地図が読める女

 私の自慢は、女性には珍しく(?)地図が読めることである。どこを歩いているときも、頭の中に映し出された地図(北が上)に自分の位置がプロットされている。
 初めての場所に行く、あるいは1日3か所をハシゴする予定の朝は、歯磨きをしながら寝室の壁に貼ってある東京メトロの地図を眺めて、何線のどの駅で乗り換えて、どの道をどう歩いていくか、電車の前のほうに乗るのがいいのか後ろが便利か、色々と確かめる。
 地下鉄の駅構内に貼ってある100㎝×75㎝のあの地図は、誠に便利である。地図の下にカレンダーがついていて、毎年今頃になると、定期券売り場とかで1枚350円で売っている。お目当ては地図のほうだから、カレンダーの部分はその年が終わるとちょきちょき切り取って、地図だけをしばらく活用する。
 だから今うちに貼ってある地図では、東京ミッドタウンや副都心線が「建設中」になっている。2012年版はさすがに新規購入せねばなるまい。

 地図が読めるのは、しかし東京メトロのおかげではない。小学3年生のとき、木造平屋建て4Kの社宅から3階建てのアパート3LDKに引っ越したとき、ダイニングキッチンの壁に大きな世界地図が貼られた。教育的効果を期待した母の作戦にまんまと乗ってしまった私は、毎朝毎晩食事をしながらその地図を眺めていた。
 日本はお決まりの赤で、確かアメリカは明るい黄緑色、ソ連は暗いヨモギ色だった。一番憧れたのは、英連邦王国の同朋のためか、同じピンク色に塗られたカナダとオーストラリア。後年、恋人がオーストラリアに、私がカナダに赴任したとき、やっぱりあのピンクは運命の色だったんだ、と感慨深い思いを抱いた(が、運命は永遠ではなかった)。
 のみならず、南米にはパラグアイとウルグアイという似た名前の国があるとか、グリーンランドはデンマーク領だとか、代表的産油国の一つにベネズエラが含まれるとか、あの地図から仕入れた知識は今でも役立っている。かどうかわからないが、ある種の世界観を私に植え付けてくれたことは確かだ。

 2年後にはそれが日本地図に貼り替えられたが、平野部の緑と山間部の黄土色から茶色という地味で単調な配色に、私の好奇心は一気に萎えてしまった。それでも各県や主要都市の位置が自然と頭に入っただけでなく、地図は北が上、という基本を身につけられたのは、あれら大きな1枚紙がもたらした賜物である。
 
 近頃の海外旅行は、「地球の歩き方」の代わりにネットから印刷したA4の紙を何枚か持って行く人が増えているそうだ。カーナビは「北が上」と「進行方向が上」モードを選択できるし、徒歩用のナビはケータイの人気アプリらしい。
 私はやっぱり、散策や旅行に出掛けるときは、縮尺がちゃんと記されている地図がいい。地図が読める女は、「男脳」というより単に「古い」やつなのかもしれない。


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by miltlumi | 2011-11-01 20:06 | マンモスの干し肉 | Comments(0)
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