人気ブログランキング | 話題のタグを見る

いらいらしない

 VAIO PCのオプションでついていたMcAfeeウィルスソフトは、気が遠くなるほどだるい。ある日突然キーボードのインプットが停止したかと思うと、画面の右下の方で邪悪な赤い矢印がぐるぐる回っている。知り合いは「修行というか苦行」と言っていた。早くこのメール送信したいのに。早くAmazonでこの本買いたいのに。いらいらいらいら。腹立ち紛れにばんばんキーを叩いて、ソフトが止まったときに現れる意味不明の文字の羅列にまた腹を立てる。 
似たようなことは平日の通勤駅でも起こる。毎日几帳面に同じ時間に家を出て同じ電車に乗る人はともかく、そうでない場合や数分間隔でぼんぼん電車が来る路線の場合、ホームへの階段を降りつつあるときに発車のベルが聞こえると、反射的に駆け下りてしまう。運悪く鼻先でドアがしまると、つい「ちぇっ」と舌打ちをする。すごく損した気分になる。ぶつくさぶつくさぶつくさ。そして不貞腐れて3分後に来た次の電車に乗る。

 あるとき、どうして「損した気分」になるのか、何をしたいために3分早い電車に乗りたいのか、胸に手を当てて考えてみた。
①早く会社に着きたい。
②会社に着いて、早く仕事を始めたい。
③早く仕事を始めて、とっとと仕事を片づけたい。
④とっとと仕事を片づけて、早く家に帰りたい。
⑤家に帰って早く寝たい。
⑥早く寝て、早く起きたい …わけではなく、ただ少しでもたくさん寝たい。
 ここまで考え付いてようやく、階段を踏み外してずっころぶリスクを冒してまで3分早い電車に乗る意義のなさに気付いた。

 もしも「③9:30から始まる会議の資料を20部コピーをとらねばならない」とか「⑤23:00からのWBSを絶対観たい」とかいうなら、それなりにリスクテイクの意味はある。
 あるいは大多数の人は、単に「とにかく早くしたい」だけかもしれない。一種のゲーム感覚。ぎりぎりセーフで飛び乗れたら「勝った」と思う。その勝利の感覚、アドレナリン放出感が、負けた時のいらいら・ぶつくさを補って余りあるものだから、止められない。

 でも、「わけもなくいらいらする」「でもいらいらしたくない」という人は、一度上述のような分析をしてみてはいかがだろうか。大概は大した根拠のない思いこみ(心理学ではIrrational beliefと呼ぶ)に突き当たる。
 McAfeeが回り始めたら、いらいらする代わりに手近な書類を手にとる。いくつかのパラグラフを読み終わる頃には、さすがに矢印は消えているから、そのまま淡々とメールの続きを書き始める。電車を1本逃したら、夜ベッドで読むはずだった頁をホームで読むだけだもんね、と鞄から本を取り出す。
 かくして、日常生活は「いらいら」が極小化され、ネガティブなエネルギーを使うことなく、機嫌のいい時間ばかりになっていく。
by miltlumi | 2010-03-21 11:50 | 機嫌よく一人暮らし | Comments(0)
<< 結婚の条件 時差 >>