入社2年目というのは微妙な年頃である。1年目は右も左もわからず、とにかく上司や先輩の言うことを細大漏らさず聞いて見よう見まね。それでもわけがわからなくなって、あせった新人が課長に向かって「先生!!」と叫び、周りの失笑を買う。よくある光景だった。
けれども2年目になると、自分の目前だけでなく、半径5mくらい周りが見えてくる。神業に見えていたチューターの一挙手一投足が、自分の射程距離に入る気がしてくる。格段に情報(消化)量が増えたことが嬉しくて、つい知ったかぶりをしたくなり、天の声だと思っていた上司の指示に疑問を持ち始める。 私もご他聞に漏れず、入社時は「なんて話のわかる人なんだろう」と思っていた配属先の課長について、2年目には「ちがうんじゃないの?」と思うことがまま起こるようになった。それが度重なって「うちの上司は使えない」なんて生意気な不満が頭に渦巻くようになる。 ある日、業を煮やした私は、カウンターパートにあたる部署のM室長に対して、いかに課長が使えないかを延々と訴えた。M室長は、役員の戦略スタッフ的役割を担う重鎮であるにも関わらず、偉ぶったところが全くなく、彼が怒ったところを見た人は誰もいないというような方。だから私もつい甘えて、上司の文句を打ち明けてしまったのだと思う。 大きな黒ぶち眼鏡の奥にある優しげな瞳で、いつものようににこにこ微笑みながら私の長話を聞いていた室長は、私の話が一区切りすると、いつものように穏やかな声で一言尋ねた。 「で、What can I do for you?」 …このストレートな6 wordsのインパクトは今でも忘れられない。この一言で、彼は社会人2年生の私に対して1時間の説教、いやそれ以上に相当する教訓を示唆してくれたのだ。 自分が直面している問題を単に問題として口にするだけでは、井戸端会議のおばさん達と大差ない。問題提起といえば聞こえがいいが、平たく言えば「文句」もしくは「愚痴」を垂れ流しているに過ぎない。いやしくも「仕事」をする人間は、問題を見つけたらその解決案を考えるべき。他人に話をするのは、解決策を考える際のアドバイスをもらいたいとき、あるいは考えた解決案の評定をしてもらうか、実行にあたっての協力要請をするとき。問題提起は、その解決案とパッケージでなければ単なる時間の無駄である。 問題を抱える自分の大変さを理解してもらいたいとか、落ち込んだ自分を慰めてもらいたいとかいう感情は、うちに帰って恋人か友達に暴露すればよい。 その後、M室長は米国子会社に赴任なさった。娘さんの病気治療の医師がその地にいるため、M氏の上司の計らいで赴任期間を延長していたと人づてに聞いたが、そろそろ彼も定年を迎える頃だろう。
by miltlumi
| 2010-05-09 20:39
| 忘れられない言葉
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