塩野七生さんの本は、ビジネスマンから絶大なる支持を集めている。言わずと知れた「ローマ人の物語」。偉大なるローマ帝国を建設した歴代皇帝の戦略と戦術、リーダーシップ、権謀術数、常に歴史からビジネスへのアドバイスを読み取るマンモス狩り男性達にとっては、必読の書であるらしい。個人的には、読んだことないから知らないけど。
私が塩野七生さんをすごいと思ったのは、だから、「ローマ人の物語」を読んだからではない。「緋色のベネツィア」。ルネサンス時代後期を背景にした小説で、「銀色のフィレンツェ」「黄金のローマ」と合わせ、3部作を成す。その中のたった1場面。 貴族の奥方が道ならぬ恋に落ち、夫も財産も捨てて身を隠す。愛しい恋人の到着を待つ間、彼の幼馴染である男性の訪問を受けた彼女は、不在の恋人のことをしみじみと語る。由なしごとに耳を傾けながら、幼馴染の男性は、ああ、女性は恋人のことを他人(しかも恋人をよく知っている他人)に語らずにはいられないのだな、と思う。 男たちよ(っていう題名のエッセイも、塩野七生さんは書いている)、わかりますか? 恋人の話を、誰か彼を知っている第三者と語り合うことで、彼への想いが改めて強くなる。そして誰かから、自分の知らない彼について聞くことで、彼への理解をさらに高めようとする。こういう行動心理は女性特有であり、オトコとオンナの決定的かつ最大の違いの一つではないかと思う。 男性とて彼女の話を男友達にすることもあろうが、その頻度は女性の比ではないと思う。話したとしても、それは多分に狩った獲物(失礼)自慢であって、「彼女を知っている誰か」という条件は必要ない。 大体、女性は恋人の男友達や女友達とすぐ友達になれるけど、その逆ってあまり聞かない。そもそも彼氏に自分の女友達を紹介なんてしたら、彼は自分の知らない恋人の一面を学ぶどころか、女友達その人のほうを知りたくなって、ヨコシマなことになりかねない。 だから、「緋色~」の1場面は、男性作家には逆立ちどころか月面宙返り2回ひねりをしたって書けないシーンだろう。それまで誰にも話せなかった苦しくて甘い想い。そこに登場した、彼が幼かった頃をよく知る、信頼できる男性。ようやく心の閂を外せる、その嬉しさ。話すにつれて募っていく恋人への愛しさ。ん~、恋っていいわぁ。 塩野七生さんは、どんなに素晴らしいビジネスマン向けの教科書を執筆なさろうと、徹底的に、頭の先からつま先まで、女性であると思う。 余談であるが、彼女には溺愛している一人息子がいる。偉大なる小説家の才能がなぜか遺伝することなしに、映画のシナリオライターを目指しているらしい。箸にも棒にもかからない(?)彼の習作を、母は知り合いのコネを使い倒してハリウッドに売り込み、映画会社のエグゼクティブを散々困らせた。 母である。やはり、塩野七生さんは、女性である。
by miltlumi
| 2012-02-28 14:51
| マンモス系の生態
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