食い意地が張っているわけではないが、細かいことに拘る性格ゆえか、食べ物は常にしかるべきタイミング・熱さ(冷たさ)・量をいただくことを是としている。
先週の夜は約束が立て続いてほとんどうちで夕飯を食べなかった。今週はちゃんと料理しようと、スーパーで食材を選ぶ。普段めったに手にしないはんぺんが、どういうわけか私を呼んでいた。 夜。ホームパーティー用に仕入れたパルメザンチーズが残っているので、こしこしとおろす。愛しのはんぺんチーズ焼き。ご飯と同時に出来上がるよう、オーブントースターのタイマーは3分後にセットしよう。とそのとき、ベッドルームの鞄の中から携帯のくぐもった音。「仕事の話ですけど、今、ちょっといいですか?」 「あと7分」という電気釜の表示を横目で確かめてから、「…5分くらいなら」と低い声をだす。海外赴任した久しぶりの知り合いなのに、ご無沙汰の挨拶もしない。「あ、すみません、じゃあ後にしましょうか。でも、5分だけ」と言われ、結局10分かかってしまった。 トースターから出て3分たったはんぺんは、終日水分をとらずに空調の効いたオフィスでPCに向かっていた50代女性の午後6時の目尻のように、干乾びたしわが情けなく寄っていた。Sxxt。 Nさん。ごめんなさい。電話がそっけなかったのは、こういう事情なんです。でも、とても食べたかったんです、熱々のはんぺん。 先週行った、歌舞伎座近くの蕎麦屋。愛想のいい主人が、旬の野菜をカラリと揚げて個性的な器に盛って、熱々のタイミングで出してくれる。ところが、肝心の〆のせいろで問題が勃発した。私の葱と山葵だけが、他の5人の半分くらいしかない。突然口数が少なくなり、蕎麦とのバランスを慎重に計算しながらちょびちょび薬味を蕎麦ちょこに入れる。 そして2枚目。お盆に乗ったおかわりの薬味皿には、やはり量がまちまちな葱と山葵。一番多いお皿が来ますように。祈りも虚しく、またもや(どう客観的に見ても)一番少ない皿が私の前に置かれる。「も少し葱ください」と一言言えばよいのだが、初めてのお店でそんな図々しい要求をつきつけることはさすがに憚られる。筍天ぷらの余韻が一気に冷めてしまった。 食べ物に関する子供時代の一番の思い出は、デパ地下で母が買ってきてくれたたこ焼き。ソースと青海苔と鰹節と紅ショウガが最もふんだんにのっかっているヒーローたこ焼きは、パックの真ん中に位置する。半分だけソースをかぶった、端っ子の情けないたこ焼きから口に運び、最後までとっておいたヒーロー君をいただこうとした矢先、兄が横からかっさらって、ぱっくり口に入れてしまった。私のヒーローがっっ 思わず涙がこぼれる。泣き声を上げながら兄の背中をぼかすか殴る。けれど、彼の胃の腑に納まったたこ焼きは戻ってこない。 兄18歳、妹15歳のこのエピソードは、「たこ焼きで泣いた中学3年生」として、甥っ子にまで語り継がれている。
by miltlumi
| 2010-05-18 22:53
| 機嫌よく一人暮らし
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