施術してもらいたかったらしい彼は、こうのたもうた。 「仕方ないな。まあホンマも働かせないといけないからな。ホンマでいいよ」 驚いた。と同時に、「…サプライサイド経済学」とつぶやいてしまった。本来の意味ではないが。 私だったら、「ホントは強めの指圧が得意なフジナミさんがいいけど、ちょっと筋肉痛もあるし、たまにはスポーツマッサージもいいかな。だからホンマさんで結構です」と言ったであろう。あくまでマッサージを受けてだらだらほぐれたい、サービスの需要者、つまりデマンドサイドにいる。 おじさんは、しかし、完全にサプライサイド、つまり供給側の発想なのだ。フジナミさんが空くのを待っていたら2時半になる。一方ホンマさんは2時からずっと遊んでしまうことになる。スタッフの稼働率を考えたら、フジナミさんが1時半から3時半までぶっ続けで働くより、2時から並行してホンマさんを働かせたほうが効率がいい。 そこまで綿密かつ具体的に思考をめぐらしたわけでもなかろうが、そもそも「ホンマを働かせる」というボキャブラリー自体が、既にサプライサイドである。アナタはこのジムの執行役員か? こっそり顔を見たら、案の定「4年前までは生産管理部で工場ラインの効率的稼働に采配を振るってました」みたいな紳士であった。もうお金稼ぐよりも使う立場になったんだから、どんなサービス受けたいか、そっちのほうを考えようよ、って言っても、無理だろうなあ。 そういえば昔、接待仕事でディズニーランドに行ったとき、思わず素で楽しみそうになる私の傍らで、上司が「さすがだなあ。この広い敷地内を整然と保つシステム。従業員の教育も徹底している」とうなっていた。デマンドサイドでアトラクションに感動するより、サプライサイドの経営方法に感心しているのである。骨の髄から仕事好きだね、と思った。 しかし世の中は変わった。モノがあふれている今日の日本において、サプライサイドの効率重視という従来型第二次産業の発想ではもう限界が見えている。 これからはデマンドサイドに立って、新たな需要創造をした者が勝ちだ、と金融マンが言っていた。 情報社会学者の公文俊平氏は、産業社会の次に来ている情報社会では、製造とか効率とかではなく、「楽しさ」を追及することがキーになる、と言っている。
by miltlumi
| 2012-06-25 20:16
| マンモス系の生態
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