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21世紀の経営者―富士山より高尾山

 ある人(A氏、としよう)が、人も羨む立派な会社のやんごとなき地位を、B氏にオファーした。こともあろうにB氏は、それを丁寧に辞退した。
 憤懣やるかたない、とばかりにこの話を暴露するA氏に、私は感想を述べた。
  「そんな大変な仕事、彼はとてもじゃないけどできないと思ったんでしょ」
 一瞬ぽかんとした彼は、言葉の意味が前頭葉に伝わると、ようやく晴れ晴れとした表情になった。「そういうことだったのか。」
 A氏は、B氏が素晴らしい出世の機会をソデにするなんて、愚の骨頂か、紹介者である自分の顔を潰そうとする無礼者か、はたまたオレ様のことを信じない不届き者か、と、アサッテの理由でムカついていたのである。それが「できない」って、なんだ、しっぽを巻いて逃げるのか。なら仕方ない。

 例によって、マンモス狩りの発想である。目の前に現れたマンモスは狩るべし、が条件反射になっているA氏は、自分の周囲30メートル以内に、ましてや自分が目をかけたビジネスマンに、“正しい”条件反射をしない輩がいるとは思いもしない。
 おそらく、この傾向は今の50歳以上の役員クラス男性に顕著である。マンモス狩りの比喩はちょっと飽きたので、もう少し品のいい表現を借りてみよう。
  「オレの前に山があるから登るのだ」。
 エベレストでもK2でも、勝手に目指して勝手に登ってくれる分には何の近所迷惑にもならない。しかし彼らは、一定の地位に到達すると、自ら寝袋やアイゼンを選んで単独山頂を目指してはいけないことを、幸か不幸かよくわきまえている。
 そして、ヒマラヤ山脈よりもインド洋のモルジブでのんびり日光浴していたい部下を捕まえて、「おまえ、あの山が見えないのか?登りたくないか?登りたいだろう?登れ!!」とけしかける。

 誤解を避けるために言っておくが、私はマンモス狩りやエベレスト登山を否定しているわけでは、決してない。その達成意欲と能力のある人はどんどんやればいい。そして、同様の意欲と能力を(潜在的にでも)持っている後進を鼓舞してやらせるのも大いに結構。
 しかし、気持ちよく高尾山で涼んでいるB氏に対して、「そこまでの能力があるなら、どうして富士山を目指さないんだ!?」と強要するのは、None of your business。ましてや海好きな人を前に「なぜおまえには山の良さがわからないのだ?」と怒るのはおかどちがいというもの。

 50歳以上というのは、つまり「男女雇用機会均等法」施行前、女性という異分子が闖入する前の均一的ビジネス界を「アヒルの子」の時に「刷り込み」された最後の年代。そして役員というのは、平たく言えばビジネスの成功=人生の勝者、と思いがちな人種である。
 人生の価値観は人それぞれ、という地球の真理を忘れてはいけない。マンモスに食指を伸ばさない若輩を十把一絡げに叱咤するかわりに、うさぎやたぬきを追わせたり、狩りの後の宴の準備を頼んだり、あるいはいっそ干し肉作りに専念させたり。21世紀の経営者はより高度な舵取りを迫られているのだ。
by miltlumi | 2011-07-20 09:35 | マンモス系の生態 | Comments(0)
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